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オセロ史を飾った百人の名選手の物語
(第21回) 21世紀のオセロ展望…オセロファンによる、オセロファンのための、オセロファンの大会(その2.全日本オセロ選手権大会)


1. 全日本オセロ選手権大会 (夏)
A. 世界最古の伝統を持つ全日本オセロ選手権大会
B. 全日本オセロ選手権は、老若男女オセロファンが皆気軽に参加できる大会である。
1 オセロは家族全員で楽しめるゲーム
2 高崎禎夫氏終盤の一失で長蛇を逸す それから27年後!!
3 家族とオセロを楽しむこと30年、日本オセロ連盟最高齢会員・前島なみさん・92才のオセロ人生
C. 最近5年間の全日本オセロ選手権大会無差別の部ベスト8一覧と特選譜
I. 最近5年間の全日本オセロ選手権大会無差別の部ベスト8一覧
つわもの
夏草や兵どもが夢の跡
II. 最近5年間の全日本オセロ選手権大会無差別の部特選譜
1 第28回(2000.7.30.日)特選譜 全勝優勝・坂口和大(八段へ)

村上健〜坂口和大、村上健〜滝沢雅樹、坂口和大〜奥田努


村上健〜北島秀樹(代表者決定戦、2000.8.6.日)

をXに打たなかった(打てなかった)のが世界オセロ史を変えた
2 第29回(2001.8.5.日)特選譜 全勝優勝・坂口和大(九段へ)

坂口和大〜中島哲也、末國誠〜坂口和大、飛田剛〜中島哲也

佐藤伸二〜冨永健太、青木和音〜金田繁
全日本2連覇・坂口オセロの真髄は“虎穴に入らずんば虎児を得ず
X打ちの研究 I 準決勝、黒・末國対坂口戦→坂口は危険は覚悟、敢然として飛び込んだ虎穴(X打ち)で見事虎児を得た
X打ちの研究 II 形に惚れて打った坂口のホワイトライン通しの黒のX打ち2連打作戦は失敗。黒は絶体絶命のピンチ (決勝・坂口対中島戦)
3 第30回(2002.7.28.日)特選譜 初優勝・駒野達也(七段へ)

午後の部ベスト16人による決勝トーナメント一覧

駒野達也〜滝沢雅樹、久冨大輔〜駒野達也、山田雄一〜滝沢雅樹

村上健〜滝沢雅樹、管生貴祐〜河原田雄一、末國誠〜村上健

宍戸博幸〜谷田邦彦、山田雄一〜長尾広人、為則英司〜村上健
(決勝)横綱・滝沢雅樹が新鋭・駒野達也に1本負けした背景
“迷ったらA打ち(オセロ格言)”は絶対に非ず(実戦原図 I )
手広く茫洋たる中盤戦初期は読みより感覚(実戦原図 II )
駒野達也、ブラボーのX打ちで見事な1本勝ち(実戦原図 III )
4 第31回(2003.8.2.土)特選譜 初優勝・後藤宏(七段へ)

村上健〜後藤宏、村上健〜滝沢雅樹、平川有宇樹〜後藤宏

駒形真之〜村上健、後藤宏〜木内秀行、高橋寛二〜滝沢雅樹

鈴木竜弥〜平川有宇樹
緊迫した局面では、悪手を打った方が負ける(平川対後藤戦)
実戦原図→敗因となった悪手 (実戦)
実戦原図からの黒の正しい打ち方(正解 I 、II、III 図)
参考(実戦原図からの双方の正しい打ち方)
5 第32回(2004.7.18.日)特選譜 全勝優勝・為則英司九段

各リーグ(A〜P)優勝者16人によるトーナメント1本勝負(無差別の部)

坂口和大〜為則英司、高橋寛二〜為則英司、石崎光〜坂口和大

得丸剛〜高橋寛二、野田敏達〜為則英司、坂口和大〜後藤宏

後藤宏〜土田英二、為則英司〜村上健、坂口和大〜佐々木惣平
前人未踏・全日本選手権6回目の優勝を飾った鬼神・為則のX打ち(為則対村上戦)


2. オセロ最近の話題
A. 第28回世界オセロ選手権大会(於ロンドン 2004.11.12〜14)
日本代表3選手を写真入りで紹介
I. 為則英司九段(全日本チャンピオン)
II. 末國誠九段(名人)
III. 木下央子五段(全日本女子チャンピオン)




(第21回) 21世紀のオセロ展望…オセロファンによる、オセロファンのための、オセロファンの大会(その2.全日本オセロ選手権大会)

1. 全日本オセロ選手権大会(夏)

A. 世界最古の伝統を持つ全日本オセロ選手権大会

 全日本オセロ選手権大会は世界で最初に行われた本格的なオセロ大会です。世界オセロ選手権大会はその4年後から、オセロ名人戦はその7年後から、ヨーロッパオセログランプリはその11年後から始まって現在に至っております。

 光陰は矢の如く流れて止(とど)まることがありません。2004年7月18日(日曜)には、全国から選ばれた231名の選手が代々木のオリンピックセンターに集って第32回全日本オセロ選手権大会が盛大に開催されています。無差別の部優勝の為則英司九段(近畿)、女子の部優勝の木下央子五段(東京)と末國誠名人(第25期オセロ名人戦無差別の部優勝、2004.3.27.土)の3選手は、第28回世界オセロ選手権大会(於ロンドン、2004.11.12〜14)に日本代表として出場しますが、その結果については本欄でも紹介します(詳細はオセロニュース第83号)。

