百人の物語 > (第18回)力比べ、読み比べとなった第22回世界オセロ選手権決勝


オセロ史を飾った百人の名選手の物語
(第18回) 力比べ、読み比べとなった第22回世界オセロ選手権決勝・剛力(ストロング)・カスパール(フランス)対読みの村上戦は、第3局迄縺(もつ)れ込んだ!



1. 1998年(平成10年)のオセロ名人戦、全日本選手権、世界選手権

A. 春、第19期オセロ名人戦、史上初のリターン・マッチが実現!
挑戦者選出大会(3月29日)…滝沢雅樹前名人が優勝
第19期オセロ名人戦4番勝負(1998.4.5.埼玉県加須市)
(中島哲也名人対滝沢雅樹前名人、第1,2,3,4局)
先向逃げ切りで、中島名人防衛成功!
第2局のこの局面(原図)から突如事件が起った!
名人位2連覇、中島時代の到来か!

B. 夏、第26回全日本オセロ選手権大会 (1998.7.26.日本青年館)
無差別の部ベスト8一覧
実力と強運で決勝の初舞台に登場した名人中島哲也の前に現われたのは、百戦錬磨(れんま)の村上健(七段、第20代世界チャンピオン)だった!
無差別の部特選4局
決勝(村上対中島)、準決勝(村上対坂口、中島対金田)、準々決勝(末國対金田)
決勝… 中島名人、初舞台で惜敗。村上七段、2度目の優勝、秋の第22回世界オセロ選手権に出場決定!
日本一易しい詰オセロ。問題(準決勝、中島哲也対金田繁)
“現実は小説よりも奇なり。”実戦派の闘将・金田繁七段(第15代世界チャンピオン)が、何と問題の局面で間違えて逆転負け!
難しい詰オセロ。問題 II (決勝1番勝負、村上健対中島哲也)
実戦…天王山に打ったのが敗着!
正解…天王山に勝るX打ち!

C. 秋、第22回世界オセロ選手権大会(於スペイン・バルセロナ
(1998年11月5日〜7日、参加17カ国、選手38名)
予選リーグ上位4名による決勝トーナメント(11月7日)
世界オセロベスト10傑(村上健、再び世界制覇!)
世界オセロ選手権大会特選7局
オセロ対局と持時間(秒読みなし)
カスパールが、“中辺の横取り”を打てば、オセロの歴史は変っていた!(決勝3番勝負第3局)
原図 I. 決勝3番勝負第3局の超難解な中盤戦!は?
II. 原図からの正解(中辺の横取り)と以後の正解手順
III. 原図からの実戦の進行…連続2手の大悪手 でアウト!
花の都パリにあるフランスオセロ連盟と名選手達
フランスオセロ連盟発行の“FFORUM No.71”
団体戦優勝のカスパール、パンル、ニコレ
パンル(初出場で予選1位)対村上戦(予選第8試合)の研究
原図は?正解手順
実戦の進行(再逆転そして意外な結末)
燦然と優勝杯は我にあり!されど…村上健氏の謙虚な言葉

2. オセロ最近の話題

A. 第32回全日本オセロ選手権大会の開催予定(2004.7.18)

(無差別、女子、マスター、青年、中学生、小学生の6部門)

B. 第3期グランドオセロ名人戦の予告(2004.7.19)
グランドオセロとはどういうゲームか?
第1期グランドオセロ名人決定2番勝負 第2局と寸評




(第18回) 力比べ、読み比べとなった第22回世界オセロ選手権決勝・剛力(ストロング)・カスパール(フランス)対読みの村上戦は、第3局迄縺(もつ)れ込んだ!


1. 1998年(平成10年)のオセロ名人戦、全日本選手権、世界選手権

A. 春、第19期オセロ名人戦、史上初のリターンマッチが実現!

名人挑戦者決定戦を戦った16人の代表選手


挑戦者選出大会

 1998年3月29日(日曜)に新宿の宇宙(コスモ)で、14人の全国各地代表と2人のシード(世界チャンピオン、前名人)計16人の選手が、4人ずつA〜Dの組に入って総当り。各リーグ優勝者4人によるトーナメント。



 ヘビー級のボクシングなら、敗れたチャンピオンは、当然の権利としてリターン・マッチを行うことができますが、オセロ名人戦では前名人・滝沢雅樹はシードですが、現役の全日本(世界)チャンピオンも含めた16人中1位にならなければ挑戦者にはなれません。この難関を突破した前名人のリターン・マッチが見られるのは今回が初めて。流石なるかな滝沢雅樹八段!

