百人の物語 > (第17回)世代交代か?颯爽と登場した2人の青年!


オセロ史を飾った百人の名選手の物語
(第17回) 世代交代か?颯爽(さっそう)と登場した2人の青年!
若武者・中島哲也(名人戦)、プリンス・末國誠(全日本・世界大会)初優勝!!



1. 1997年(平成9年)のオセロ名人戦、全日本選手権、世界選手権

A. 春、第18期オセロ名人戦、中島哲也新名人の誕生
挑戦者選出大会(3月30日)で中島哲也五段が優勝!(於新宿・宇宙(コスモ)
特選3局、決勝・中島哲也対手塚博久、準決勝・船橋対中島、手塚対村上
第18期オセロ名人戦4番勝負(1997.4.6.(日).於新潟市)
名人・滝沢雅樹 対 挑戦者・中島哲也 第1,2,3,4局
中島新名人談 滝沢前名人談 新名人中島哲也六段の横顔
X打ちを制する者は世界を制す(オセロ格言)
中島新名人に質問…答 1、2、3

B. 夏、第25回全日本オセロ選手権大会、 プリンス末國誠初優勝! (1997.7.27.於東京・日本青年館)
勢ぞろいした初優勝の5部門(無差別、女子、マスター、少年少女、盲人)の5選手
5部門成績上位者一覧
強豪が次々と姿を消して行く無差別の部のど迫力!
無差別の部特選5局
決勝(手塚対末國)、準決勝(坂口対手塚、ローズ対末國)、トーナメント1回戦(坂口対世界チャンピオン・村上、末國対名人・中島)
命運を分けた!この1手がオセロ史を変えた。

C. 秋、第21回世界オセロ選手権大会・アテネで開催!(1997年11月6日〜8日)
世界チャンピオン!
予選リーグベスト10傑…世界選手権大会の試合方法
全棋譜は228局・その中から特選5局(予選リーグ)
何と終盤の魔術師・末國が終盤で間違えた!しかし?
原図(末國・バルナバ戦、予選第9試合)は?
実戦の解説…は14石損の悪手。引き分けになってしまった。
正解手順の解説…をX打ち。黒14石勝。
しかし、人間万事塞翁が馬(間違いが結果的に追い風になった)!
第27回世界オセロ選手権の場合(間違いの結果は、翌日凄い逆風となった!)
第21回世界オセロ選手権大会、末國誠見事初優勝!
予選リーグ上位4名による決勝トーナメント (1997.11.8.於アテネ)
決勝トーナメント全6局(持時間各40分の3番勝負)
本命、対抗、穴
決勝3番勝負、天才・ブライトウェル対終盤の魔術師・末國との壮絶な戦い!
決勝3番勝負第2局終盤戦の4つの局面は?、は?、は?、は?
陽気で楽しい表彰式

2. オセロ最近の話題
第25期オセロ名人戦の開催(2004年3月27日(土)於代々木オリンピックセンター)
終盤の魔術師・末國名人の終盤戦の底力!




(第17回) 世代交代か?颯爽(さっそう)と登場した2人の青年!
若武者・中島哲也(名人戦)、プリンス・末國誠(全日本・世界大会)初優勝!!


1. 1997年(平成9年)のオセロ名人戦、全日本選手権、世界選手権

A. 春、第18期オセロ名人戦、中島哲也新名人の誕生!

挑戦者選出大会は、3月30日(日)に、全国の地区オセロ名人14人にシードの全日本(世界)チャンピオン・村上健六段、前名人・坂口和大六段の2人を加えた計16人によって、新宿・宇宙(コスモ)で戦われました。


リーグ戦が終了して、これから決勝トーナメントに入る所。前列右から、船橋、手塚、村上、中島(各リーグ優勝者)、筆者。1997.3.30.(日).於新宿・宇宙



 全日本少年少女の部2位の船橋一樹少年が中部地区オセロ名人になったことが既に凄いことですが、この日、Aリーグで坂口和大六段(シードの前名人)も破って1位となり、準決勝進出したのはオセロ史に残る快挙!

