百人の物語 > (第15回)天下分け目の決戦となった第19回世界オセロ選手権決勝


オセロ史を飾った百人の名選手の物語
(第15回) 天下分け目の決戦となった第19回世界オセロ選手権決勝
パワフル
鉄腕・シェイマン(アメリカ)対鬼神・為則の一騎打ち!



1. 1995年(平成7年)のオセロ名人戦、全日本選手権、世界選手権

A. 春、第16期オセロ名人戦、坂口和大新名人の誕生!(4月5日(日)
挑戦者選出大会で坂口六段が初優勝(3月26日(日)於新宿・宇宙(コスモ)
第16期オセロ名人決定4番勝負(1995.4.2.宇宙)
余裕しゃくしゃく、史上タイ記録の3連覇を狙う末國誠名人!
勢いに乗って驀進(ばくしん)する猛牛(挑戦者)が行く手のライオンを倒すか?
第1局、第2局、第3局 何とストレート勝で坂口新名人の誕生!
美学の坂口は冒険を好む!(第3局、勝負手のX打ち
“史上最強の男”と銘打って華々しく始まった名人戦の危機!

B. 夏、第23回全日本オセロ選手権大会、鬼神・為則の復活!
坂口名人僅かに及ばず!(1995年7月30日.日曜.於中野サンプラザ)
無差別の部(出場64人)のベスト8一覧(1995.7.30)
無差別の部特選譜(第23回全日本選手権 1995.7.30)
決勝(為則英司 対 坂口和大)、準決勝(為則 対 手塚、坂口 対 東)
準決勝(滝沢 対 為則、金田 対 坂口)
決勝の終盤…白(坂口)は余裕手の放出時期を誤った!

C. 秋、第19回世界オセロ選手権大会(オーストラリア・メルボルン 1995年11月16日〜18日)
特選13局(左の名が先番)
I. 予選リーグ特選(持時間各30分)
1回戦(カスパール対タステ)、2回戦(タステ対為則)
4回戦(山中対シェイマン)、5回戦(為則対シェイマン)
7回戦(為則対パーソンズ)……11月16日
10回戦(シェイマン対タステ)、12回戦(フェルドボーグ対為則)
13回戦(為則対カスパール)……11月17日
II. 準決勝3番勝負特選(持時間各40分)
1回局(カスパール対為則)、2回局(為則対カスパール)
3回局(峯対シェイマン)
決勝3番勝負(持時間各40分)……1995年11月18日
第1局(D.シェイマン対為則英司)、第2局(為則対シェイマン)
“史上最強の男”鬼神・為則の底力、悠然と5回目の世界完全制覇!
I. 12勝1敗(1位)で予選通過!タステ、シェイマン、フェルドボーグ、カスパールに勝つ
II. 決勝トーナメント(持時間各40分3番勝負)は強い者が勝つ!
III. 天下分け目の決勝3番勝負!
パワフル
鉄腕・シェイマン対鬼神・為則の一騎打ち!
勝因となった為則の気合満点のX打ち!

2. オセロ最近の話題
予告…第25期オセロ名人戦




(第15回) 天下分け目の決戦となった第19回世界オセロ選手権決勝
パワフル
鉄腕・シェイマン(アメリカ)対鬼神・為則の一騎打ち!


1. 1995年(平成7)のオセロ名人戦、全日本選手権、世界選手権

A. 春、第16期オセロ名人戦、坂口和大新名人の誕生!(4月2日、(日)

挑戦者選出大会は、3月26日(日)に全国の地区オセロ名人とシードの全日本(世界)チャンピオン・滝沢雅樹七段、計16人の選手によって戦われました。



 上記ベスト4に入れなかった地区名人には、川手正之(15才、東海、四段、全日本少年少女チャンピオン・中3)、井上文親(47才、中部、三段、1993年の全日本マスターチャンピオン)、後藤宏(21才、北関東、五段。2004.3.1現在の全日本チャンピオン)等もいました。
 世界(全日本)チャンピオン・滝沢対前々年(1992年度)の全日本チャンピオン・坂口の決勝戦は、期待通りの大熱戦になりましたが、坂口が競り勝って初の挑戦権を獲得!これで坂口は勢いに乗った!!

