百人の物語 > (第7回)オセロの名人


オセロ史を飾った百人の名選手の物語
(第7回)オセロの名人


1. オセロ名人の横顔 (20世紀、不等式の理論)

2. オセロ名人の横顔 (21世紀、自由参加方式)

3. 現在のオセロ名人、88オセロ名人、グランドオセロ名人
21世紀になって初登場のグランドオセロ
88オセロ独特の戦略
グランドオセロ独特の戦略

4. 21世紀 第1回88オセロ名人決定戦第2回予告
オセロ第八世名人・坂口和大 対 オセロ第十一世名人・冨永健太(第1回)
第2回88オセロ名人戦予告(2003.9.21.日)

5. 第1回グランドオセロ名人決定戦第2回予告
オセロ名人・北島秀樹 対 88オセロ名人・冨永健太(2番勝負)
第2回グランドオセロ名人戦予告(2003.10.5.日)

6. 第24期オセロ名人戦(2003.3.22)と次回予告(2004.3.27)
☆世界的視野から見た権威ある4つのオセロ大会
(1) 春、 オセロ名人戦(日本)
(2) 夏、 全日本オセロ選手権大会(日本)
(3) パリ・国際オープンオセロ大会(フランス)
(4) 秋、 世界オセロ選手権大会(各国持ち回り)
☆第24期オセロ名人戦本戦出場者(2003.3.22)
A. 女子、マスター、中学生、小学生の部
B. 無差別の部117名
特選3局(村上−末国,坂口−末国,北島−村上)
特選1(村上健 対 末国誠戦)からの問題提起

7. オセロ名人戦の設立(20世紀、不等式の理論)
A. 名人の語源と名人の権威
B. オセロ名人戦設立の要望
C. 第1期オセロ名人戦(1980.3.30)
  躍り出た新鋭・岩崎、河村!
第1期オセロ名人決定戦(1番勝負.持時間各30分)
実戦1序盤戦の急処の局面
実戦2白やや苦戦、どうする?
  河村末告名人の誕生(史上最強の男)
D. 名人(史上最強)と不等式の理論



オセロの名人

1.オセロ名人の横顔 (20世紀、不等式の理論)

第一世名人
1980.3.30〜1983.4.3
第二世名人
1983.4.3〜1984.4.1
第三世名人
1983.4.1〜1987.4.5
第四世名人
1987.4.5〜1988.4.3
河村 末告 長谷川 武 石井 健一 滝沢 信行
 
第五世名人
1988.4.3〜1991.4.7
第六世名人
1991.4.7〜1993.4.4
第七世名人
1993.4.4〜1995.4.2
第八世名人
1995.4.2〜1996.4.7
為則 英司 手塚 博久 末国 誠
(2003.3.22〜______)
坂口 和大
(2000.4.9〜2001.5.6)
 
第九世名人
1996.4.7〜1997.4.6
第十世名人
1997.4.6〜1999.4.4
第十一世名人
1999.4.4〜2000.4.9
滝沢 雅樹 中島 哲也 冨永 健太
 
2.オセロ名人の横顔 (21世紀、自由参加方式)

第十二世名人
2001.5.6〜2002.3.3
第十三世名人
2002.3.3〜2003.3.22
初代女流名人
2002.3.3〜2003.3.22
女流名人
2003.3.22〜____._.__
       
村上 健 北島 秀樹 大柳 真咲 山中 真美
 
3.現在のオセロ名人、88オセロ名人、グランドオセロ名人

名人 末国 誠 八段 (2003.3.22〜 ) グランドスラム(少年少女、名人、全日本、世界)を達成した唯1人の男
 女流名人 山中 真美 五段 (2003.3.22〜 ) 全日本女子も3度制した実力者
エイティーエイト
 88オセロ、グランドオセロ名人 冨永 健太 七段 (2002.4.13〜 )
 88オセロ、グランドオセロ女流名人 大柳 真咲 五段 (2002.4.13〜 )