 32年間には、ズッシリとしたオセロの歴史がその都度刻み込まれ、数多くのドラマも展開されて来ました。第1回大会の時には、為則九段は3才の坊や、末國名人と木下五段はまだ生れていません。全日本、世界、名人戦と計84回も全国規模、世界規模のオセロ大会が今迄開催され84人のオセロチャンピオン(無差別の部)が誕生していますが、不思議なことに、オセロチャンピオンになった選手は常に若くて年を取りません。囲碁や将棋では50代、60代のタイトル保護者も珍しくありませんが、オセロでは全日本オセロ選手権ではマスターの部(40才以上)という別枠を設けています。勿論、40代でオセロ無差別の部チャンピオンになった人はなく、最近5年間の名人戦ベスト10一覧(第20回参照)、全日本選手権ベスト8一覧を見てもそこには40代は1人もいません。1日フルに戦い抜いて7連戦が優勝の絶対条件の無差別の部の修羅場では、実力、運の他に体力も重要な要素となってくるからです。

 しかし、世の中の情勢は刻一刻と変化して行きます。江戸時代、明治・大正・昭和時代を通して言われ続けてきた“人生70古来希なり”は、現代では“人生70古来常なり”になっています。10年ほど前迄は、「オセロでは30代になれば、もうチャンピオンになれない(唯一の例外・J.サーフ氏の34才・世界チャンピオン)」と言われ続けてきましたが、最近5年間の全日本チャンピオンの4人は30代です。

B. 全日本オセロ選手権は、老若男女オセロファンが皆気軽に参加できる大会である。

 オセロは、家族全員が楽しめる最適のホームゲームです。それを考慮に入れて第1回全日本オセロ選手権大会は男子、女子、少年少女の3部門制でスタートしました。そして32年、現在は無差別、女子、中学生、小学生、マスター(40才以上)、青年(39才以下)の6部門制になっています。そのうち、秋の世界オセロ選手権大会に日本代表として参加できるのは、無差別の部優勝者と女子の部優勝者(女流名人との3番勝負で勝った方)と名人の3人です。20世紀には、日本代表は8割近い確率(24回中19回、77.1%で世界チャンピオンになっていましたが、21世紀に入ってからは3回連続して敗れています。しかし、それはオセロが、日本のオセロから世界のオセロへと発展してきた何よりの証拠と見ることもできます。日本発のオセロは、日本独占時代、群雄割拠時代を経て、21世紀新時代へと突入しました。いずれにしても、この秋の第28回世界オセロ選手権大会(2004.11.12〜14.イギリス・ロンドン)は、世界のオセロファン注目の的、アメリカ・フランス・イギリス・オランダ・イタリア等の音に聞く名オセラー相手に、日本代表の3選手(為則英司、木下央子、末國誠)はどんな戦いぶりを見せてくれるでしょうか?

1 オセロは家族全員で楽しめるゲーム

 1分で覚えられて、無限の奥深さを持つオセロは、最適のホーム・ゲームの1つ。お父さん・お母さん対子供、おじいさん・おばあさん対孫の対局、子供同士の対局…日本6000万人のオセラー(オセロプレイヤー)の基本は家庭にあります。かつての小学生オセラーは、10年、20年、30年以上経った現在はパパ、ママになり、クリスマスのプレゼント等にオセロを子供に与え、そこから又オセロの輪は広がって行きます。全日本オセロ選手権大会に小学生の部を設けて32年、その成果は着実に実り、今では日本の小学生でオセロを打てない子は殆どいない位になっています。

 ホームゲームとしてオセロを楽しんだ親と子その孫が3代にわたって日本オセロ連盟主催の全日本オセロ選手権大会やオセロ名人戦に出場して、そのうち2代、或は3代にわたって入賞した男性、女性の具体例を紹介しましょう。写真は、広島の高崎禎夫氏(四段)親子3代のオセラー、静岡の前島なみさん、十三子さん、細田規子さん3代です。オセロは、大会を通じて全国各地の人々に出会いの場を提供しているのです。

 ̄ ̄ さだお
高崎禎夫氏(第3回全日本2位)は親子3代のオセロファン。3代合計でオセロ十段
全日本オセロ選手権大会やオセロ名人戦に揃って出場したこともある親子3代
左から前島なみ二段、十三子三段、細田(旧姓前島)規子さん。なみさんと十三子さんは全日本女子の部入賞経験者。規子さんとそのお嬢さん優有香ちゃんはこれからが楽しみ。

2 高崎禎夫氏終盤の一失で長蛇を逸す それから27年後!!

実戦原図 は?
(正解)勝負手のX打ち
(正解手順)の4連打が痛烈 [黒28-36白]




第3回全日本決勝兔A


山崎 明 (東京) 37
高崎禎夫 (広島) 27

 その日(第3回全日本オセロ選手権大会、1975.8.14)、高崎禎夫氏(広島代表、45才、広島大学経済学教授)は無人の境を行くが如く勝ち進んで、終に決勝に進出。オセロ全日本32回、名人戦25回の歴史の中で、40代選手の決勝進出はこの1回だけで、勝てばオセロ史に残る空前絶後の45才の全日本チャンピオンの誕生となったでしょう。

 相手は22才の山崎氏(東京代表)、決勝1番勝負は互に一進一退の末、終に白の高崎氏に廻って来た絶好のチャンス(実戦原図) 白がを右上X打ち(正解)すれば、以下の手順(正解手順)は一潟千里で白が勝ったでしょう。を左上X打ちするのは駄目(12石損の悪手)で負けになります。一見同じように見えるX打ちでもえらい差で、オセロの終盤戦は常に逆転の危機を孕(はら)んで本当に難解です。要するに、実戦原図の局面で、白が右上X打ちを打たなかった(打てなかった)のがオセロの歴史を変えたのでした。オセロのX打ちの謎は永遠で、21世紀に持ち越されています。