☆第16期オセロ名人決定4番勝負(1995年4月2日、日曜、於新宿・宇宙(コスモ)

 “地位が人を作る”といわれていますが、名人3期目を迎える末國誠名人は、弱冠17才ながら既に名人の貫禄も充分で、正月恒例のオセロ王座戦(12回、1995年1月3日、於新宿・宇宙)では、直近の3人の全日本チャンピオン・滝沢雅樹(現)、滝沢信行(前年)、坂口和大(前々年)を破って優勝、王座のタイトルも獲得して余裕しゃくしゃくで、史上タイ記録となる名人3連覇を狙う!

挑戦者・坂口(左)と名人・末國
試合開始に先立って、まず握手!

 一方、挑戦者として初登場の坂口六段は百戦錬磨27才の打ち盛り、美学の坂口として知られ、特に勢いに乗った時の強さは天下一品、驀進(ばくしん)する猛牛が行く手のライオンさえも一蹴してしまう様に誰も手がつけられません。その坂口が今、勢いに乗っている!これは面白いぞ!

 当日の会場には多くのファンが観戦に来ました。筆者も最初から観戦。名手同士が心魂を傾けてじっくり時間をかけて(全日本決勝は20分ずつの持時間の1番勝負、名人決定戦は30分ずつの持時間の4番勝負)打つ白熱の勝負を連続4局も直(じか)に観戦できる!

 しかし、現実は意外なドラマ展開となりました。ダイナミックに先行し、華麗に舞いながら鋭い攻撃を加えて、時間攻めもする坂口オセロの前に、流石の末國名人も防戦一方になってしまい、終に一矢も報いることもなしに土俵を割ってしまいました。時間攻めの中では、“終盤の魔術師”の魔術も出しようがありませんでした。3局終了後、立会人の村上健五段が「強い!!」と唸(うな)った一言が総てを物語っています。


第1局兔1

第2局闘牛

第3局虎3
挑戦者 坂口和大 35
名人 末國 誠 29

(残り、黒7分11秒、白18秒)
末國 誠 18
坂口和大 46

(残り、黒17秒、白12分21秒)
坂口和大 40
末國 誠 24

(残り、黒1分40秒、白1分6秒)

(1図)
第3局
は? 
美学の坂口は冒険を好む!

 1図は左方は白壁、右方は白ウイング(悪形)なので黒優勢ですが、では黒が具体的にどう打つべきかは難しい局面。ここで坂口六段が長考して打ったのは危険覚悟のX打ち(2図)!当然(?)の反撃には断固X打ちで応戦!黒石はホワイトライン(☆と☆1を結ぶ線)上に綺麗に並んで、しかも鉄壁の構え!黒の優勢は疑いなし。
 (2図)実戦
 勝負手のX打ち!
 (3図)黒の読み筋通りの進行  (4図)坂口美学の実現!
 ホワイトライン上に美しく並
 んだ黒石




 (1図からの)
 (正解図)最善手!
 (正解2図)最善手の応酬  (正解3図)黒確実に優勢!




 4図と正解3図はどちらも黒優勢(黒10石リード)ですが、1図で長考の末、美学の坂口が選んだのは4図の方でした。但し、2図から4図に至る実戦の進行は最善ではなく、(6石損の悪手)を右上X打ちしていれば実戦の勝敗はどうなっていたか解りません。しかし、この右上X打ちの手に、対局者双方気づきませんでした。X打ちの謎!
 史上最強の第8番目の男・坂口和大新名人の誕生!敗れた末國前名人はまだ17才の若さ、今後に期待(その後の大活躍は歴史が示す通り)!

“史上最強の男”と銘打って華々しく始まった名人戦の危機!