 21世紀になって、グランドオセロが初登場しました。オセロでは、盤が1路増減すると、変化はその3乗に比例して増減すると言われています。オセロは64個の石を使ってプレイしますがグランドオセロは、盤を一気に2路増やして何と100個の石を使ってプレイします。
 オセロが100メートル競争なら、88オセロは400メートル障害物競争、グランドオセロは42,195メートルを走るマラソンです。三者共、同じオセロですから、スタートの位置、ボックス(4つの点で囲まれた区画)内の定石(鼠・牛・虎・兎等)は同じですし、基本的な戦術(壁は作るな、☆(ホシ)を狙え、X(エックス)打ちは危険等)も共通ですが、ボックスを出てからの戦略は異なります。
 88オセロは、☆が8個あり、短い8つの辺(6区画と3区画)、特有のB打ち(好手にも悪手にもなる)、16個もあるX(エックス)打ち等をめぐる中終盤の手に汗を握る攻防戦は、88オセロ独特のスリルとサスペンスに満ちた面白さです(オセロの勝ち方P279〜280、村上健−北島秀樹戦他)。

 グランドオセロの戦略も独特のものです。100分の1秒(例.9秒88)を競う100メートル競争に対し、道中の長いマラソンでは、周囲を見ての仕掛けの時期や給水の取り方も重要な戦略です。闘牛定石では、5手目で早くもボックス外に飛び出し、その瞬間オセロでは対局者双方にさっと緊張感がただよいます(牛の角一突きでアウトの可能性!)が、これがグランドオセロの場合だと5手目のボックス外への飛び出しは、これから始まる長い道中のほんの序幕に過ぎません(黒5は、まだ中辺に出ていません!)。
 グランドオセロの最大の魅力は、なんといっても雄大にして豪快なその中終盤戦です。象の大群がどっと押し寄せてくるような中盤戦は圧巻です。アラビアンナイトのアラジンの魔法のランプでは、前日迄あった宮殿が一夜明ければ跡形もなく消えていましたが、終盤で時によると1手で20石以上の石を返して局面も形勢も一変させてしまった時の爽快感はグランドオセロならではのものです。

……オリンピックでは、100メートル(短距離)、5000メートル、1万メートル(中距離)、マラソン(長距離)はそれぞれの専門選手がいて、世界最速の男とは、オリンピック100メートル優勝者のことを指します。人間機関車といわれたザトベック(チェコ)が、5000、1万メートルと連覇した後、最終日のマラソン出場も宣言した時、「マラソンにはその専門選手がいる。ザトベックが勝てる筈がない!」と新聞は異口同音に書き立てましたが、結果はザトベックはマラソンでも楽勝しました。ただし、これは例外で古今東西、100メートル優勝者が1万メートルやマラソンで優勝した例はありません。
 しかし、オセロでは、88オセロやグランドオセロを制しているのは全部オセロ名人達です。



4.21世紀第1回88オセロ名人決定戦第2回予告

88オセロ名人決定戦(2002.4.13)
【虎4】
 オセロ第八世名人 坂口和大 27
 オセロ第十一世名人 冨永健太 61

 3連勝同士の激突(持時間各25分)坂口氏は(末国誠、下之園広蔵、佐藤智之氏)、冨永氏は(浦悟、表寺修、高島亮嗣氏)に勝って、共に決定戦に進出。
 オセロ小学生名人・石井宏和君(小5)は無差別の部で健闘し16位は立派!
 女子の部では、オセロ女流名人の大柳真咲さんが、5戦全勝で優勝し、女流名人2冠。

【寸評】
 黒49と初めてC打ちしたそのチャンスをとらえて、冨永氏は白50と初めてX打ちして総攻撃開始!
 何しろ、88オセロでは、X打ちする場所が16ヶ所もあり、辺も☆も8個あり、そこからの両名人のヘビー級の打撃戦は見応え充分。並べて鑑賞してください。

第2回88オセロ名人戦予告(日時 2003.9.21(日)10:00〜16:00)
1. 参加資格 … どなたでもどうぞ
2. 参加費 … 大人1000円、中学生以下500円
3. 優勝 … デラックスオセロ(35,000円の品) 2位 … グランドオセロ
4. 場所 … (株)パルボックス本社(〒111-0041 東京都台東区元浅草3-1-3)
5. 主催 … 日本オセロ連盟、後援 … (株)パルボックス
6. 問い合わせ … 日本オセロ連盟事務局(TEL 03-3843-7611平倉)



5.第1回グランドオセロ名人決定戦第2回予告

初代グランドオセロ名人決定2番
勝負第1局 (2002.4.13) 【兎1】
 88オセロ名人 冨永健太 78
 オセロ名人 北島秀樹 22
(持時間各30分。2局目も
冨永氏64対46で勝つ)