 実戦では、を左下にC打ち(18石損の悪手)してこの1手で逆転、以後白にチャンスはありませんでした。高崎禎夫氏は準優勝、四段になったのを土産に現役選手を退き、日本オセロ連盟理事・中国・四国ブロック長としてオセラーの育成に長年にわたって携って頂くことになりました。早速、翌年の第4回全日本オセロ選手権大会(1976.8.8)では、中国地区代表の大山恵里子さん(岡山市、22才の小学校の先生)が女子の部で優勝、子息の高崎良平君(12才)も少年少女の部で見事4位入賞(その時の優勝者は、当物語でも度々登場した水谷美貴子さん小6、12才、静岡)……。……。

第24期オセロ名人戦中学生の部決勝闘牛A


高崎 悠太朗 52
斉藤 恵太 12

 そして、それから又26年の歳月が流れました。第24期オセロ名人戦(2003.3.22.土曜)の中学生の部で高崎悠太朗君(中3、14才)が優勝して四段位を獲得、そのことを一番喜んだのは祖父の禎夫氏でした。右掲がその決勝の棋譜ですが、黒の緻密な読み、特に終盤の怪力が印象的です。今年の第25期オセロ名人戦(2004.3.27.土)では悠太朗君は無差別の部で5勝2敗で堂々15位(112名中)、初出場の第3回グランドオセロ名人戦(2004.7.19.月)では4勝1敗270石で6位(グランドオセロ二段位獲得)、特に佐々木惣平グランドオセロ名人に49対51で競り勝った1局は凄かった高崎悠太朗四段は、将来大輪の花を咲かせるのではないかと噂されている日本オセロ界の若きプリンスです。

3 家族とオセロを楽しむこと30年、日本オセロ連盟最高齢会員・前島なみさん・92才のオセロ人生

 “60の手習い”といいますが、前島なみさんがオセロを知り、オセロを始めたのは60才を過ぎてからでした。孫の細田規子さん(旧姓前島)の言葉をそのまま引用、「幼ない私が初めて見たオセロに興味を持ち、オセロで遊ぶようになり、そんな私の付き合いでおばあちゃん(なみさん)や母(十三子さん)もオセロを始めました。それからは、おばあちゃんを筆頭に3人共どんどんオセロが好きになり、年に4回開かれる静岡県オセロ大会にも毎回参加させて頂くようになりました。…。」

 第6回全日本オセロ選手権大会(1978.8.6)女子の部で、十三子さん3位入賞。第11回全日本オセロ選手権大会(1983.7.31)には、東海地区代表としてなみさん、十三子さん(女子の部)、前島規子さん(少年少女の部)の親子三代が同時出場の快挙 全日本選手権では部門別に出場枠があってそこに入れなければ予選落ちですが、東海女子の部から全国大会に出場できるのは4人という狭き門で、全日本選手権32回の歴史の中で親子三代同時出場は前後未曾有のこの記録1回だけです。この時なみさん71才、十三子さんは5位入賞。

 まだあります。第15回全日本オセロ選手権大会(1987.8.2)女子の部で前島なみさん(75才)7位入賞 大輪の花を咲かせました。その時の8人の入賞者の5人・玉家美樹、大柳真咲、松井琴子、伊地知真美、玉家琴江さんは、既に又は後に全日本女子オセロチャンピオンになった人達です。その時のことは今でも強く想い出に残っているそうです。


第23期オセロ名人戦で、選手代表として8才の中野譲君と選手宣誓を行った前島なみさん・90才(2002.3.3.日)
 それから又13年経ちました。今迄の挑戦者制をやめ、予選なしで誰でも参加できる自由参加制を採用した第21期オセロ名人戦(2000.4.9.日)に、「勝敗はともかく、大好きなオセロゲームを色々な人と出来るのがとても楽しく、何よりの喜び」というなみさん(88才)は十三子さん、規子さんと共に静岡から前日上京、3人共選手として初めて無差別の部(名人戦は第1期よりずっと無差別の部一色)に出場。「無差別の部は流石に皆さんお強くて、良い成績は残せませんでしたが、とても良い経験になったそうです。帰ってからも、母に棋譜を大きな紙に書いて貰い、勉強しているおばあちゃんを尊敬しております。それに、大会に行くと“おばあちゃん、おばあちゃん”と温かく接して下さり、お世話になっている皆様に感謝の気持ちで一杯です。」と細田規子さん。

 なみさんは現在は5人の曾孫がいる曾おばあさん。温い家庭の中でオセロを楽しく打ちながら、いつ迄もお元気で百才を目指してください。

C. 最近5年間の全日本オセロ選手権大会無差別の部
ベスト8一覧と特選譜(2000.7.30〜2004.7.18)

I. 最近5年間の全日本オセロ選手権大会無差別の部ベスト8一覧


第28回
2000.7.30(日)
第29回
2001.8.5(日)
第30回
2002.7.28(日)
第31回
2003.8.2(土)
第32回
2004.7.18(日)
坂口 和大
( 東京・七段 )
坂口 和大
( シード・八段 )
駒野 達也
( 東関東・四段 )
後藤 宏
( 北関東・五段 )
為則 英司
( 北陸近畿・九段 )
村上 健
( 東京・八段 )
中島 哲也
( 東京・六段 )
滝沢 雅樹
( 新潟八段 )
村上 健
( 東京・九段 )
坂口 和大
( 東京・九段 )
滝沢 雅樹
( 新潟・八段 )
冨永 健太
( 神奈川・七段 )
山田 雄一
( 東京・三段 )
滝沢 雅樹
( 新潟・八段 )
石崎 光
( 東京・五段 )
奥田 努
( 中部・初段 )
金田 繁
( 東京・七段 )
久冨 大輔
( 九州・三段 )
平川 有宇樹
( 東京・五段 )
高橋 寛二
( 神奈川・三段 )
後藤 昭彦
( 北関東・五段 )
青木 和音
( 東京・四段 )
村上 健
( 東京・九段 )
駒形 真之
( 東京・五段 )
得丸 剛
( 兵庫・四段 )
後藤 宏
( 北関東・五段 )
佐藤 伸二
( 北関東・三段 )
河原田 雄一
( 中部・三段 )
木内 秀行
( 東京・五段 )
後藤 宏
( シード・七段 )
谷田 邦彦
( 東京・七段 )
末國 誠
( 東京・七段 )
管生 貴祐
( 兵庫・三段 )
高橋 寛二
( 神奈川・三段 )
奥田 浩之
( 神奈川・三段 )
井端 健介
( 近畿・三段 )
飛田 剛
( 神奈川・三段 )
平川 有宇樹
( 東京・三段 )
鈴木 竜弥
( 東北・四段 )
野田 敏達
( 神奈川・二段 )