第19オセロ名人戦4番勝負(1998.4.5.日.埼玉県加須市)

持時間各30分
秒読みなし



名人
中島哲也
43
52
31
27

159 判定
挑戦者
滝沢雅樹

21
12
33
37
103

熱闘!滝沢八段(左)対中島名人


第1局虎2

第2局虎2

第3局虎2
滝沢 21 43 中島
中島 52 12 滝沢
滝沢 33 31 中島


第4局兔1
中島 27 37 滝沢

先向逃げ切りで、中島名人防衛成功!

 「大勝負に名局なし」とよくいわれていますが、裏を返せば、それだけ大勝負にはプレッシャーがかかっているということです。 “オセロとは、好手を打って勝つよりむしろ悪手を打って負けるゲームなり”という格言は生きています。

 好局だった第1局を失って、背水の陣の心境で臨んだ第2局では、巧みな打ち廻しで白(滝沢)は優勢を築いたのでした(原図)。原図からの正解手順を示しましたが白が勝っていました。

第2局のこの局面(原図)から突如事件が起った!

原図(第2局) は?
(正解)1石返して手待ち!
(正解)勝負手のX打ち!
(ホワイトラインを通す。)





(正解)1石返して手待ち!
(正解)勝負手のX打ち!
(白☆なら黒Cだぞ。)
(正解手順)
黒27−白35




 しかし、実戦では、上記原図の局面から、滝沢挑戦者(白)は突然信じられない乱れ方をしました。実戦は10石損の敗着(正解は白b1)、6石損(正解はa5)、16石損(正解はa3)、8石損(正解はa3)、2石損(正解はb7)、4石損(正解はb7)と白は悪手を連発して40石の大差負け!もちろん、時間にも追われたのですが、これは、オセロの中終盤の奥深さを物語ると同時に、大豪滝沢雅樹八段もやはり人間であることの証明です。4番勝負で2連敗、何と石差損計62石は殆どアウト!

戦いすんで日が暮れて 仲良く並んだ両選手

北島正人
(担当理事)
滝沢雅樹
(挑戦者)
中島哲也
(名人)
筆者

 常人ならここでガックリ来てしまうでしょうが、全日本・世界を2どずつ制した赫赫(かっかく )たる実績を持つ滝沢雅樹前名人は、このままオメオメと土俵を割ることはしませんでした。昼食休憩をはさんで完全に立ち直り、第3、4局を連勝!特に第3局は「ここで決めるぞ!」「絶対にそうはさせないぞ!」という双方の闘魂が火花を散らし、つばぜり合いの名局を生みました。

名人位2連覇、中島時代の到来か!

 1971年5月5日生まれの26才。会社員。昨年の若武者は、調和の中島に変身、名人としての風格も出て、この夏の第26回全日本オセロ選手権大会優勝の本命と誰もが認めるその実力!史上5人目の3冠達成者になるか?

B. 夏、第26回全日本オセロ選手権大会 (1998.7.26.日.於日本青年館)

☆無差別の部ベスト8一覧

ベスト 出場
回数
代表 職業 オセロ実績
村上 健 33 14 東京 教員 1996.世界
チャンピオン
中島哲也 27 12 シード
名人
会社員 現名人
坂口和大 31 18 東京 会社員 1992.全日本
チャンピオン
金田 繁 27 12 東京 弁護士 1991.世界
チャンピオン
末國 誠 20 13 シード
全日本
大学
2年
世界
チャンピオン
荒木靖之 31 5 東関東 自営 五段
福井誠二 30 5 関西 会社員 三段
板垣賢一 37 5 神奈川 会社員 三段



 短い20分の持時間、1番勝負を7連勝して全日本選手権で優勝するには、実力の他に運(追い風)の味方も必要。中島名人には確かに運も味方していました。一筋縄ではいかない強豪が、当たらないうちにどんどん消えて行ったのです。 8人枠を巡っての東京地区予選では、手塚博久六段(昨年、末國誠と決勝を戦った!)や、谷口良一六段(第12代全日本チャンピオン)等も予選落ち。もし、手塚博久が本戦に出場して、何処かで村上健や中島哲也と当っていたら、オセロの歴史は変っていたかも知れません。