 読みの村上は宇宙感覚・手塚に大熱戦の末破れ、史上4人目の三冠達成者(全日本・世界・名人)の夢はこの時点で断たれました。

 結局、学生チャンピオンの若武者・中島が優勝(3回目)、3度目の正直成るか否か?1週間後の滝沢雅樹名人との4番勝負が待たれました。


挑戦者決定戦・決勝虎1

準決勝虎1

準決勝バッファロー
(黒)中島 40 24 手塚(白)
(黒)船橋 23 41 中島
(黒)手塚 34 30 村上

第18期オセロ名人戦4番勝負 (1997.4.6.(日).於新潟市)


午前10時。さて、これから対局! 滝沢名人(左)と中島挑戦者。

持時間各30分


名人
滝沢雅樹
21
27
37
37

122
挑戦者
中島哲也

43
37
27
27
134 判定

 今回は、名人の居住地の新潟市に挑戦者が出向いてタイトルマッチが行われました。第4局迄もつれ込んだ大熱戦の結果は25才の挑戦者の判定勝!中島新名人誕生!


4番勝負第1局

第2局

第3局
挑戦者 中島哲也 43
名人 滝沢雅樹 21
滝沢 27 (合計48)
中島 37 (合計80)
中島 27 (合計108)
滝沢 37 (合計85)

第4局

滝沢 名人 37 (合計122)
中島 挑戦者 27 (合計134)


激闘の4番勝負は終った。感激の若い中島新名人。左から五十嵐利幸(新潟担当理事)、滝沢雅樹(前名人)、中島哲也(名人)、筆者。

中島新名人談「ついに名人になれた!初のビッグタイトル獲得ということだけでなく、世界を2度も制している滝沢八段を破ってのタイトル奪取だけに感慨無量です。それにしても、滝沢名人の第3局、第4局の追い込みは痛烈でした。辛うじて逃げ切って最終局を終えた時は、本当に身も心も疲れはて、呼吸も荒く、ふうっと大きなため息がでました。“ついに、念願のビッグタイトルを手にできた!!”と思うと同時に、嬉しさのあまり涙がにじみ出てきました。そのままでは大泣きしてしまいそうだったので、必死にこみ上げてくる涙を押えました。」

滝沢前名人談「6年生を受け持っていたので、忙しくてオセロの練習が充分できなかったのも原因の1つでしょうか。第1局目を大敗してしまいそれが最後迄尾を引いたようです。第3局目からエンジン全開の形となりましたが、終に石差を抜くことができませんでした。しかし、私としては全力を尽くして戦えたことに満足しています。中島君おめでとう。」

新名人中島哲也六段の横顔 1971年生まれの25才(1997.4.6.現在)

東京農工大学院博士後期課程2年、オセロ歴11年、1990年と1994年に名人挑戦者となったが為則名人、末國名人に敗れた。今回(1997)3度目の挑戦で目的達成。若武者新名人の前途は洋々!

X打ちを制する者は世界を制す(オセロ格言)!

 滝沢前名人も「第1局目の大敗が最後迄尾を引いた。」と述べていますが、名人戦は4番勝負の長道中で、あとの3局で22石位の差なら、まだ充分取り返せるチャンスはありました。

 その具体例を1つ示したのが下図(1図とその正解手順2〜4図)です。

第2局(1図) は?