つわもの
夏草 や兵ど もが夢の跡

 オセロ王国日本の本丸・“全日本オセロ選手権無差別の部”は巖として聳(そび)え立つレベルの高さで、世界のオセロ界を睥睨(へいげい)し続けてきました。実際20世紀の中で、全日本チャンピオン=世界チャンピオン(1985〜1991)、(1994〜1998)の等式が成り立った時代には、「世界チャンピオンになるよりも、全日本チャンピオンになる方がずっと難しい」といった選手もいました。しかし、世界の情勢は急激に変化しました。ドッグイヤーの現代では、数年先のことはもう真夏の夜の夢です。上記表の第28、29、30、31回の全日本チャンピオン達は、世界オセロ選手権大会の決勝3番勝負の檜舞台に登場することもなしに敗れ去っています。厳しい現実

 嵐の中にも時は過ぎて行きます。第28回世界オセロ選手権大会(2004.11.12〜14.ロンドン)は刻々と迫ってきます。…。

II. 最近5年間の全日本オセロ選手権大会無差別の部特選譜

1 第28回(2000.7.30.日)特選譜(左側選手が黒)、全勝優勝・坂口和大(八段へ)


決勝闘牛

準決勝虎1

準決勝闘牛
村上 健 18 46 坂口和大
村上 健 34 30 滝沢雅樹
坂口和大 32 32 奥田 努
(引き分け勝)

(2000.8.6.日)
第24回世界選手権日本代表決定3番勝負第3局闘牛
村上 健 34 30 北島秀樹

 準決勝の激しい競り合いを制して、共に6連勝で決勝に進出した村上八段と坂口名人、舞台・役者は最高 しかし、“大勝負に名局なし(格言)”といいますが、決勝は黒17、21と連続の疑問手が出て、白のワンサイドゲームになってしまいました。春の名人戦を7連勝で制して既に世界大会日本代表の切符を手に入れている坂口名人は、この夏の全日本も破竹の7連勝で優勝して八段に昇段

 秋の世界選手権に出場するには、名人戦或は全日本選手権優勝(7連勝)が絶対条件で、途中で1敗すればそこでアウトで敗者復活はありません。但し、今回は名人と全日本チャンピオンが同一人なので、初めて例外として名人戦2位の北島秀樹六段と全日本2位の村上健八段に敗者復活の道が開かれたのでした。

 アンデルセン童話でなじみ深いデンマークの首都コペンハーゲンで秋に開催された第24回世界オセロ選手権大会では、全日本チャンピオン・坂口和大は8勝5敗・7位で、ベスト4に入れずに予選で敗退し、優勝したのはもう1人の日本代表の村上健八段でした。世界オセロ史上に直接影響を与えた代表決定3番勝負(村上〜北島戦)第3局(名局)から取材したのが下掲の実戦原図です。

実戦原図 は?
1図(正解)
絶対の1手・X打ち
2図(以後の正解手順)
黒32-32白




をXにうたなかった(打てなかった)のが世界オセロ史を変えた 第1局黒北島6石勝、第2局黒村上2石勝で迎えた第3局の石の選択権は2局目迄の石数で勝る北島にあり、北島は白を選びました。もし、第3局の結果が2図のようになったら、1勝1敗1引分・石差合計4石で北島六段が世界大会日本代表になっていたでしょう。

 オセロのX打ちは永遠の謎です。準決勝の坂口対奥田(初出場・20才大学3年の新鋭)戦でも、形勢不利と見たベテラン坂口は勝負手のX打ちを放って見事逆転に成功(終盤で6石追いつかれて際どくなったが…)

2 第29回(2001.8.5.日)特選譜、全勝優勝・坂口和大(九段へ)


決勝兔1

準々決勝闘牛A

準々決勝虎1
坂口和大 36 28 中島哲也
末國 誠 29 35 坂口和大
飛田 剛 30 34 中島哲也


準々決勝虎A


準々決勝虎1
佐藤伸二 25 39 冨永健太
青木和音 23 41 金田 繁
特選譜選考の目安
1、 決勝戦
2、 名局であること(並べる人に感動を与え、棋力の向上にも役立つ)。
(注)これ以外にも熱戦譜は数多い。オセロニュース73号第29回全日本選手権大会特集号を参照して下さい。

全日本2連覇・坂口オセロの真髄は“虎穴に入らずんば虎児を得ず

 “美学の坂口”といわれ、「美しい形に悪手なし」を信条に、「制限時間のある実戦で、無限の変化を読み切ることは不可能。よって読みは適当の所で打ち切り、よいと信じた所へ勘と度量で踏み込んで行けば何とかなる。」の坂口オセロは、強い時は誰も手をつけられない強さを発揮しますが、反面何とかならなかった時(虎穴に入ったら不意に親虎が出現)の負けも多い。全日本で3度優勝し、世界大会に3度出場しながら世界選手権決勝3番勝負の大舞台にまだ1回も登場したことがないのが不思議な位です。