 “十年一昔”といいますが、このスピードの現代では10年も経てば、当然情勢も変化します。群雄割拠の津波は日本オセロ界そして世界オセロ界を一気に席巻(せっけん)(1991年春)しました。その時から現在(2004年3月1日)迄、全日本オセロ選手権、世界オセロ選手権は13回ずつ開催されていますが全日本チャンピオン、世界チャンピオンは毎年変わり続けております。現在(2004.3.1)の全日本チャンピオン・後藤宏七段、世界チャンピオン・俊英ベン・シーリー(アメリカ、20才、学生)は、いずれも初優勝者。

 春の名人戦優勝者がその勢いに乗って夏の全日本選手権、秋の世界選手権も次々と制覇(1988年)し、その翌年の名人(第10期)も全日本、世界を制覇(1989年)、その次の年の名人(第11期)も同様だった(1990年)鬼神・為則時代は既に歴史上のこと。1991年夏の全日本選手権無差別の部では、何と時の名人がベスト16に入れず(予選落ち)!1回だけなら番狂わせで済みますが、1992年夏の第20回全日本選手権でも同様(現名人ベスト16入り成らず)、1993年の全日本でも同様、1994年の全日本でも同様!こうなればもう事件です。しかも、その間、全日本選手権の舞台で直接、間接に現名人を破った4人の全日本チャンピオンは、世界選手権で戦って2人は優勝、2人は優勝できず(決勝3番勝負の檜舞台にさえ上がれなかった)!

 「名人=“史上最強の男”の時代は終っている。2年も連続してフランスやアメリカの選手が世界チャンピオンになっているのに、日本国内棋戦の1つである名人戦が“史上最強の男”と銘打つのは理屈に会わない。“日本史上最強の男”に訂正すべきだ。少なくとも毎年、時の全日本チャンピオンは必ず名人戦に参加しているんだからね。」

『物事の一面だけを見て早急に結論を出すのは危険である。土俵が違うんだ!全日本選手権は北海道から九州迄の代表選手が一堂に会して(無差別の部の定員は64名)、それが僅か1日でチャンピオンを決めなければならないという制約があるので、持時間も短く(20分ずつ)、決勝も含めて1番勝負の連続でどの時点でも1局負けたらそこでアウト!だから、今迄も現役の世界チャンピオンや名人が唯1回負けただけで予選落ちした例はざらだ。

 全日本選手権は、少年少女の部、女子の部、マスターの部(40才以上)も同時開催して広い階層のオセロファンを育てている他に類のない大会だ。全日本チャンピオンの金田繁(1991)、坂口和大(1992)、滝沢信行(1993)、滝沢雅樹(1994〜現)や、今回名人戦で好勝負を演じた末國誠、坂口和大も皆この少年少女の部で大活躍した選手達だ。

 日本はオセロ発祥の地であり、オセロ最強国だ。今迄18回行われている世界オセロ選手権で日本代表は14回優勝し、現在(1995年4月)の世界チャンピオンも日本の滝沢雅樹八段。世界チャンピオンの座が1回や2回外国に移っても、大局的見地から見れば、日本オセロ最強は明らかだ。その世界最強の男・滝沢雅樹世界チャンピオンを破って名人挑戦権を獲得した坂口和大が名人末國誠を破竹の3連勝で下して、不等式の理論によって“史上最強の男”・名人になった。名人は“史上最強の男”になったという名誉に満足し、世界大会出場権はない。もし、名人が世界大会出場を希望すれば、夏の全日本選手権大会(世界大会日本代表選考会)に出場して優勝しなければならない。今迄もそうした経過をたどって、現役の名人が世界選手権大会に出場したことは何回かあるが100%の確率で名人が優勝している。

 今の勢いなら名人坂口の驀進を止められるオセラーはいないから、夏の全日本選手権坂口優勝は確実だ。秋の世界選手権でも優勝して、現名人が“史上最強の男”なのを現実に証明すれば雑音はピタリと止む。こうなれば坂口は名人戦も3連覇するだろうし…』