 中島哲也が、名人戦の本舞台でこの2年連続戦って計4勝4敗だった滝沢雅樹が、午後のトーナメント1回戦で37才のベテラン・板垣賢一三段に破れる番狂わせ(1番勝負の怖さ!)が起こらなかったら、中島哲也の準々決勝の相手は滝沢雅樹になった訳で、そうなったらオセロの歴史は変わっていたかも知れません。現実は、27才の青年名人中島哲也が37才のベテラン板垣賢一を順当に破って準決勝に駒を進めました。

 中島哲也の準決勝の相手は金田繁(七段、第15代世界チャンピオン)。この日の金田繁の足跡をたどると、午前の予選Oリーグ1位金田繁、2位滝沢信行(第四世名人、第21代全日本チャンピオン)、午後の決勝トーナメント1回戦金田繁35−29午後宏(現全日本チャンピオン、2003.7〜)、準々決勝金田繁37−27末國誠(世界チャンピオン、現名人2004.3〜)等で、名選手滝沢信行、後藤宏、末國誠(全日本連勝記録は11でストップ)は、中島哲也と当ることなしに姿を消して行ったのです。そして、準決勝中島対金田戦は際どい競り合いとなり白の金田の勝と思われたが、土壇場に来て金田の打ったの☆打ち(2石損、白Xなら白2石勝)が痛恨の悪手で32対32の引き分け(何たる幸運、日本だけにある“引き分け勝ち”の権利は黒にあった!)。かくて、6連勝、中島哲也名人は全日本選手権決勝に初進出!

 しかし、決勝の檜舞台に上った名人中島哲也の前に現れたのは、百戦錬磨(れんま)の村上健(七段・第20代世界チャンピオン)でした。“調和”の中島か?“読み”の村上か?第26代全日本チャンピオンの座と、秋にバルセロナで開催される第22回世界オセロ選手権大会の日本代表の座を賭けての決勝1番勝負の幕は切って落とされたのでした!

☆無差別の部特選4局(左側の名が先番持時間各20分)

決勝…中島名人初舞台で惜敗。村上七段2度目の優勝、秋の第22回世界選手権大会に出場決定!

決勝1番勝負虎2
村上健 33 31 中島哲也




(決勝)村上−中島
観戦者のために大盤を並べているのは手塚博久と北島秀樹


 決勝は、両選手の持ち味が充分に発揮された熱の入った名局でした。
 調和を重視した独特の形勢判断で、序盤、中盤を巧みにリードした白(中島)でしたが、「このままでは負けてしまう」と判断した村上(黒)は勝負手のX打ちを敢行!これに対し安易にと☆打ちしたのが悪手(2石損、正解はb7のX打ち)、悪手は悪手を呼ぶといいますが、初タイトルを目前にした過度の緊張感からか、ここから白の着手は乱れました。も悪手(6石損、正解はe1)、続いても悪手(5石損、正解はe1)でもう形勢は1石差。そして又々が悪手(3石損、正解はg2のX打ち)で、さしもの白の好局も終にここで逆転!(この部分は百人物語第2回、2003.2.1.記で3ページにわたって詳述。)


準決勝牛(快速船)

準決勝虎2

準々決勝兔1
村上 健 48 16 坂口和大
中島哲也 32 32 金田 繁
末國 誠 27 37 金田 繁

日本一易しい詰オセロ。問題 I (準決勝、中島哲也対金田繁)

問題
(準決勝、中島対金田)
白番  次の1手は?
(正解手順)
はブラボーのX打ち!
黒31石−白33石
(白2石勝)



(実戦)
が痛恨の敗着!
黒32石−白32石
(黒の引き分け勝)