X打ちの研究 I. 準決勝・黒・末國対坂口戦…坂口は危険は覚悟、敢然として飛び込んだ虎穴(X打ち)で見事虎児を得た

実戦原図 は?
実戦の経過(1図)
最善手・勝負手のX打ち
(2図)当然の☆打ち





(3図)割り込みの好手
白勝利へ2歩前進(4石リード)



 坂口より11才若い末國(慶応4年)だが、既に名人2期、全日本、世界を1回ずつ制した一流オセラー。第21回世界決勝でイギリスの天才・ブライトウェル(ケンブリッジ大教授)をストレートで破った終盤の絶妙な打ち回しは、“終盤の魔術師・末國”の面目躍如 「末國戦は終盤迄にいくらかでも不利になると、圧倒的な末國マジックで逆転の可能性は低い。即ち中盤までにリードしよう。」が坂口の作戦で、実戦原図では白(坂口)がやや優勢。

 とはいっても相手は名立たる魔術師、寸分の隙でもすかさず逆転のマジックパンチが飛んできます。実戦原図では白の打てる所は8カ所ですが、最善手は1カ所で、他の7カ所に打てば即アウト しかも、その最善と思われる右上Xは危険窮りない虎穴で、読みが伴わなければとても打てない場所で、短い制限時間の実戦でこの局面を読み切ることは不可能 しかし、“美学の坂口”は、3図迄を想定し、後は何とかなるだろうで、度胸と勘でX打ち(虎穴入り)を実行 その判断が正しかったことは、何より結果がこれを証明しています。

X打ちの研究 II. 決勝、黒・坂口対中島戦…形に惚れて打った坂口のホワイトライン通しの黒X打ち2連打作戦は失敗。黒は絶体絶命のピンチ(実戦原図)

黒大ピンチ 黒の命運は白の次の1手に委ねられた。
実戦原図 は?
1図(正解) 斜め中割りで黒のホワイトラインを切る
2図(以後の正解手順)
黒26−38白





実戦の進行(a図)
17石損の悪手、逆転



 ホワイトラインとは左上☆と右下☆を結ぶ斜めの線(右上☆と左下☆を結ぶ斜めの線がブラックライン)で、真夏の空に出る虹のように、オセロでは美しい形とされています。

 “美学の坂口”は、「ホワイトライン上に黒石が綺麗に並べば悪い筈なし」の判断の下にX打ち2連打を敢行したのですが、痛烈な1図の反撃を見落していました。実戦は12石損の悪手(下辺A打ちなら形勢互角)で、実戦原図から白が最善手で反撃(1図)したら、白が勝っていました(2図)。

 第十世名人・“調和の中島”は名人2連覇の実績を持つ一流オセラーで、全日本決勝進出も2回目。無理に攻めず、守りに偏せず悠揚たる打ち方で、いつの間にか形勢を有利にしてしまう“調和の中島”に終盤の怪力がプラスされた時、世界チャンピオンの扉はひとりでに開かれるでしょう。しかし、前回(第26回決勝)もそして今回も、中島は終盤に入ってから悪手を打って惜しくも逆転されてしまいました。

 1図(正解)は一見無理攻め風、a図(実戦)(は黒のホワイトラインに切りを入れた上で4個の白石はブラックライン上に綺麗に並んでいます。“調和の中島”が1図でなく、a図を採用した理由も解りますが、現実はあく迄も冷厳でこの1手で、初の全日本チャンピオンの座も秋の世界選手権日本代表も幻となって消えてしまったのでした。

3 第30回(2002.7.28.日)特選譜 初優勝・駒野達也(七段へ)




 第30回全日本オセロ選手権記念大会は、6部門計253名の選手が参加して代々木のオリンピックセンターで開催(詳細はオセロニュース76号)。

大会終了後の楽しい記念パーティー

 世界への道に直結する無差別の部64人は、4人ずつA〜Pの16の組に分れて午前一杯かけ総当り。そこで早くも48人が予選敗退し、午後は各リーグ優勝者16人によるトーナメント連続1本勝負で、1日で優勝者が決るシステム。この厳しさは天下一品で、今回午前で姿を消した六段以上のオセラーを挙げてみます。( )内が敗退した六段以上のオセラー。 A.宍戸博幸(谷田邦彦七段)、B.川原田雄一(坂口和大九段)、C.管生貴祐(冨永健太七段)、I.山田雄一(長尾広人六段)、O.村上健(為則英司九段)、P.久富大輔(北島秀樹七段)等、これを番狂わせと見るか、世代交代と見るか、1回負けたからといって結論は出ないさというかはとも角、午後のトーナメントでは金田、末國、村上、滝沢(世界チャンピオン経験者の4人)も結局全部姿を消してしまう大波乱しかも決勝の駒野対滝沢戦は17才の駒野の圧勝!!


決勝闘牛

準決勝虎2

準決勝闘牛B
駒野達也 60 4 滝沢雅樹
久冨大輔 19 45 駒野達也
山田雄一 30 34 滝沢雅樹


準々決勝

順位決定戦虎1

トーナメント1回戦牛(ヨット)
村上 健 26 38 滝沢雅樹
管生貴祐 30 34 河原田雄一
末國 誠 30 34 村上 健


予選Aリーグ闘牛

予選リーグ虎1

予選Oリーグバッファロー
宍戸博幸 33 31 谷田邦彦
山田雄一 33 31 長尾広人
為則英司 17 47 村上 健

(決勝)、横綱・滝沢雅樹が新鋭・駒野達也に1本負けした背景

 先般のアテネ五輪の柔道で、シドニー五輪優勝、全日本選手権3連覇の実績を持つ王者・井上康生は、4回戦で背負い投げに遭って1本負け、続く敗者復活戦でも大内返しで1本負けしました(2004.8.19)が、原因は本人自身のオーバーワークによる体調不良とのこと。