 1図は実戦第2局の終盤戦で、ここでブラックライン通しのX打ちなら黒優勢(2図)。白もホワイトライン通しのX打ちと対抗してくるでしょうが、以下を想定して黒6石勝(4図)。

 然るに、実戦では、1図からを下辺B打ち(16石損の悪手・敗着)。これで2連敗、石差32となり、あと残り2局では流石の滝沢名人も敗色濃厚です。
(2図)X打ち!
(1図からの正解)
(3図)白もX打ち!
(4図)黒6石勝(双方最善手)




 名人戦4番勝負で、滝沢名人が敗れたその敗因は、第2局(1図)で黒がX打ちしなかった事だともいえます。X打ちの謎は深まります。

中島哲也新名人に質問「名人としてズバリ好敵手を3人あげて下さい。」

答「好敵手なら沢山いて、とても3人に絞れませんが、私が尊敬するオセラーなら、即座に3人をあげることができます。
1. 現世界チャンピオンの村上健七段で、私がオセロを始めた当初からの師匠。村上さんのオセロに対する熱意、オセロの実力、真面目な人柄など、尊敬することばかりです。村上さんのお陰で名人になれたと思ってます。
2. 為則英司第五世名人にはいつも潰されていました。嫌な相手である分、おもいっきり尊敬しています。為則さんの全盛期に、名人戦という大舞台で戦えたことを大変光栄に思っております。
3. 滝沢雅樹第九世名人は、私がオセロを覚えた頃、既に世界チャンピオンで、その後現在までオセロ界の横綱として活躍されている素晴らしいオセラー。また大舞台で対戦したいです(早速、翌年それが実現!)。

B. 第25回全日本オセロ選手権大会、プリンス・末國誠初優勝!

   1997年7月27日(於東京・日本青年館)



 チャンピオンカップを手に、初優勝の喜びを胸に秘め、勢揃いした5人の各部門の初優勝者。左から並木正(盲人)、川頭邦晴(少年少女)、末國誠(無差別)、杉山暁美(女子)、杉山光昭(マスター)の5選手と筆者。秋の第21回世界オセロ選手権大会(ギリシャ・アテネ)では、末國誠、杉山暁美、杉山光昭の3選手が日本代表として参加して戦いました。

女子ベスト4
1. 杉山 暁美 静岡 主婦
2. 佐野 洋子 東京
3. 大柳 真咲 東京 会社員
4. 田中 道子 埼玉 主婦

マスター(40才以上)ベスト4
1. 杉山 光昭 静岡 49 会社員
2. 半田 達也 東京 44
3. 野田 順悦 北海道 41
4. 岩崎 匡明 静岡 40

少年少女の部ベスト13
1. 川頭 邦晴 中3 東京
2. 羽田 真樹 中3
3. 藤田 中3 静岡
4. 石田 和暁 小3 埼玉
5. 船橋 一樹 中2 愛知
6. 森田 創勢 中3 埼玉
7. 中塩 嘉隆 中3 千葉
8. 平野 裕作 小5 岩手
9. 染田 健司 小6 北海道
10. 船橋 玲史 小6 愛知
11. 横山 智聡 小6 関西
12. 駒野 達也 中1 九州
13. 西村 中2 東京

盲人ベスト4
1. 並木 東京 代表
2. 福川 栃木
3. 尾崎 峰穂 東京
4. 田幸 勇二 東京



5部門成績上位者一覧 (1997.7.27)

 年年歳歳花相似たり、歳歳、年年人同じからず。特に少年少女の部の目まぐるしい変化は、ノンストップのスーパーひたちに乗って駅に立っている人々を次々と眺めるようなもので、とてもついて行けません。そこで今回はスーパーひたちの窓からパチリと写真を撮ったら、13人の少年がそこに写っていました。前年の少年少女チャンピオンで秋の世界選手権日本代表にもなった西村君は13位。前年2位で今年春の名人挑戦者決定大会4位(無差別)になった船橋一樹君も5位。1位川頭君以下7位迄そのうち5人が中3、少年少女の部では音速の進歩もまれでなく1年先の予測も困難です。しかし歴史をひもとけば何年先の予測もピタリと当る訳で、翌年(1998年)の決勝は船橋一樹(中3)と玲史(中1)兄弟決戦となり、弟の玲史君が勝ち、兄の一樹君は少年少女チャンピオンの夢の実現はならずに卒業して行きました。まだまだいます。12位の九州からきた快男児・駒野君は5年後(2002年)の全日本チャンピオン(無差別)になり、秋の世界選手権予選リーグでは、あの鉄腕(パワフル)・シェイマン(優勝者)と大熱戦を演じています(現在は大学2年)。……。