 問題Iは、実にシンプルで、これより易しい詰オセロはないでしょう。
なら、黒に2石返されて終局。なら、黒に3石返されて終局。」は、有段者でなくても15秒あれば読める変化で、正解のはブラボー(読み切り、勝利宣言)のX打ちです!
 しかし、“現実は小説よりも奇なり”で、“実戦派の闘将”としてその名も高い金田繁七段(第15代世界チャンピオン)が、勝利目前のゴール2メートル手前でつまずいた(逆転)!全日本選手権の舞台で、現役の世界チャンピオンを破り、続いて現役の名人も今ここで破るようなことになれば、実戦派の闘将・金田繁3度目の全日本選手権決勝進出となり、決勝での読みの村上健との初対決も見物(みもの)で、そうなればオセロ史も別の展開を見せたでしょうが、現実はその時、白(金田)の残り時間は10秒を切っていました。
10年前の全日本決勝初登場の時、盤面だけに集中して時間切れになってしまった苦い思い出が頭の中を横切ったのかも知れません…対局時計の表示は7,6,5と変わって行きます。打って返して時計を押すだけで2秒はかかるでしょう。その間に3,2,1,0となったら即アウト! もう読んでいる間はなし、☆打ちか?X打ちか?勘で打ったのは☆打ちの大悪手で、2石損のこの1手で金田繁七段(白)は逆転負け!

 かくて、中島哲也名人は決勝へ初進出!


最近の金田繁氏と家族。友貴夫人、穂乃花ちゃん(1才9カ月)。仕事(弁護士)に家庭に趣味(オセロ、その他)に充実の毎日(アメリカ在)。

難しい詰オセロ。問題 II (決勝1番勝負、村上対中島哲也)

問題 II
(決勝、村上対中島)
白番  は?
「しめた!」と天王山に打ったが実は3石損の悪手で、敗着となった!
豪快な返し技、ブラックライン通しのX打ち
白困った!(実戦の経過)




 問題 II は形勢不明(厳密にいえば白1石リード)で、もはや1手の緩手も許されない難解な終盤戦。この局面を演出したのは(村上)であり、上辺Bは一見して天王山(白からも黒から打っても絶好の場所)ですが、実は、これが村上健七段演出の巧妙な誘いのスキ!

 実戦は、「天王山だから早い者勝!」とを天王山に打ったのですが、これが悪手(3石損)で、さしもの白の好局もこの1手で逆転!(ブラックライン通しのX打ち)が、読みの村上が用意していた見事な返し技で、白はこの手を見落としていました。以後は双方最善手で白に再逆転のチャンスはありませんでした。

問題 II からの正解手順

天王山(B)に勝るX打ち!
1石返し手待ち!
正解手順(絶対この1手の連続!)



正解手順終了図
黒31−白32

 は総て最善手(絶対この1手)。厳しい制限時間のある実戦で、最後の白1石勝迄読み切ることは到底不可能!

 読み切れない難解な問題IIの局面を勘で打てば白Bと天王山に眼が行きますが、白Bの天王山に打った1手が痛恨の敗着で、初の全日本チャンピオン、続く初の世界大会日本代表の夢も一瞬で消失とは厳しい現実。

 正解のは読みが伴って初めて打てる手。は白壁作り、中辺の横取りの危険のX打ちで、勘では浮ばない着手ですが、実戦の大技を未然に防いだ好手です。“毒をもって毒を制す”といいますが、はブラックライン通しのX打ちの大技!

 問題IIで、2手先の迄を正確に読んで、「ブラックライン通しのX打ちと打たれてしまったら、白やばいぞ。それなら白から先にブラックライン通しのX打ちをしたらどうだ?うん、これはいいようだ。よし、のX打ちだ!」となって、初めて打てるのが正解のなのでした。

 問題 I、II 共、正解はX打ち!実戦では、このX打ちを打たなかったばっかりに、金田繁七段は3度目の全日本決勝進出のチャンスを逃し、中島哲也名人は初の日本一、そして世界大会出場のチャンスを逃してしまいました。“オセロのX打ち”の謎は深まるばかりです。

C. 秋、第22回世界オセロ選手権大会(於スペイン・バルセロナ
(1998年11月5日〜7日、参加17カ国、選手38名)

予選リーグ上位4名による決勝トーナメント(11月7日)



世界オセロベスト10傑

順位 選 手 名 代 表









10
村上 健
E.カスパール
D.パンル
峯 達哉
R.マトリエク
S.ニコレ
D.シェイマン
K.フェルドボーグ
B.アンドリアーニ
ジャッキー・フー
日本
フランス
フランス
アメリカ
アメリカ
フランス
オランダ
デンマーク
マダガスカル
中国
21 山田 亨 日本
26 佐野洋子 日本


 嵐の前の静かさ!いよいよこれから始まる決勝3番勝負を前にして、まずは笑顔で握手する日仏の両雄。
 読みの村上(左)と剛力(ストロング)・カスパール。

※団体戦は、優勝フランス、2位アメリカ、3位日本…。フランス代表は粒ぞろいの強豪で、パンルやニコレは、予選リーグで村上に勝っています。大会3日目の決勝トーナメント準決勝で、パンル(予選リーグ1位)対カスパールというフランス代表同士の組合せとなったことは、村上にとって追い風となりました。初出場で村上も破って予選1位となった底知れぬ怪物パンルを剛力(ストロング)・カスパールが退治してくれたからです。かくして、決勝はカスパール対村上!