 現役のオセロ名人と現役の88オセロ名人によるグランドオセロ真剣2番勝負は、88オセロ名人のストレート勝になりましたが、いろいろな意味で周囲から注目されました。
 100メートル王者と5000メートル王者がマラソンを競えば、5000メートル王者が勝つのは陸上競技の常識ですが、では、100メートル王者と400メートル障害物競争の王者がマラソンを競えばどちらが勝つかの問いに対する答えは「やってみなければ解らない」です。
 グランドオセロは、21世紀に生まれ、これから大きく羽ばたいて行く大型のオセロゲームです。

第2回グランドオセロ名人戦予告(日時 2003.10.5(日)10:00〜16:00)
1. 参加資格 … どなたでもどうぞ
2. 参加費 … 大人1000円、中学生以下500円
3. 優勝 … デラックスオセロ(35,000円の品) 2位 … グランドオセロ
4. 場所 … (株)パルボックス本社(〒111-0041 東京都台東区元浅草3-1-3)
5. 主催 … 日本オセロ連盟、後援 … (株)パルボックス
6. 問い合わせ … 日本オセロ連盟事務局(TEL 03-3843-7611平倉)

…デラックスオセロ(35,000円)とは、打ち心地世界最高の定評のあるオセロ。グランドオセロ(2位賞品)とは、打ち心地抜群で、1台でグランドオセロ、88オセロ、オセロ全部が出来る新製品。



6.24期オセロ名人戦(2003.3.22)と次回予告(2004.3.27)

☆世界的視野で、手をかざして、世界のオセロ界を1年を通して眺めてみると、その権威、伝統、大会規模の大きさからいって、次の4つのオセロ大会をあげることができます。

(1).  春、オセロ名人戦(日本)。2003.3.22に開催された第24期オセロ名人戦無差別の部本戦出場者は117名、優勝するための必要かつ十分条件は本戦7戦全勝(129名以上なら8戦全勝)という厳しい関門をクリアした末国誠名人は、秋の世界オセロ選手権大会日本代表(枠(わく)は3人)として出場決定。
 女子の部で優勝した山中真美女流名人は、2003.8.3に、全日本女子チャンピオンと世界選手権日本代表決定戦を行います(3番勝負)。
 当日、無差別の部(本家日本の大会は世界の注目の的!)の会場には、現世界チャンピオンのデイビッド・シェイマン氏(弁護士.オランダ)や丸岡秀範八段(第2,5代世界チャンピオン.外科医師)も見学に来ていました。

(2).  夏、全日本オセロ選手権大会(日本)。世界最古の伝統を誇り、20世紀の或る時期には、全日本チャンピオン≒世界チャンピオンといわれていました。2003.8.2に第31回大会が開催され、無差別の部優勝者(全日本チャンピオン)は、即・世界大会日本代表となります。

(3).  ヨーロッパオセログランプリ(パリ国際オープン)は、ケンブリッジ(イギリス)、コペンハーゲン(デンマーク)、ローマ(イタリア)、ブラッセル(ベルギー)と続くオセロ大会の総決算の権威ある大会で、毎年9月上旬頃2日かけて11局打ち、上位2人による3番勝負でその年のチャンピオンを決めます。今年は開催20回目で、各国選手はこの大会を通じてコンディションを整えて秋の世界大会に臨みます。昨年の世界大会では、このパリオープン優勝者に全日本チャンピオンも名人も計3戦して3敗してしまいました。今では、ヨーロッパオセログランプリ(パリ国際オープン)は、各国選手にとっては世界大会に次ぐ内容充実のオセロ大会です。

(4).  1年の取りを占めるのが11月初め頃開催される世界のオセロファン待望の世界オセロ選手権大会です。このオセロのオリンピックは、毎年世界各国持ち回りで開催され、21世紀最初の世界大会は、世界オセロ連盟があるニューヨークで開催され、昨年の第26回世界オセロ選手権大会(この百人物語第1回で詳述)はオランダのアムステルダムで盛大に行われました。
 日本で開催された世界オセロ選手権大会は、第1回、第10回、第20回で、次の日本開催は第30回(2006年)、その次は第40回(2016年)の予定です。
 今年の第27回世界オセロ選手権大会はスウェーデンのストックホルムで開催されます。その速報は日本オセロ連盟HP上に載り、オセロニュース80号に全戦跡が掲載されますが、百人物語では2003.12.1記で末国誠名人ら日本代表3選手の活躍を特選譜の形式で取り上げる予定です。