 女子の部では、大柳さんは前年、佐野さんは次の(1998、1999)女子チャンピオンで、田中さんを含めて4人共今も現役オセラー。佐野さんは現女流名人。

 マスターの部では、半田氏、野崎氏は優勝経験者。岩崎氏は第1期名人位を河村末告氏(第一世名人)と争ったベテランで、選手の育成にも力を注ぎ、寺田純也四段(今回無差別ベスト16、第21、23代少年少女チャンピオン)もその1人。オセロ歴20年を越えるベテラン4人共、今もバリバリの現役オセラー。

 盲人の部は今回が18回目。衆知の如く、盲人の部は第20回を以って終了(卒業)となり、ベルリンの壁が取り払われたように、以後は盲人も盲人用オセロ盤を使って自由に一般人と対局できるようになって4年。20回のうち5回優勝した盲人用オセロNo.1の香取通浩氏は、終に第25期オセロ名人戦マスターの部で初優勝の快挙(2004年3月27日)、日本オセロ連盟より盲人としては初の四段位が贈呈されました。

強豪が次々と姿を消して行く無差別の部のど迫力!

 昨年同様、今回も午後の部第1戦で、早くも世界チャンピオン(村上健)と名人(中島哲也)が敗れてそこで姿を消しましたが、それが必ずしも番狂わせといえない所が無差別のレベルの高さを示しています。準決勝に進出したのは、歴代名人の3人と世界2位の実績を持つブライアン・ローズ(アメリカ)という豪華メンバーですが、4人共未だ世界チャンピオンは未経験です。

 決勝は初の日本一、初の世界選手権出場権を賭して、第六世名人・宇宙感覚の手塚博久対第七世名人・終盤の魔術師の末國誠の1番勝負!ニックネームさながらの激戦展開となり、弱冠19才の慶大生・末國誠が初めて日本一になりました。

無差別の部特選5局 (1997.7.27.於東京青年館)


決勝1番勝負兔1

準決勝兔1

準決勝虎1
第六世名人 手塚博久 28
第七世名人 末國 誠 36
(引き分け勝の権利は白)
坂口和大 25
手塚博久 35
ブライアン・ローズ 22.5
末國 誠 41.5

20.jpg いよいよ決勝1番勝負!緊張の中にも笑顔が見えるこのなごやかな雰囲気。手塚博久(左)と末國誠の両雄。


トーナメント1回戦闘牛

トーナメント1回戦兔1
第八世名人 坂口和大 36
世界チャンピオン 村上 健 28
第七世名人 末國 誠 49
名人 中島哲也 15

命運を分けた! この1手がオセロ史を変えた。


原図(決勝)は?



“序盤・中盤は勘、終盤は読み(オセロ格言)”。変化無限の序盤・中盤戦では勘が読みに優り、ある程度目鼻がつく段階にきた終盤では読みが勘に優ります。しかし、実戦ではそこに厳しい制限時間があり、終盤戦(41手〜60手)に入ったとはいえ、極めて難解でとても読み切れない原図のような局面では、やっぱり勘に頼る他ありません。

 原図は、終盤の魔術師・末國(白)が、「爆弾を仕掛ける(右辺B打ちする)か否か、yesかnoか!」と返答を迫った局面です。

 原図迄の経過を述べると、序盤戦、中盤戦では、宇宙感覚・手塚(黒)の独特の勘が冴え渡って、黒が優勢になりました。形勢容易ならずと見た末國はここで最も局面を難しく導く勝負手のX打ちを敢行し、ここから黒の着手は乱れました。(4石損、正解は右辺C打ち)、(2石損、正解は右辺C)と連続緩手を打ち、白はピタリと背後に迫ってきました(原図)。

 しかし、原図は、わずかだが、まだ黒リード、ここで断固爆弾を仕掛ければ、黒の逃げ切りは成功し(1図⇒2図)、オセロ史も変わっていたでしょう。

1図(原図からの正解)
yes. 断固爆弾を仕掛ける!
2図(1図からの正解手順)
黒33−白31
3図 実戦(2石損の大悪手!この1手で逆転、アウト!)