「ちょっと待った!話が飛躍し過ぎる!坂口の夏の全日本大会優勝説には異論はない。きっとそうなるだろう。しかし、世界選手権は全く別の舞台だ。世界チャンピオンになった金田繁も予選リーグでは鉄腕(パワフル)・シェイマン(オランダ)や業師(わざし)・ローズ(アメリカ)に敗れており(1991年)、滝沢雅樹も予選リーグでタステ(フランス、第16代世界チャンピオン)や天才・ブライトウェル(イギリス)に敗れている(1994年)。滝沢信行は準決勝3番勝負(持時間40分ずつ)という本格勝負で強い(ストロング)カスパール(フランス)に力負けして連敗(1993年)。前回、坂口は7勝6敗で予選落ちしている(1992年)が、流石に今回は予選は通るだろうが、もし準決勝や決勝の本格3番勝負で、現役の名人の坂口が敗れるようなことになったらどうする?」

 『勝敗は時の運というから、実際にやってみなければ解らないが、世界選手権という時間も大局数も充分な舞台で、現役名人が直接戦って負けるようなことになれば、その時は潔くシャッポを脱いで、“史上最強の男”の看板の下すことになるが、決してそうはならないだろう。いずれにしても夏の全日本選手権とそれに続く秋の世界選手権は見物(みもの)だ。』

 喧喧ごうごうの議論が飛びかう中で、待望の夏の全日本オセロ選手権大会の日がいよいよやって来ました。

B. 春、第23回全日本オセロ選手権大会、鬼神・為則の復活!

 坂口名人僅かに及ばず!(1995年7月30日、於中野サンプラザ)

無差別の部(出場64人)のベスト8一覧(1995.7.30)

ベスト 代表 出場 職業
為則英司 26 滋賀県 12回 会社員
坂口和大 27 東京都 15
手塚博久 27 東京都 10
東 秀喜 28 北海道 3
滝沢雅樹 30 新潟県 12 教員
中島哲也 24 埼玉県 9 大学院
金田 繁 24 東京都 10 司法修習生
川手正之 16 静岡県 9 高校
 「現役の世界チャンピオン・滝沢雅樹八段が、全日本ランキングで5位とはこれ如何?」という質問がありましたが、大会開催の時期が異なるのでこういうことは珍しいことではありません。

 64人がA〜Pの16人組に分かれて、各組総当り、その各組優勝者16人のみが午後の決勝トーナメントに出場できる厳しいシステムで、早くも48人が午前3局打っただけで予選落ち(村上健、滝沢信行、北島秀樹、駒形真之、岩崎匡明、冨加見友博21才、能村寿一等のベテラン、新鋭も午前で姿を消した)。岩崎匡明38才・静岡県・五段・全日本大会出場18回・会社員のF組には手塚博久がいた!能村寿一・35才・北海道・四段・出場19回・公務員のO組には為則英司がいた!

 午後になり16人による決勝トーナメントが始まると、初戦で第七世名人・末國誠は世界チャンピオン・滝沢雅樹に敗れて、早くもアウト(3勝1敗)!川手正之(前年の少年少女チャンピオン・無差別の部初出場)の8位入賞は立派!

 誰も止められないと思われた本命・坂口名人の驀進(ばくしん)は、決勝で際どく鬼神・為則によって止められてしまいました。僅か2石の差ですが、その差は全日本チャンピオンになるかならないかの差、世界大会に出場するかしないかの差、オセロ史を作った差、天地の差でした。坂口名人にとっては、惜しみて余りある僅差の敗北でした。

 「現名人坂口、前名人手塚、現世界チャンピオン滝沢を直接対決で破って全日本チャンピオン(5回目)になった為則こそ、現時点の“史上最強の男”だ。秋の世界選手権で、タステ(フランス、第16代世界チャンピオン、1992)やシェイマン(アメリカ、第17代世界チャンピオン、1993)、ストロング・カスパール(フランス)とも直接対決した上で為則が優勝すれば、雑音はピタリと止むだろう。勝負の世界では、勝てば官軍、敗ければ賊軍だ。」

 夏の第22回全日本選手権大会が終わったばかりなのに、話題は早くも秋の第19回世界オセロ選手権大会へ…。

無差別の部特選譜(第23回全日本選手権、1995.7.30)