☆第24期オセロ名人戦本戦出場者(2003.3.22)
  A.女子、マスター、中学生、小学生の部

 外国で行われている総てのオセロ大会は、現在の最強者は誰かを決める大会で、そこに少年少女や年輩者、女性の活躍する余地は殆どなく、壮年男子一色の大会です。
 しかし、柔道でも、男子の部、女子の部に分け、その上に体重制を採用することによって初めて女子柔道のやわらちゃん(田村選手.48キロ級)の大活躍があったのです。オセロ名人戦に初めて部門制を採用したのは21世紀の幕開けと同時の第22期からで、石井宏和君は初代小学生名人になり、今回も連覇(副賞のデラックスオセロも獲得)、東京都教育委員会からも表彰という素晴らしい思い出を作って、この4月、中学生になりました。
 中学生名人高崎悠太朗君は、オセロ大会30年の歴史の中で、高崎禎夫氏(祖父)、高崎良平氏(父)と共に親、子、孫3代入賞という輝かしい実績を残して高校生になりました。
 マスターの部とは40才以上が出場資格。上記石井君、高崎君は名人にもなってその10日後にはその部門を卒業してしまいましたが、マスターの部では入学はあっても卒業はなく、将来、親子同時出場同時名人も夢ではありません。この部門初出場初優勝して、マスター名人、四段位を獲得した東條淳氏は「40才の新人」と題して喜びを語りました。
 女子の部では山中真美五段が佐野洋子五段を破って初優勝。「解けない不等式!山中>佐野>大柳>山中…この解けない不等式の連鎖が過去10年間の全日本選手権女子の部で、この3人に7回も栄光を分け与えてきました。21世紀に入って玉家琴江、木下央子両五段に一歩譲った形になったものの、今大会では上記3強の健在ぶりを披露してくれました。今回もこの不等式は見事に的中!」と岩崎匡明五段は語っております。どの部門にもそこにはドラマがありました。

女子の部

中学生の部

マスターの部

小学生の部
(2003.3.20)
 上記4部門の全戦跡、優勝者の喜びの言葉、決勝戦・佐野洋子−山中真美、東條淳−表寺修、高崎 悠太朗−斉藤恵太、永井真−石井宏和の棋譜とその解説(滝沢雅樹八段、岩崎匡明五段による)はオセロニュース第78号。


  B.無差別の部117名 (2003.3.22)

順位 名 前 資 格 石数
末国 誠 七世名人 168
村上 健 十二世名人 140
坂口 和大 八世名人 132
冨永 健太 十一世名人 130
後藤 宏 六段 114
 名人・北島秀樹、全日本チャンピオン駒野達也、全日本女子チャンピオン・木下央子(昨年秋の世界大会の3人の日本代表)という現役チャンピオンをはじめ、歴代の名人、全日本チャンピオン、世界チャンピオン達も続々参加の117名が、1つの部屋で全員同時に対局時計を使いながら、煙草のけむり1つない澄んだ空気の中で迫力満点に打つ世界一のマンモスオセロ大会!それが第21期から自由参加方式になった名人戦無差別の光景で、21期は無差別1部門で出場者計98名全員の記念写真は「オセロの勝ち方P118」に載ってますが、その時は1位坂口和大、2位北島秀樹。第22期は1位村上健、2位後藤宏。第23期は1位北島秀樹、2位長尾広人。そして今回(第24期)のベスト5は上記の表で、名人戦では歴代名人の強さが光ってます。ここでは上位独占の歴代名人同士の熱戦譜特選3局(村上−末国、坂口−末国、北島−村上)を示します。

特選1【虎2】

黒 村上健(十二世名人) 31
白 末国誠(七世名人) 33
特選2【兎1】

黒 坂口和大(八世名人) 31
白 末国誠(七世名人) 33
特選3【闘牛】

黒 北島秀樹(名人) 31
白 村上健(十二世名人) 33


特選1(村上健 対 末国誠戦)からの問題提起
白48手迄の局面
(実戦原図)  黒番


 両氏とも、名人、全日本、世界チャンピオン経験者だけに、内容の濃い戦いとなりました。オセロでは、15手迄が序盤戦、16手〜40手迄が中盤戦、41手〜60手迄が終盤戦ですが、実戦黒41と打った時点では形勢は全く互角(引き分けの形勢)でした。
 X(エックス)打ちの謎!末国七世名人の打った白42のX打ちは方向が逆で12石損(正解は右下のX打ち)で、この1手で白必敗の形勢になってしまいました。それから6手進行したのが実戦原図で、白の不利は覆(おお)うべくもなく、しかも黒を持つのが読みの村上とあっては、白は殆ど絶望といってよい形勢です。
 もし、実戦原図から、最もシンプルに☆(ホシ)打ちすれば(下に示した正解1〜3図)、ここで黒の勝は確定したのでした。

実戦原図からの正解手順
(1図)最もシンプルな☆打ち!
(2図)最強の抵抗!
(3図)再び☆打ち!黒必勝

3図では、☆1,☆2が黒の余裕手であり、黒必勝でした(10石勝ち)。

実戦原図から実戦で打った手。12石損の大悪手!逆転!!