 実戦は、3図以後も手塚六段は(6石損、正解右辺B)、(2石損、正解右辺B)と緩手を打ち差は開きましたが、これも時間切迫と初タイトル目前の重圧のせいだったのでしょうか?終了時の黒の残り時間は17秒!

 一方、末國六段はのX打ち以降持時間切迫にもかかわらず、勘と読みで打った手は全部最善手で黒に追いつき追い越してゴールイン!“終盤の魔術師”の面目躍如!その末國誠が、秋にギリシャ・アテネで行われる第21回世界オセロ選手権大会で世界の強豪相手にどんな戦い方をするのか、大いに期待されました。

C. 秋、第21回世界オセロ選手権大会・アテネで開催!
(1997年11月6日〜8日)

世界チャンピオン!

 シンプルにして重厚な響き!世界60億人の頂点に立つ唯1人だけに与えられるこの名誉の称号・世界チャンピオン!やっぱり、世界チャンピオンは別格で、それは万人の無限の憧憬を秘めた最難関・最高のタイトルです。

 オリンピック発祥の地はギリシャで、現在のオリンピックは百年以上前の1896年ギリシャ・アテネでその第1回が開催され、以後4年ごとに各国持ち廻りで行われ、幾多の世界チャンピオンが誕生しています。

 オセロのオリンピックといわれ、毎年各国持ち廻りで開催されている世界オセロ選手権大会、今回はその第21回大会がギリシャの首都アテネで15カ国、34人の代表選手によって3日間にわたって戦われました(1997.11.6〜11.8)。

予選リーグベスト10傑(1997.11.6〜7)


選手名 代表










10
G.ブライトウェル
末國 誠
M.タステ
D.バルナバ
D.シェイマン
K.フェルドボーグ
A.シルボラ
E.カスパール
M.ハンデル
E.ラザール
イギリス
日本
フランス
イタリア
ベルギー
デンマーク
イタリー
フランス
イギリス
フランス
11
10
















 




 
 
 
 
22
21
17
17
17
16
16
16
16
15
23 杉山 光昭 日本
12
29 杉山 暁美 日本
10
世界選手権大会の試合方法

I. 開催は3日間。全員がまず予選リーグを初日7局、2日目に6局、計13局打つ。上位4名が3日目の決勝トーナメントに出場。同点の場合プレーオフで決める。予選試合は持時間30分ずつ、秒読みなし、針落ち負け。得点は勝ち2点、引分け1点、負け0点。
II. 決勝トーナメントは、準決勝、決勝共に3番勝負、持時間は各40分。準決勝の組合せは、予選1位対4位、2位対3位とする。
III. 第3日目の決勝トーナメント優勝者を世界チャンピオンと認定する。


全棋譜は228局・その中から特選5局(予選リーグ)

ギリシャ神話、ギリシャ彫刻、オリンピック発祥の地ギリシャは、何となく神秘のヴェールに包まれています。記録係の女性達もアラビアン・ナイトの王女様を彷彿させるような美しさだし、彼女達が取った全選手の対局記録228局は流石世界選手権大会のボリュームです。

 末國七段は、10勝2敗1引分で、予選を2位で通過しましたが、その2敗の相手は当物語で既におなじみの天才・ブライトウェルと怪力(ストロング)・カスパール。引分の相手は新鋭バルナバ。その3局と他2局計5局を特選譜としました。