決勝

準決勝

準決勝
九段 為則英司 33
名人 坂口和大 31

借りた借りは必ず返す!
3年前の1992年夏の全日本決勝で2人は相まみえ、坂口が勝って初優勝。あれから更に一段と強くなって名人になった坂口、併し、鬼神為則は復活し同じ舞台で借りを返した!
為則英司 (第五世名人) 50
手塚博久 (第六世名人) 14

江戸の仇を長崎で打つ!
1991年4月の名人戦で手塚挑戦者に敗れ、名人4連覇の夢を断たれたその仇を今全日本選手権の舞台で返す。
為則の見事な一本勝ち!
名人 坂口和大 34
三段 東 秀喜 30

名人の壁はやはり厚かった!
予選Iリーグで駒形真之五段、午後のトーナメント本戦で後藤宏五段、中島哲也四段という新鋭を次々と下して注目をあびた初顔の東三段でしたが、やはり名人は強かった!


 準々決勝

 準々決勝


世界チャ
ンピオン
滝沢雅樹 30
九段 為則英司 34


第15代
世界チャ
ンピオン
金田 繁 28
名人 坂口和大 36
1図は決勝(為則対坂口)の終盤の局面で、次は白番(54手目)です。まず、盤面をじっくり観察して、白は何処に打つべきかを自分で結論を出して下さい。

1図(決勝) は?

(正解)1図では、右上Xの場所は白の完全余裕手だから、白が好タイミングで右上X打ちして手待ちして黒からの動きを催促するという“手待ち作戦(「オセロの勝ち方」P140〜143)”は白だけの権利、換言すれば、白は何時でも1手パスができる“切り札打ち”を持っているのです。
 白はこの大切な“切り札”を温存し、偶数理論に従って右下からと手をつけて行くのが正しい打ち方です(正解2図)


(正解手順)(2図)
と右下から仕掛ける!

(3図)
当然黒は☆打ちしてくるが

(4図)と手止まりを打って黒に手を渡す!


(5図)は最善の頑張り。B打ちなら黒負け。

(6図)切り札のX打ち!下辺の偶数に黒先着しなさい。

(7図)偶数理論に反した黒からの先着。


(8図)白が手止まりを打つ
黒32−32白(引き分け)
実戦では1図で白は余裕手の放出時期を誤った!


坂口名人(左)と為則九段の熱気溢れる終盤戦。
 実戦は早まった切り札のX打ち(2石損の敗着)!秒読みなしの20分の持時間は短くて、これも時間に追われての失着!しかし、時間もルールのうち!

C. 秋、第19回世界オセロ選手権大会(オーストラリア・メルボルン、1995年11月16日〜18日)

特選13局(左側の選手が先番)
I.予選リーグ特選(8局)…11月16日〜17日
II.準決勝3番勝負特選(3局)…11月18日
III.決勝3番勝負!

I.予選リーグ特選(左側の選手が先番。持時間各30分)


予選1回戦虎4

予選2回戦兔1

予選4回戦虎2
カスパール 39 25 タステ
タステ 23 41 為則
山中真美 21 43 D.シェイマン

予選5回戦虎2
予選7回戦虎1


為則 33 31 シェイマン


為則 30 34 D.パーソンズ
(注)
M.タステ(1992年度第16代世界チャンピオン、フランス)

D.シェイマン(1993年度第17代世界チャンピオン、アメリカ)

E.カスパール(1993年度世界2位、準決勝で全日本チャンピオン滝沢信行を2連勝で破る。フランスチャンピオン)

K.フェルドボーグ(1994年度世界2位。デンマークオセロ連盟会長)



予選10回戦兔1

予選12回戦虎2

予選13回戦虎1
シェイマン 31 33 タステ
フェルドボーグ 29 35 為則
為則 43 21 カスパール

II.準決勝3番勝負(持時間各40分)


A組第1局虎2

A組第2局虎1

B組第3局虎2
カスパール 28 36 為則
為則 44 20 カスパール
峯 達哉 15 49 D.シェイマン

III.決勝3番勝負(持時間各40分、1995年11月18日)

第1局虎4
第2局虎1


D.シェイマン (アメリカ) 21
為則英司 (日本) 43


為則英司 38
ディビッド・シェイマン 26


天下分け目の決勝3番勝負を戦い終えて、にこやかに握手を交わす、日米オセロ界の両巨頭!為則(左)とシェイマン。




“史上最強の男”鬼神・為則の底力、悠然と5回目の世界完全制覇!