 全日本2回、名人1回、世界2回を制した実績を持つ大豪滝沢雅樹八段 その滝沢が21才でギリシャ・アテネで開催された第9回世界オセロ選手権大会で初優勝し、会場全体におごそかに響き渡る日本国家・君が代の音楽に涙した時、駒野達也は1才でした。3度目の日本一、世界一を目指す滝沢雅樹は、まず午前の予選Jリーグで、佐藤伸二(五段、前回全日本6位)、寺田純也(四段、全日本少年チャンピオンに2回なったことのある東海の強手、21才・大3)、馬場利弘(九州)との激戦を制してJリーグ1位。午後のトーナメントでも、宮岡環(五段、学生チャンピオン)、村上健(九段)、山田雄一(ダークホース・22才の東京代表)をそれぞれ大激戦の末に退けて、実に久しぶりの決勝進出

 一方、無差別の部初出場の駒野達也(前年はフレッシャーの部に出て優勝)は、くじ運も味方して、予選Kリーグ、トーナメントを通して五段以上のオセラーと1回も当ることなしに、スルスルと決勝進出です。

 新潟から上京、午前からスリルの激戦を連続戦い抜いた37才の滝沢の方は、さすがに疲れが残っている。決勝の17才の駒野を見て、滝沢は何となくホッとしたのでしょう。それがエアポケットとなって、大豪・滝沢は不覚の背負い投げを食って1本負けとなってしまったのでした。

決勝、駒野・滝沢(白)戦
実戦原図 は?
1図(実戦)安易に打ったA打ちは疑問手第一弾
2図(正解)形の急所にと打って手待ち。白の打ち易い形勢。




“迷ったらA打ち(オセロ格言)”は絶対に非ず

 1手ごとに局面がガラリと変わるオセロは、アラビアンナイトの世界(一夜明ければ王様、一夜明ければ乞食)のようで、特に中盤・終盤戦では突如予期せぬ局面の出現にギョッとするのは日常茶飯事。

 “A打ちは70%以上の確率で好手”とされています(「オセロの勝ち方P14」河出書房新社刊)。「迷ったらA打ち」や、「偶数理論」はオセロ界では有名な格言です。実戦原図 I で、白(滝沢八段)は、「白A、黒B1、白アで充分打てる。」と判断して1図と打ったのでしたが、黒B2(好手)が予期せぬ返し技で、以下白B1、黒ア(実戦原図 II )となっては、もう訳の解らない形勢です。

 実戦原図 I を冷静に眺めれば、白アがズバリ形の急所です。2図から黒A、白B2を想定しても、白の充分打てる形でした。

手広く茫洋たる中盤戦初期は読みより感覚(実戦原図 II )

 手広すぎて実戦では到底読み切れないこの局面で最も大切なことは、悪手を打たないことです。徳川家康は、“鳴かざれば鳴くまで待とうホトトギス”で天下を取りましたが、家康流・滝沢も得意の屈伸戦法で天下(全日本・名人・世界)を取ってきました。

実戦原図 II は?
3図(実戦)強引すぎた仕掛け(疑問手第2弾)
4図(正解)家康流の1手返し手待ち。形勢互角。




 3図(実戦)のは黒壁破りの3石返しですから、読みの裏付けがあったのでしょうが、黒Bと当然の反撃に対して白Aと応じない(応じられない)ようでは明らかに作戦の齟齬(そご)は証文の出し遅れの悪手(強気を通して白Aと応じた方がよかった)で、黒A1と左辺2手打ちされた上で白に手を渡されて、早くも白は大苦戦 続いても疑問手(右辺A打ちの方がよし)。

 4図(正解)は感覚の1手。と1石返して黒に手を渡して黒から白壁を破ってくるのをじっと待てば、白は白C1の余裕手があるから、充分戦える筈という家康流の形勢判断。滝沢が4図を採らなかったのは不運

駒野、ブラボーのX打ちで見事な1本勝ち


実戦原図 III は?


ブラボーのX打ち
決勝1番勝負を戦う(左)滝沢雅樹(新潟)八段と駒野達也(東関東)四段

 「オセロとは、好手を打って勝つより、悪手を打って負けるゲームなり(格言)」そのもののゲーム展開となりました。最後は豪快なブラボーのX打ちで黒の見事な1本勝ちになりましたが、その前に白は疑問手や悪手を打って、既に白の敗勢は決定的になっていたのでした。

4 第31回(2003.8.2.土)特選譜 初優勝・後藤宏(七段へ)

 第31回全日本オセロ選手権大会は「百人物語第9回 2003.9.1.記」で詳述してあります。全日本では、予選リーグの中でも素晴しい棋譜は沢山あり、そこでは厳選した4局を特選譜として、その4局全部に総譜及び参考図をつけて解説。その4局とは、話題の激闘譜(下記)。

  1. 予選Aリーグ1回戦、駒野達也24−40後藤宏(第30代全日本チャンピオンと第31代全日本チャンピオンの激突。白の返し技1本
  2. 予選Bリーグ決勝、末國誠31−33為則英司(但し、時間切れ負け)。終盤の魔術師と鬼神の初顔合わせこの2人は、現在(2004.10.1)の名人と全日本チャンピオンで、この秋の第28回世界オセロ選手権大会(ロンドン、2004.11.12〜14)の日本代表。
  3. 決勝トーナメント1回戦、佐々木惣平31−33木内秀行(サファイアのように青い妖行を放つ人間味溢れる名局)。その後、佐々木氏は冨永健太グランドオセロ名人を破って第2代グランドオセロ名人(グランドオセロ七段)になっています(2003.10.5.日)。
  4. 決勝、村上健15−49後藤宏(乾坤一擲(けんこんいってき)勝敗をこの1手に賭けた後藤六段の勝負手のX打ちは大成功