第22回世界オセロ選手権大会特選7局 (左の選手が先番)


決勝3番勝負第1局虎1

決勝第2局闘牛

決勝第3局上段牛
村上 34 30 カスパール
カスパール 32 32 村上
カスパール 25 39 村上


準決勝3番勝負第1局虎1

3位決定1番勝負虎1

予選第8試合闘牛
パンル 31 33 カスパール
黒59手目で時間切れ負。
(盤面黒38対白26だが、スコアは上記。)
パンル 38 26
パンル 33 31 村上
白58手目で時間切れ負。
(終了盤面は黒29、白35だが、スコアは上記。)


予選第1試合バッファロー

ニコレ 33 31 村上
白58手目で時間切れ負。
(盤面も同じ。時間切れにならなくても白2石負。)

 バイオリンは、名手が名器を大舞台で奏でる妙な
かなたえ
 バイオリンは、名手が名器を大舞台で奏でる妙なる調べは、人々を魅了しますが、オセロも、世界ベスト3の名オセラー・村上、カスパール、パンルが世界選手権の大舞台で心血を注いで打ったこの特選7局は、時(1998.11.5〜7)、場所(スペイン・バルセロナ)を越えて、並べる人を楽しませてくれます。オセロはゲーム界のエスペラント!

 オセロ対局と持時間(秒読みなし)

 石を返し終えてから対局時計を押す。対局時計を押す前に0表示が出れば即負けで、例え盤面で勝っていてもスコアは31対33になる。

カスパールが、“中辺の横取り”を打てば、オセロの歴史は変っていた!


I. 決勝3番勝負第3局の超難解な中盤戦!
原図     は?



 両選手共に、背水の陣の心境で臨んだこの第3局!第2局迄の経過は村上が1勝1引分でリードですが、石差合計は僅か4石。この第3局でカスパール(黒番)は、5石以上勝てば初タイトルを取れる!

 局面の流れは、何となく黒が楽に5石以上勝てるような雰囲気になってきました。「形勢容易ならず!」と見て村上は長考の末、“勝負手のX打ち”を放ちました(原図)。

 この所10年間、決勝3番勝負は全部第2局で終了しています。それ以前の記録を調べてみても、第3局迄行ったのは第11回の石井健一対ポール・ラル戦(1987年)のみで、他は総て第1局に勝った選手が次も勝っています。オセロは黒番が有利か白番が有利かとよく質問されますが、オセロは中盤、終盤の変化が物凄くて、その時の勢いのある方が、激しい変化の荒波を乗り切って勝つのであって、黒番、白番はあまり関係ないと統計は示してます。

 モナ・リザの微笑とオセロのX打ちは永遠の謎といわれ、“X打ちを制する者は世界を制す!”がオセロ格言。X打ちこそは、激変するオセロの中終盤の立役者であり、村上が全日本オセロ選手権決勝(1998.7.26)で名人・中島哲也を2石差で破ってこの世界大会日本代表になったのも、中盤、形勢不利と見て村上(黒)が打った勝負手のX打ちが逆転勝の切っ掛けとなったからです。

 その読みの村上が、第22代世界オセロチャンピオンの座をこの1局に賭けて、フランスチャンピオンの剛力(ストロング)・カスパールと力と技のねじり合い。「形勢容易ならず」と判断した村上は、そこで伝家の宝刀を抜き“勝負手のX打ち”を打ち、超難解な中盤戦に突入(原図)!