I.初日の予選リーグ第7局で為則がパーソンズ(全米3位)に破れた時、会場は一瞬どよめきました。6勝1敗、為則、シェイマンは並んで1位、初日終了。しかし、2日目、エンジン全開となった為則は6勝全勝、計12勝1敗(1位)で悠々予選を通過し、3日目の決勝トーナメントに臨む権利を獲得しました。

 予選5局目の為則対シェイマン戦は、手に汗を握る大熱戦の末際どく為則が2石残し、予選の流れの天王山を制しました。注目の名オセラー・タステ、フェルドボーグ、カスパールも、為則の怒涛の寄り身に土俵を割りました。

 全日本女子2連覇の山中真美五段は、フェルドボーグ、シェイマンには敗れたが、タステに3石勝ちの大殊勲、見事に昨年の屈辱を果して、計8勝5敗は世界大会日本女子の現在も破られていない新記録!

II.決勝トーナメント(持時間40分・3番勝負)は強い者が勝つ!

 充分に考えることができる長い40分ずつの持時間、3局打ちの本格勝負は、為則の最も得意とする条件で、まさに鬼に金棒(かなぼう)といった所です。世界オセロ選手権大会決勝トーナメントという大舞台で、今迄為則は16回戦って全勝という輝しい実績を持ち、世界の選手から鬼神と恐れられていました。

 準決勝3番勝負A組、ストロング・カスパールの必殺の剣は、起重機のように重く電光のように速い為則の金棒によって、弾き飛ばされてしまいました。カスパール連敗!記録を18連勝に伸して、為則は5回目の決勝進出!

 一方の準決勝B組からは、予想通り、やっぱり鉄腕(パワフル)・シェイマン出てきました。シェイマンの決勝進出はこれで4回目で、為則の5回に続く記録で2回目の世界一を虎視眈眈(こしたんたん)と狙います(注…その後シェイマンは、現在2004年3月1日迄に、2度世界選手権決勝に進出し、2度共優勝して世界チャンピオンになっています。)。

III.天下分け目の決勝3番勝負!(1995年11月15日、オーストラリア、メルボルン)

パワフル
鉄腕・シェイマン 対 鬼神・為則の一騎打ち!

 途中の経過がどうあれ、肝心の決勝で負ければ、総ては終りです。もし、為則が敗れれば、日本のオセロ名人戦の不等式による“史上最強の男”の看板は即座に下さなくてはなりませんし、世界オセロ史も大きく変ります。

 為則が勝てば、日本オセロ界に後に続く者が次々と生まれて、今後数年は日本人オセラーによる世界支配も続くでしょう。


決勝第2局
(1図)
は?


実戦(2図)為則の気合い満点のX打ち!

勝因となった為則の気合満点のX打ち!

 一進一退の激闘を続けながら、1図では何となく白(シェイマン)の方が打ち易くなっている不気味さ!もし、本局を負けるようなことになれば、流れが変り、第3局も危い?一流オセラーでも、ここは色々と思い悩む所ですが、ここで敢然と気合満点のX打ちと踏み込んだのが為則ならではの勝負手でした(2図)。

 「シメタ!ブラックラインの黒に切りを入れれば白の勝だぞ。それには、まずの交換で黒を太らせてからと切りでよし!」とシェイマン。

 しかし、実戦のこの進行は、黒の意中を行くもの。のブラックライン切りの攻撃は、と完全に受けきられ、の余裕手の放出もと切り返されて手持ちされ『白さん、どうぞ動いて下さい!』と催促されて、白は困りました(4図)。

実戦の経過(3図)
黒の意中を行く流れ
実戦(4図)
白番。白困った





 は双方最善の応酬ですが、4図では白の不利は決定的です(黒10石リード)。原因は(12石損の悪手)で、「まず、黒を太らせてから…」という軽い気持ちが、オセロの歴史を変えた1手となったのでした。


2図からの正解手順
(5図)ブラックラインを切る!
正解
(6図)双方最善の応手!
正解(7図)
黒番。黒やや苦戦!