初優勝の後藤宏六段
 後藤宏六段は、予選Aリーグで、全日本チャンピオン駒野達也七段、東秀喜四段(東京)、鵜野敏宏三段(北陸近畿)を破って3戦全勝、午後の決勝トーナメントでも中島哲也第十世名人、ベテラン木内秀行五段、新鋭平川有宇樹五段を怒涛の寄り身で次々と下し、決勝ではMr.オセロ・村上健九段を相手に華麗なX打ちの大技で1本勝ち大向うから「ヨーッ日本一」と声が掛ってくるような勇ましさです。

 ここでは準決勝2局、準々決勝4局を掲載。


決勝(再掲)闘牛

準決勝虎2

準決勝闘牛
村上 健 15 49 後藤 宏
華麗なX打ちで1本勝ち
村上 健 32 32 滝沢雅樹
(引き分け勝)
オセロ界の横綱同士の激戦の結果は、何と引き分け勝ち
平川有宇樹   後藤 宏
(時間切れ負)(中押し勝)
新鋭を時間切れに追い込んだ後藤の圧力


準々決勝バッファロー

準々決勝闘牛

準々決勝
駒形真之 28 36 村上 健
駒形五段「村上さんに負けたんだから納得です。」
後藤 宏 49 15 木内秀行
怒涛の攻めでベテランを圧倒
高橋寛二 20.5 43.5 滝沢雅樹
ダークホース高橋三段、横綱の壁はやっぱり厚かった


準々決勝兔1

鈴木竜弥 24 40 平川有宇樹
16才鈴木と19才平川、共に21世紀日本オセロ界期待の星
緊迫した局面では、悪手を打った方が負ける  (題材、準決勝・(黒)平川対後藤戦)


形勢不明の緊迫した局面
実戦原図は?


1図(実戦)敗因となった悪手

 実戦原図は既に1個の☆打ち、2個のX打ちも打たれていて、もはや一刻の猶予も許されぬ緊迫した難解な局面で、制限時間のある実戦で読み切る事は絶対に不可能。「気になるのは右辺Cだ。そこに白に打たれると右辺に7個の白石が確定してしまう。敵の急所は味方の急所で、先に黒Cと打つ1手」という読みで打った実戦が、実は直接の敗因となった8石損の悪手。1図は、白C1が白の余裕手で、B1、B2も白の準余裕手、黒☆の攻撃もすぐ白Bと反撃された上、☆1が白の余裕手でハッキリ黒不利の局面の出現続く(8石損、正解B2)、(2石損、正解と黒は損を重ねて、黒の敗勢は決定的となり、終に黒は時間切れアウトになりましたが、時間切れなくても20石の負けでした。

 からは、白は1手の緩みもなく、ぐんぐん黒に強力な圧力を掛けて行って最後は黒を時間切れにした後藤宏六段(白)の完勝譜でした。

 しかし、若い平川有宇樹五段(19才、東大理学部2年)には、この敗戦を糧(かて)として近い将来の大飛躍も期待できます(2004.3.25の第25期オセロ名人戦では準優勝、出場者112名)。

実戦原図からの黒の正しい打ち方(正解 I 、II、III 図)

正解図 白Cの筋を消す
正解 II 図 Cは天王山
正解 III 図 天王山に打つ




正解 I 図 と中割りしながら、白の右辺C打ちの筋を消す。超難解な局面の出現。実戦で白の次の1手を正しく打てるオセラーは何人いますか?
正解 II 図 が唯一の好手、斜め中割りで白の右辺C打ちの筋を復活させています。他の12カ所は全て悪手で白アウト
正解 III 図 次に白C1なら、黒Xと頑張る 実戦なら、依然として形勢不明、総てはこれからの打ち方次第で勝負が決るでしょう。


参考(実戦原図からの双方の正しい打ち方)
黒 31−33 白



…実戦原図の局面は、両対局者共(誰も)読み切れない形勢不明の局面ですが、局後の研究によれば、厳密にいえば白ややよし(2石リード)でした。その後の変化は多岐にわたる膨大なものとなりますが、右図がその結論。要するに実戦原図の段階で「1図は駄目、正解III図なら何とかなりそうだ」と読めれば、それが即ち全日本チャンピオンの読みということができます。

5 第32回(2004.7.18.日)特選譜 全勝優勝・為則英司九段

各リーグ(A〜P)優勝者16人によるトーナメント1本勝負(無差別の部)




決勝(再掲)兔1

準決勝虎2

準決勝バッファロー
坂口和大 27 37 為則英司
高橋寛二 22 42 為則英司
石崎 光 31 33 坂口和大


準々決勝虎2

準々決勝兔1

準々決勝闘牛B
得丸 剛 22 42 高橋寛二
野田敏達 20 44 為則英司
坂口和大 41 23 後藤 宏


トーナメント1回戦

トーナメント1回戦バッファロー

トーナメント1回戦虎1
後藤 宏 46 18 土田英二
2連覇を目指す後藤七段は、ここ迄順調に勝ち進んで4連勝、全日本11連勝の記録を作ったのでしたが…。
為則英司 37 27 村上 健
世界チャンピオン5回と3回の両雄は常に絶好の取り組み。全日本では、今年は為則、昨年は当らず、一昨年は村上の勝ち。
坂口和大 32 32 佐々木惣平
(引き分け勝)
局面がもつれてきた時の佐々木グランドオセロ名人の強さは抜群。坂口九段と好勝負を展開。

…決勝(坂口−為則)は、前回(20回)の百人物語で総譜と具体図をつけて紹介ずみ。オセロニュース82号では、村上健九段が詳しい解説をしています。

前人未踏・全日本選手権6回目の優勝を飾った鬼神・為則のX打ち (題材は上記の為則英司 対 村上健戦)