 ニックネームがつくのは、超一流選手の勲章といわれています。実戦原図から、定評のある読みの村上の読みを狂わせたのは終盤の魔術師末国の魔術だったのです。実戦原図は実質的には左下☆か右上に打つかの2つの手しかない易(やさ)しい局面で、相手が末国でなかったら、村上は絶対に間違わなかったでしょう。実戦原図で、偶数理論に従えばですが、これは明らかに読みの放棄であり、“読みの村上”の手ではありません。
 一方、“末国の魔術”は、ギリシャアテネで行われた世界オセロ選手権決勝、対イギリスのブライトウェル博士戦の劇的な逆転が印象的ですが、今回も際どく勝って、不等式の理論時代の名人に続いて、自由参加方式の名人になりました。秋の世界選手権での大活躍を期待しています。



7.オセロ名人戦の設立(20世紀、不等式の理論)

 A.名人の語源と名人の権威
 名人の語源は、織田信長が囲碁の達人・日海(にっかい)に、「汝(なんじ)は名人なり」といったのが始まりだとされています。日海は、その後、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康3代に仕え、江戸幕府は囲碁と将棋の家所を作ってそれに手厚い保護を加えて、その最高技量者に名人という最高の称号を与えましたが、その時初代囲碁名人になったのが日海(本因坊算砂)でした。将棋の初代名人は大橋宗桂です。
 名人はその人個人に与えられる絶対的権威の象徴で、終生のものでしたので、江戸時代300年を通じて名人を名乗った人の数は多くありませんが、それだけに名人という言葉は庶民の間に尊敬と親しみをもって受け入れられてきました。
 現在の名人位はタイトルの称号で、名人戦は将棋は1937年、囲碁は1962年、オセロでは1980年から行われています。

 B.オセロ名人戦設立の要望
 「百人物語第6回」では全日本9回、世界5回迄書きましたが、2年程さかのぼって第7回全日本、第3回世界が終わった時点(1979.11.初旬)で、オセロ名人戦という新棋戦を是非作ってほしいという要望がファンの間から自然に起ってきました。要旨は次の2つです。

(1).  毎年5月頃から各地で予選が始まり、その総決算の全日本選手権大会が8月、その延長の世界大会が10月末に終わると、11月から翌年4月迄何もない。その間にもう1つ大棋戦がほしい。

(2).  “史上最強のオセラーは誰か?”というタイトル戦(それを名人戦と名づける)を作り、持時間も長くして、オセロ特有の偶数局(これが最も公平)で決める。
 日本がオセロで世界最強なのは解った。全日本チャンピオン=世界チャンピオン(3度とも)である。しかし、今迄7回行われた全日本オセロ選手権大会では、全部チャンピオンは変わったし、前年度チャンピオンが決勝迄勝ち上がったことすらないし、2人の世界(全日本)チャンピオンの井上−丸岡戦も1度も実現していない。


 C.第1期オセロ名人戦 (1980.3.30)
 “史上最強のオセラーは誰か?”を決める第1期オセロ名人戦には、少なくとも歴代世界チャンピオン全員参加が望ましく、実際もそうなりました。現役の世界(全日本)チャンピオン・井上博八段をシード、全国を8ブロックに分けて各地で予選を行い、代表1人を選出して計9人によって争われることになり、北陸では前年度世界チャンピオン丸岡秀範氏が優勝・代表となり、これで条件は総て整いました。

地区 年令 順位
北海道 19 河村 末告
中部 22 岩崎 匡明
東北 18 三村 卓也
シード 31 井上 博
中四国 43 加藤 明久
(aリーグ)
t01.png
地区 年令 順位
北陸 18 丸岡 秀範
九州 32 辛島 純雄 1.5 1.5
関東 27 岡田 三男
関西 14 上田 亘 0.5 2.5
(bリーグ)