II. 原図からの正解
中辺の横取り!!
正解続き
最強の抵抗!
絶対この1手!!
他の手は総てアウト!




正解手順
黒37−白27



 中辺の横取り(好手にも悪手にも化ける怪物“オセロの勝ち方”P128〜131)のが正解です。続いても絶対の最善手です。2図では、最善手が黒ア、次善手が黒イ(アに比べて6石損)、黒ウ(8石損)、黒エ(8石損)、黒オ(10石損)ですが、実戦でこんな所迄正確に読んでいたら、ここでもう時間切れです。

 しかし、勢いのある時の一流オセラーは、勝負所で雑念のない無我の境地の中で、直感で最善手を打つ!一流オセラー・カスパールなら、中辺の横取り、続いても打てた筈!しかし、…

III. 実戦の経過(1図)
雑念の中で打った悪手!
好手、1石返しの手待ち(ブラックライン通しの修復)2図
どうだ!これなら白はブラックライン通しの修復はできまい!(3図)





が絶妙の返し技!
事の重大性を知り、愕然としたが後の祭り(4図)



 原図の局面に直面したカスパールはしめたと思いました。「とうとう白は苦しまぎれのX打ちをしてきたな。この勝負楽勝だぞ。さてと、まずいつでも黒☆と打てるように、ブラックラインの白に切りを入れてやれ(1図)。なぬ?黒の切りを消しに来た(2図)?それなら、絶対に消せない黒の切りを入れてやる(3図)!」苦戦の局面打開のため長考を重ねた村上(白)は残り時間が少くなっていましたが、カスパールの時間は沢山余っていました。それにも拘らず、カスパールは上記を殆どノータイムで、パタパタと打ってしまいました「もうどうやっても俺の勝なんだ!」。

 しかし乍ら、現実は冷厳でした。は10石損の悪手、も8石損の悪手でこの2手だけで18石損、あゝ何たることだ!原図は黒10石リード、2図は互角、4図は白8石リード。2図からでもをA(白ア)、ア(白イ)、1(白X打ち)のどの変化も互角で、それならまだ黒も希望が持てたのでした。総ての原因はX打ちから起りました。X打ちの謎!

花の都パリにあるフランスオセロ連盟と名選手達



「日本オセロ連盟発行オセロニュースNo.81」と「フランスオセロ連盟発行FFORUM(オセロ季刊誌)No.71。ページ数も多く内容も高レベル。レイティングではカスパール、タステ、柏原、ニコレ…も上位健在」



カスパール


パンル


ニコレ

 団体戦優勝の上記3人は粒ぞろいの一流オセラー。カスパール準優勝、パンル予選リーグ第1位、ニコレは第20回準優勝。3人は今回村上と計5回戦って2勝2敗1引分!

 剛力(ストロング)・カスパール(準優勝2回)、天才・ブライトウェル(準優勝3回、イギリス)、鉄腕(パワフル)・シェイマン(優勝3回、準優勝3回、オランダ)、ベン・シーリー(現世界チャンピオン・準優勝1回、アメリカ)等の音に聞こえた世界の強豪は、百人物語でも既に顔写真入りで紹介しました。剛力(ストロング)・カスパールが世界オセロ選手権大会の檜舞台で日本代表と戦った特選譜9局は百人物語で紹介しましたが、(滝沢信行に○○1993、為則英司に××1995、村上健に×引分×1998、北島秀樹に○2002、末國誠に○2003)と互角の星、カスパールの今後に注目!

 ニコレ対村上(第20回世界決勝1996)は当物語第16回でも紹介しましたので、ここでは、世界選手権大会初出場で予選リーグ1位の快挙を成しとげたパンル対村上戦を題材としてお見せします。

 今迄にも、世界オセロ選手権大会の檜舞台に初登場、初優勝した若人達は沢山います(丸岡秀範、谷田邦彦、石井健一、ポール・ラル、滝沢雅樹、為則英司、金田繁、末國誠は、その時15才〜21才)し、現世界チャンピオンのベン・シーリー(アメリカ)は、第26回世界オセロ選手権大会に初登場して予選1位、準優勝(2002、20才)、第27回優勝(2003.11.1.21才)。