予選第3試合虎1

予選第9試合虎1

予選第13試合虎2
Graham Brightwell 33
末國 誠 31
末國 誠 32
Donato Barnaba 32
末國 誠 20
Emmanuel Caspard 44


予選第1試合

予選第6試合兔1

杉山暁美(左)(全日本女子チャンピオン)対 D.シェイマン(ベルギー)

杉山光昭(左)(全日本マスターチャンピオン)対 G.ブライトウェル(イギリス)
杉山暁美 16
David Shaman 48
杉山光昭 11
Graham Brightwell 53


何と終盤の魔術師・末國が終盤で間違えた!しかし?


予選第9試合 は?
原図(末國、バルナバ戦)


[実戦]は悪手(14石損)!この1手で一気に引き分けの形勢へ

ドナト・バルナバ(イタリア)
「素晴しい経験、素晴しい大会運営でした。オセロの人口が広がっているのは大変嬉しいことです。」
1図(原図からの正解)
X打ち(ホワイトラインを通す)!
2図(正解の続き)ホワイトラインに切りを入れる!
3図(2図からの正解手順)
黒39−白25




実戦の解説…原図では、Bが一見すると絶好の天王山です。形勢のよい末國は、ここでノータイムでをB打ちして、次に白アなら黒勝勢と速断したのですが、ここでバルナバが打ったX打ちが絶妙の返し技でした。綺麗にホワイトラインを通して黒に手を渡し、黒からの動きを催促した絶妙手、この白のX打ちを末國は見落していたのでした。一気に押し返されて形勢不明になりました。

正解手順の解説…オセロには絶対の手はなく、☆も、天王山も、そこに打ったために負けてしまった例は沢山あります。1図は、ホワイトラインを通した絶妙のX打ち(白さん、天王山Bに打ちなさい!)で、放っておいて逆に黒Bと打たれると白アウトなのではこの1手(2図)。と7石取って稼ぎ、と☆打ちを許しても、と手止まりを打って、白に手を渡して白からの動きを催促して黒必勝(3図)!


エマニュエル・カスパール
(フランス)
1969年1月8日生。学生(地質学、博士課程)。1989にオセロを始める。1993年度世界オセロ選手権大会準優勝(ロンドン)。1996フランス・オセロチャンピオン。怪力(ストロング)・カスパールといわれ、日本代表との幾多の名勝負が印象的。

ばんじさいおう
しかし、人間万事塞翁が馬
(間違いが結果的に追い風になった)

 現実の世界では、上記のように末國・バルナバ戦は末國が49を間違えたために引き分けになり、その結果大会3日目の決勝トーナメントには、ブライトウェル、末國、タステ、バルナバの4人が出場し、末國が初優勝しました。

 しかし、“大堤防も蟻の穴1つが原因となって崩壊する”といわれている様に、1つの事実の裏には複雑な因果関係が存在します。末國がを間違わずにバルナバに勝ったとしたら、それが果して末國に良い結果(初優勝)をもたらしたかというと疑問です。その時はベスト4にバルナバが落ちて鉄腕(パワフル)・シェイマンが入ってきます。ブライトウェルと末國が同率、タステとシェイマンが同率でプレーオフになり、末國は準決勝3番勝負をシェイマンと打ち、それに勝ったとしても、決勝3番勝負をブライトウェル(又はタステ)と打つことを想定しても、これは容易なことではありません。“人間万事塞翁が馬”で、バルナバ戦の末國の間違いが結果的に末國の初優勝のための追い風となったと考える事ができます。