実戦原図 は?
1図(実戦)
鬼神為則のX打ち
2図(実戦)は、読みの村上の最強・最善の抵抗





3図(実戦) は?
白不利。どう打つべきか?
4図(実戦)絶好の反撃のチャンスを逃した緩手。
4’図(正解)、最強最善の反撃、勝負手のX打ち




 実戦と局後の研究は別世界。短い制限時間、特に秒刻みで着手を急かされる変化の激しいオセロの終盤戦での逆転劇は枚挙にいとまがありません。第26回全日本決勝(村上対中島 1998.7.26)でも、敗色濃厚な黒(村上)は、“人事を尽して天命を待つ心境”で勝負手のX打ちを敢行し、結果的にはのX打ちは成功、不可能と思われた逆転劇が起こりました(百人物語第2回2003.2.1.記で詳述)。

 実戦原図では、黒Bや黒A等も有力ですが、為則が打ったのはX打ち (2図)は双方共最善手の応酬でしょう。そして出現した3図(実戦)からは、気合からもとX打ちを敢行する1手(4’図、正解) 4’図X打ちは「1石返し手待ち」の好手(黒☆なら白Aで白よし)で、これで黒に手を渡して黒からの動きを見れば、或は白に逆転のチャンスが訪れたかも知れません。

 実戦(4図)のは、同じ1石返し手待ちですが、回り道の緩手で、形勢不利の時最善手を打たなかったこの手が敗因となりました。尤も、その後双方に2度ずつ疑問手(10石損、正解は右上X打ち、2石差に縮まる)、(8石損、正解は白ア)、(4石損、正解黒イ)、(4石損、正解白A)が出て、形勢は揺れ動きましたが、逆転の局面は1回も現れませんでした。

 年代も近く、これだけの実績を持つ2人が、決勝の檜舞台(世界、全日本、名人)でまだ1回も対戦したことがないのが不思議です。近い将来、世界オセロ選手権決勝の檜舞台で、鬼神為則と読みの村上が3番勝負(持時間は全日本の倍の40分ずつ)を打つのを見たいというオセロファンも多く、そうなれば後世に残る名棋譜も誕生することでしょう。

2. オセロ最近の話題

A. 第28回世界オセロ選手権大会(於ロンドン 2004.11.12〜14)

 20世紀最後の世界チャンピオンは、日本の村上健九段でしたが、21世紀に入ると、B.ローズ(アメリカ)、D.シェイマン(オランダ)、B.シーリー(アメリカ、21才、学生)と3年連続して外国人が世界チャンピオンになっています。

 オセロの本家の日本代表が3年も連続して世界一になれなかった厳しい現実は素直に認めなくてはなりません。持時間も長く、番数も多い世界選手権大会では、実力以外の要素は殆ど入る余地はなく、真の実力者が世界チャンピオンになっているからです。

 第20回と第21回百人物語を通して読んで頂ければ明白ですが、今回の日本代表3選手の実力は申し分なく、あとは来月ロンドンで他国代表と戦うだけです。改めて3選手を写真を添えて紹介しますので、日本オセロファンの皆様が温かく応援して頂ければ幸いです。

自宅近くの公園を家族と共に訪れた為則氏を奥さんがパチリ。


I. 為則英司九段(全日本チャンピオン)。

 名人戦3回、全日本選手権大会6回(新記録)、世界選手権大会5回(新記録)優勝。5回出場した世界選手権大会では、5回共完勝試合(準決勝3番勝負2連勝、決勝3番勝負2連勝)で、世界のオセラーからは“鬼神タメノリ”と怖れられ、彼が全日本(夏)で優勝したという報を聞いたとたんに、「あゝ、今年も駄目だ」と外国選手は皆諦め顔になったという逸話は有名。

 その鬼神為則が9年ぶりに世界選手権に出場。但し、鬼神は盤上のことで、本人は穏やかなジェントルマンで、2児のよきパパ、京セラ勤務の35才。現世界チャンピオンのベン・シーリー(21才)との初顔合せは見物

 
II. 末國誠九段(名人
ひさ
III. 木下央子五段
 (全日本女子チャンピオン)
第25期名人戦で優勝(連覇)した末國誠名人(右)と準優勝の平川有宇樹五段(左、19才、東大生)。 第32回全日本選手権大会女子の部で優勝(2回目)した木下央子五段(左)と、準優勝の河野恵子新四段(右)。

 全日本少年少女、名人、全日本、世界の4つのタイトルを全部手に入れたことのある唯一のオセラー。特に名人通算4期は新記録。“終盤の魔術師”といわれ、1997年慶大生だった彼が第21回世界オセロ選手権大会(於アテネ)決勝第2局で、世界決勝進出3度目というイギリスの天才・ブライトウェル氏(ケンブリッジ大・数学教授)相手に見せた終盤の魔術は今でも語り草。あれから7年、オセロ界のプリンスも今や26才・会社員、昨年の第27回世界決勝3番勝負では20才のB.シーリー(アメリカ)にストレート負け。しかし、このまま引き下る末國ではない。今回の再戦が楽しみ

 女子オセロ界は戦国時代。三強・佐野洋子、山中真美、大柳真咲(五段・女流名人)と新三強・木下央子、高野淑美、河野恵子の間で火花が飛ぶ。日本代表は昨年は山中女流名人(高野全日本女子チャンピオンを破る)、今年は木下央子五段(佐野女流名人を破る)。木下央子さんは一昨年に続いて2度目の日本代表であり、かねてから女子最強と噂されていた木下さん、2002年の第26回世界選手権大会(オランダ・アムステルダム)では7勝6敗(52人中21位、女子1位の立派な成績を残しているが、さて今回の第28回世界大会では?






(2004年10月1日 長谷川五郎 記)




百人の物語 > (第21回)21世紀のオセロ展望

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