 日本では、昔から40才を不惑といって30代と区別してきました。不惑、枯淡の境地、老境といった所でしょうか?「うかうか30、きょろきょろ40」とよくいわれますが、これも40才・不惑を意識しての格言です。オセロでも、全日本選手権大会や名人戦では、マスターの部(40才以上)があります。不惑になったら、ギラギラした闘志をみなぎらせて日本一、世界を狙うのは若者に任せて、マスターの部でゆったりとオセロを楽しみましょうやという訳でしょうか。今(2004.6.1)迄、全日本選手権31回、世界選手権27回、名人戦25回行われていて、その決勝戦を戦ったオセラーは計166人いますが、40代は1人もおりません。40代以上の人は、そこ迄勝ち上れなかったのです。2003年のオセロ名人戦、全日本選手権でマスターの部を連続制覇した東條淳四段は今年の名人戦(2004.3.27)無差別の部に出場し、112名中23位は立派な成績でした(1位末國誠25才、2位平川有宇樹20才)。

 ドミニク・パンル(フランス)は、何と40才でオセロを覚えた異色のオセラー。本業は数学の先生で、世界大会初出場で予選1位は快記録。準決勝でストロング・カスパールに惜敗して決勝進出は成りませんでしたが、3位決定戦では、峰達哉(アメリカ)を堂々破って3位入賞!対カスパール、対村上戦も白熱の大激戦(最後は時間切れ!)を演じた物凄さ!

パンル対村上健(予選第8試合、1998.11.6)
原図     は?
正解はこのC打ち!(☆を取れるのに取らず白さんどうぞ取りなさい!)
正解の続き(実現はしなかった幻の最善手の応酬)
黒38−白26




実戦 御馳走に見えた☆打ちが、12石損の悪手・逆転!



実戦の経過…序盤・中盤戦は、局面の主導権を握った村上(白)ペースの進行。しかし、終盤に入ってから、が何と24石損の大悪手!「左下☆と下辺Cは白がいつでも打てる2つの余裕手。2つの余裕手は温存しといて、左辺にと爆弾を仕掛けて黒に手を渡せば、爆弾は自然に破裂して白の圧勝!」が村上の読みでしたが、が白の意表を突いた絶妙手(2つの白の余裕手を同時に消している!)で、村上はパンルのこの手を見落としていたのでした(逆転して黒10石リード)。では左下☆打ちが正解!「しまった!」必死に考えて、(X打ち)、と最善手、しかし、相手もと最善手。今度は白には厳しい時間攻め!形勢と時間の両攻めにあって流石の村上も立ち往生、X打ちを打った時の白の残り時間は10秒!然るにここで突如大事件!時間のあるパンルが打った☆打ちが12石損の大悪手(再逆転!白2石リード)!予期せぬ大悪手に一瞬戸惑い、それが悪手なのを見抜き、それに対する正しい応手を打ち時計を押す迄に費した4秒が白の命取りになりました。残念、を打って時計を押す前に0表示(再々逆転)!

 しかし、残り10秒になってから打った迄が全部最善手だったのは、やっぱり世界チャンピオンになった読みの村上!



再び手にする優勝杯!
喜びの村上健氏

燦然と優勝杯は我にあり!されど…村上健氏の謙虚な言葉

 決勝3番勝負は、手に汗を握る大熱戦を展開、2勝1引分で読みの村上が剛力(ストロング)・カスパール(フランス)を破って、第22代世界オセロチャンピオンになりました。

 “一将功成りて万骨枯る”は世の常といえ、1人の華々しいチャンピオン誕生の陰には、無数の敗者の悲しみがあります。しかし、どんな社会でも競争は日常茶飯事、日本、世界一になるのは人々の高き理想の思いです。

 再び世界オセロチャンピオンになった村上健氏自身の言葉の引用。
『決勝第3局が終わるとすぐにラザール(フランス代表にもなったことのある選手)が部屋に入ってきて、うなだれているカスパールの肩を後から抱き、フランス語で慰めの言葉を囁いた。この光景は今でも目に焼き付いている。美しい友情だった。私は勝ったが、2年前の初優勝の時のようなあの爆発的な喜びは湧いてこなかった。私も遅咲きプレイヤーである。オセロを始めてから初優勝するまで15年。今一歩のところで栄冠を逃す悔しさは何度も経験している。「あなたは本当に強い。決して諦めないで下さい。近い将来必ずチャンピオンになれますから」と言うことしか私にはできなかった。「ええ、私は諦めません」とカスパールは答えた。……。
 本当の喜びが湧いてきたのは、1時間してからであった。……。』