7図(正解)では白2石リードですが、これがもし実戦ならこれからの変化も難しく、形勢不明といっていいでしょう。

 4図(実戦)からでも、もしを右下X打ち(ホワイトラインを通す最強最善手)したら、次の黒47(最善手は捨て身の左辺A打ち!)は読みが伴わなければ絶対打てない手で、或はそこから又大波乱が起ったかも知れませんが、40分持ちの為則(金棒を持った鬼神)は時間を使って読んで黒47を左辺A打ちしたでしょう。

 為則英司はD.シェイマンをストレートで破って優勝!世界オセロ選手権大会優勝5回、決勝トーナメント20連勝の不滅の新記録を樹立しました。

最近の為則氏と家族。美しい千晶夫人。もう自転車スイスイの宏君。洸太君。仕事、家族、趣味と充実の毎日。勿論オセロも現役のバリバリ!
局後、為則九段は、対シェイマン戦について、「自分にとって世界大会最後の試合になるだろうと思い、持てる力を全て出して戦いました。特に、決勝第2局目は名局だと思っています。」と語りましたが、タイトル獲得の直接の切っ掛けとなった第2局目の“気合い満点の勝負手のX打ち”は、鬼神・為則の絶妙手として後世に語りつがれることになるでしょう。

 オセロのオリンピックといわれている世界オセロ選手権大会優勝のバーレベルは、年毎に上昇して、第16回、第17回では、全日本チャンピオンも敗れました。今回(第19回)は、鬼神為則が、背水の陣を敷いて、持てる力を全て出してかちとった栄冠“世界チャンピオン”! 世界60億人の中で、唯1人にだけ与えられるこの栄冠の重みはやっぱり最高!!

2.オセロの最近の話題

 時は矢の如く流れて行きます。21世紀に入ってもう4年目です。地上デジタル放送も三大都市圏で2003年12月からスタートし、リニアモーターカー(時速500キロ以上、乗り心地も最高)の実用も間近で、実現すれば東京〜大阪間は1時間!世の中はどんどん変遷して行きます。

 オセロも、日本独占時代、日本最強時代、群雄割拠時代を経て21世紀の新時代に入りました。名人も全日本チャンピオンも日本代表として世界オセロ選手権大会に出場していますが、21世紀に入って開催された3回の世界オセロ選手権大会で優勝した3人は全部外国の選手。 日本3連敗はオセロ史上初めてのことですが、これは、オセロが日本のオセロから世界のオセロになった何よりの証拠と見ることもできるでしょう。

 しかし、この辺で、オセロの本家日本の面目にかけて、頑張りたいものです。秋の第28回世界オセロ選手権大会出場日本代表選考会も兼ねて、第25期オセロ名人戦が3月27日に開催されますので奮ってご参加下さい。

〜〜〜〜 【予告】第25期オセロ名人戦 〜〜〜〜

日時 2004年3月27日(土曜日)10時〜
場所 代々木・オリンピックセンター
主催 日本オセロ連盟、後援…(株)パルボックス
部門 無差別、女子、マスター(40才以上)、中学生、小学生の5部門
参加料 3000円(昼食付)
小、中学生 1500円(昼食付)
お問い合わせ先 日本オセロ連盟 03-3843-7611

詳細は、オセロニュース80号、日本オセロ連盟HPをご覧下さい。無差別の部優勝者(名人)は第28回世界オセロ選手権大会に日本代表として招待されることになります。






(2004年3月1日 長谷川五郎 記)




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