☆第1期オセロ名人決定戦
1番勝負.持時間各30分
【牛.白8ヨット避け】

黒 三段 河村末告 46
白 三段 岩崎匡明 18
(1980.3.30)
☆ 躍り出た新鋭・岩崎、河村!
 1977.8.9年は、全日本も世界も井上・丸岡時代で、優勝は両氏のどちらかで独占。それが年が明けて1980年春に行われた第1期オセロ名人決定戦では、静岡の岩崎三段は、現世界チャンピオンの井上博八段を破り(前年夏の全日本選手権準決勝のお返し)、続く準決勝では丸岡六段も下して破竹の勢いで決勝進出!
 19才の北大生、河村三段はスルスルとした感じで、唯1人無傷のまま決勝進出です。
 決勝は今回に限り1番勝負(2期目からは挑戦者との4番勝負)で、岩崎三段にとっては、これはまたとない絶好のチャンスです。予選リーグで、岩崎氏は河村氏に敗れていますが、もし本局に勝ちさえすれば、対河村戦1勝1敗でも、堂々と初代オセロ名人になれる! 「緒戦で河村君に負けたが、その後、現在と前年の世界チャンピオンを次々に打ち取って、エンジンフル回転になった今の俺に怖いものなんかある筈がない!!」

実戦1は?
実戦1 序盤戦の急処の局面! 
 黒11(e8)が河村新手! 新手に出会った時は誰でも緊張しますが、実はそこが勝負処なのです。
 冷静に 実戦1の局面を見れば、黒の意図は中割り(黒d7)であるのを見抜くことはそれ程難事ではありません。ゆえに、その筋を消して打つべき(正解1図)で、それなら互角の形勢に推移したでしょう(正解2,3図)。

(正解1図) 黒アを消す!
(正解2図) 1石返し
(正解3図) 形勢互角

…実戦は(g5)と打ったため、すかさず黒アと中割りされて、早くも白打ちづらい局面になってしまいました。

実戦2は?
実戦2 白やや苦戦、どうする? 
 苦戦でも、最善手を打ち続ければ容易に崩(くず)れないのがオセロです。“待てば海路の日和(ひより)あり”で、そのうち相手が1手でも悪手を打ってくれば、そこで一気にチャンスをつかむことができます。
 ここでは、強くと打って出たい(正解1図)! 以下の進行が想定されますが白は充分に頑張れます。もし、の時、黒アなら、白Aと右辺2手打ち(手得)(てどく)して、黒に手を渡して黒から動くよう催促する(Cが白の余裕手であり、白も打てる形勢)。

(正解1図) 強気に打つ!
(正解2図) 当然の応酬
(正解3図) 天王山に打つ!

[実戦3] 白イに期待した大技!
[実戦4] 狙いを消されて白アウト!

 苦戦の時、悪手を打ったらどうなるのか?
 それは“弱り目に祟(たた)り目”で一発でアウトになってしまいます。実戦は、次の白イが狙いだったのでしょうが、その手自体は壁作りの手で、しかも肝心の白イの狙いをヒョイと外されて、ここで白は進退きわまりました。


 ☆ 河村末告名人の誕生(史上最強の男)

 名人決定戦は、河村氏のKO勝ち。予選リーグ、決勝トーナメントを全勝、予選リーグでは現世界(全日本)チャンピオンの井上八段を破り、前年の世界チャンピオン丸岡秀範六段とは直接当たらなかったが、決勝トーナメントで丸岡六段に圧勝した岩崎匡明三段には予選リーグ、決勝と2度戦って2連勝、ここに自他共に許すオセロ史上最強の男・河村末告青年名人(19才.北大生)が誕生しました。


河村末告名人

岩崎匡明氏
 “大勝負に名局なし”とよくいわれてますが、名人決定の大一番は岩崎氏にとって不本意の一局だったでしょう。しかし、闘志余って暴走してしまった等は、いかにも人間味溢れた手で親しみを感じます。

 D.名人(史上最強)と不等式の理論
 翌年(1981.4.19)、挑戦者となって現れた岡田三男三段を下し、その翌年(1982.4.4)には現役の世界チャンピオン丸岡秀範八段が挑戦者でしたが、4番勝負で河村名人が勝ち3連覇達成。特に第1期で当たらなかった丸岡氏を4番勝負の直接対決で下してここに名人=史上最強者の不等式の理論が定着したのでした。



(2003.7.1 長谷川五郎 記)



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