 反面、間違いの結果が翌日逆風となったケースもあります。それは第27回世界オセロ選手権大会(於スウェーデン・ストックホルム、2003.10.29〜11.1)のケースで予選第12試合(末國・カスパール戦)で、末國は14石損の悪手を打って、6石負けになりました。もし、この1戦に末國が勝っていたら、翌日の準決勝3番勝負はシーリー対後藤、決勝はシーリー(又は後藤)対末國を想定しても、シーリーが2人の最強の日本代表を3番勝負で次々と破るのは至難の技で、別の結果になった可能性が大でした。しかし、現実では、このカスパール戦での1敗は、翌日の決勝トーナメントでは、日本にとって凄い逆風になったのです。規定により準決勝が日本代表同士・後藤宏(現全日本チャンピオン)対末國誠(現名人)の3番勝負!相手が強ければ強い程、勝った方のエネルギー消費度も大きく、勝った末國は決勝で20才の新鋭ベン・シーリー(アメリカ)にストレート負けして、シーリーが初優勝!

第21回世界オセロ選手権大会、末國誠見事初優勝!
_予選リーグ上位4名による決勝トーナメント (1997.11.8.於アテネ)




表彰式、ディナーパーティー後のひととき。
沢山の世界の友達と楽しく過ごし、珠玉の228局の棋譜も残した。又、来年会いましょう

優勝!! 意気大いに上がる日本選手団
優勝カップを手に末國(中央)、その左は世界オセロ連盟ジョナサン・ベッカー会長夫妻、右は杉山光昭(マスターチャンピオン)。前列右は杉山暁美(女子チャンピオン)他の皆さん。

決勝トーナメント全6局(左側選手が黒、持時間各40分の3番勝負)


決勝第1局兔1

決勝第2局虎1

準決勝第1局兔1
末國 39 25 ブライトウェル
ブライトウェル 29 35 末國
タステ 14 50 末國


準決勝第2局虎1

準決勝第1局虎1

準決勝第2局兔1
末國 45 19 タステ
バルナバ 12 52 ブライトウェル
ブライトウェル 52 12 バルナバ

本命、対抗、穴

 勝負に穴(番狂わせ)はつきものですが、やはり皆は予想を立てます。そこでは過去の実績(日本3連覇、滝沢、為則、村上)が大きく物をいいます。全日本チャンピオン末國誠が本命、対抗Shaman(ベルギー、第17回世界チャンピオン)、Tastet(仏、第16回世界チャンピオン)、Brightwell(英、第12,13回世界2位)、Feldborg(第18回世界2位)、Caspard(仏、第17回世界2位)の5名、穴はイタリアの3選手というのが大方の予想でしたが、大筋において予想通りの結果になりました。(前記、予選リーグベスト十傑)。

一時(いっとき)たりとはいえ、世界の檜舞台で“Sugiyama旋風”を巻き起こした事実は凄い!善戦健闘した杉山光昭マスターチャンピオン、杉山暁美女子チャンピオン。

 世界選手権予選リーグでは、ラウンドごとに、その時点での成績速報が張り出されます。3時過ぎ、5ラウンド終了後、1位(5勝)Brightwell、2位(4勝1敗)杉山、Shaman、Feldborg、末國……を見て、選手間(次の対局迄10分の休憩がある)、関係者間でざわめきが起こりました。「全くのノーマークだったSugiyamaとは?とに角、オセロ王国日本の代表選手、すわ!今大会の大穴か!?」

 予選リーグは、勝ちつぶし方式なので、6ラウンドではBrightwell対杉山光昭(特選棋譜と写真参照)となりました。…。

決勝3番勝負、天才・ブライトウェル対終盤の魔術師・末國との壮絶な戦い!

戦い終って紳士の握手!
勝者の歓喜と敗者の無念の表情を写真はリアルに写している。

 2局共組んずほぐれつの大熱闘を展開、どちらが勝ってもよい内容でしたが、現実の結果は20才の新鋭・末國誠(慶大生)が、イギリスの天才オセラー・ブライトウェル(名門ケンブリッジ大卆の数学者35才)をストレートで破って見事初優勝!

 決勝に進出したのが今回3度目で、前2回は相手が全盛期の鬼神為則だったので仕方がなかったのですが、今回は2局共好局だっただけに残念無念のブライトウェル博士!