2. オセロ最近の話題

A. 第32回全日本オセロ選手権大会の開催予告

日時… 2004年7月18日(日曜)、10時〜6時
主催… 日本オセロ連盟、後援・読売新聞社・(株)パルボックス
無差別、女子、マスター(40才以上)、青年(39才以下)、中学生、小学生の6部門で行う。無差別の部優勝者は、秋の第28回世界オセロ選手権大会に日本代表として招待。女子の部優勝者は、女流名人と改めて3番勝負を行い、勝った者が日本代表。(詳細はオセロニュース81号、日本オセロ連盟HP参照。お問い合わせは日本オセロ連盟事務局03-3843-7611)

B. 第3期グランドオセロ名人戦の予告
(主催 日本オセロ連盟 後援 (株)パルボックス)

日時… 2004年7月19日(全日本の翌日)10時〜4時
参加費… 会員1000円、非会員3400円、昼食つき。(但し、前日の全日本オセロ選手権大会出場者は無料)。
参加者… 先着32名。予約は日本オセロ連盟(03-3843-7611)へ
試合方法… 勝ち残り方式。参加者全員が5局(1人30分持)打ち、全員が最後迄スリルを楽しめる1勝500円(連盟賞)の積上げ方式。
段級位の認定… 優勝七段〜第7位初段
賞品… 優勝パルボックス賞、準優勝長谷川賞、1位〜7位グランドオセロ、参加者32名として、31位でも1勝賞(500円)が出る。
場所… (株)パルボックス4階・東京都台東区元浅草3-1-1 TEL 03(3843)1501(代)

☆グランドオセロとはどういうゲームか?

 光陰は矢の如く流れて行きます。激動の20世紀も終り、21世紀がスタートしてから間もなくグランドオセロが登場しました。日本や欧米では既にグランドオセロ大会も行われてます。ピアノにもグランドピアノがあり、名手がグランドピアノで弾くベートーベンやショパンの曲は圧巻です。

オセロ(8×8路)は、盤を1路増減するごとに、その変化は幾何級数的に増減します。グランドオセロの盤は10×10路です。オセロでは、序盤戦(1〜15手)、中盤戦(16〜40手)、終盤戦(41〜60手)と分類されていますが、グランドオセロでは序盤(1〜20手)、中盤(21〜70手)、終盤(71〜96手)で、その広大な盤面で展開されるドラマは、押し寄せる象の大群のような迫力です。

 第3回グランドオセロ名人戦実行委員長の北島正人日本オセロ連盟理事は、第2回グランドオセロ名人戦にも出場、全日本オセロ選手権大会無差別の部ベスト8にも入ったことのある剛の者。北島正人氏曰(いわ)く、「実際に打ってみて、初めてグランドオセロの複雑さ、奥深さ、面白さに魅了されました。グランドピアノで名手が演奏するショパンに魅了されるのは、聴衆側にも或るレベルの音感があってのことでしょう。グランドオセロは、オセロ有段者もしくはそれに近いゲーム感のある人向きのゲームといえます。」

第1期グランドオセロ名人決定2番勝負第2局(2002.4.13.土)と寸評

第2局(持時間各30分)兔1


オセロ名人
オセロ七段
北島秀樹 46
88オセロ名人
オセロ七段
冨永健太 54

残り黒1分、白3分30秒。2連勝で冨永グランドオセロ名人誕生!

第1期グランドオセロ名人決定2番勝負を打つ冨永健太(左)と北島秀樹の両選手。

名局の寸評

ホワイトライン通しのX打ちの大技
黒☆を取れ(☆を取らせて余裕手を作る)
黒☆を取れ(豪快な捨て石作戦。☆を取らせて適切な余裕手の放出)。
黒☆を取れ(☆を取らせて、白連打!)
黒☆を取れ(☆を取らせて、天王山を打ち白連打!)

 白は、黒に4つの☆全部を積極的に取らせて、その都度巧みにその代償を取って確実に勝ち切ってます。

…第2期グランドオセロ名人戦(2003.10.5)では、全勝同士の決勝1番勝負で佐々木惣平氏(オセロ三段、3秒の勝負師)が冨永名人を破って優勝(残り時間 黒・佐々木17秒、白1秒!)。百人物語第12回で詳述。






(2004年6月1日 長谷川五郎 記)




百人の物語 > (第18回)力比べ、読み比べとなった第22回世界オセロ選手権決勝

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