決勝3番勝負第2局終盤戦の4つの局面

 世界のトップオセラーで、最高の頭脳の持ち主・ブライトウェル先生は、この4つの局面で全部悪手を打って結局負けてしまいました。原因は、“苦節10年、3度目の正直、好局だった第1局を失った心の動揺が、背水の陣となった本局に影響したのか?”或は、“終盤の魔術師の魔術にかかって金縛りになってしまったのか?”曰(いわ)く、不可解!


1図
決勝第2局
は?

2図 は?

3図 は?

4図 は?
正解 実戦
1図 右上X打ち(g2)
(黒12石リード)
  右辺B打ち(h5)
(4石損の悪手)
2図 右辺C打ち(h2)
(8石リード)
  左辺A打ち(a3)
(6石損の悪手)
3図 左辺B打ち(a4)
(2石リード)
  左辺B打ち(a5)
(2石損、白に追
いつかれた。)
4図 右上X打ち(g2)
(引き分け)
  右辺C打ち(h2)
(6石損、敗着、
アウト!)

4図でも、黒右X打ちすれば、まだ3局目に勝負を賭けることができました。

陽気で楽しい表彰式


世界オセロ連盟会長
ジョナサン・ベッカー氏

ギリシャ製オセロの発売元・MATTELギリシャ社・社長

燦然と優勝杯はわれにあり!末國誠新世界チャンピオン
ニューヨークに本拠を持ち、オセロを世界へ広めたジム・ベッカー初代会長の子息の二代目会長。
賞金はベッカー氏の小切手。
今大会の現地のお膳立ては、同社のMARIAさんが一切取り仕切った。
「世界選手権という大舞台で、世界の皆さんと思う存分オセロを打てて、しかも優勝できてもう最高の気分です!」
団体戦優勝のイギリスチーム
左から、I.Turner、 G.Brightwell、 M.Handelの各選手。
美女(MARIAさん)と並んでご機嫌のバルナバ氏(イタリア)。「私は末國に負けなかった(引分)!」
第4位のカップを掲げ悠然と微笑むTastet氏(フランス)。第16代世界チャンピオンの風格!

2. オセロ最近の話題

第25期オセロ名人戦の開催(2004年3月27日(土)於代々木オリンピックセンター)

 既にオセロニュース(名人戦特集)81号に、大会総評はじめ詳しい記事が載っているので、ここでは無差別の部についてだけ一言ふれるだけにします。

 無差別の部は、当日の参加者は112名で、末國誠名人が唯1人7連勝で優勝(連覇)し、秋の第28回世界選手権大会の日本代表に決定。あとの2人の代表は7月18日の第32回全日本オセロ選手権大会後に決定されます。

決勝1番勝負
(持時間各20分)

(1図) は?


1図からの正解手順
(2図)黒の引分勝
平川有宇樹 59で時間切れ
 (引分勝の権利)
末國 誠 中押勝


終盤の魔術師・末國名人の終盤戦の底力!

 112名が全員がスイス方式で6局打って、6連勝はこの2人、第25期オセロ名人位と秋の世界大会日本代表の座を賭けての1番勝負!末國名人(26才)、平川五段(20才、大学生)、正に若さの爆発!1図は全く互角の形勢ですが、引分勝の権利を持つ黒が有利でしょう。しかし、1図から15手進んだ実戦終了時では、白8石勝ち(時間切れとは関係なく)になっています。オセロ界の新プリンス・平川有宇樹五段(大会後六段に昇段)の必死の読みの中で、15手進行する中で8石もリードしてしまう終盤の魔術師の終盤戦の底力に脱帽!

 焦点は早くも秋の第28回世界オセロ選手権大会。末國名人の活躍を期待!






(2004年5月1日 長谷川五郎 記)




百人の物語 > (第17回)世代交代か?颯爽と登場した2人の青年!

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