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オセロ史を飾った百人の名選手の物語
(第22回) 21世紀のオセロ展望…オセロファンによる、オセロファンのための、オセロファンの大会(その3.世界オセロ選手権大会)


1. 世界オセロ選手権大会 (秋)
A. 最近4年間の世界オセロ選手権大会ベスト10傑一覧
(第24回2000年11月〜第27回2003年11月)
世界オセロ選手権大会の試合方式

第1日目 第2日目 第3日目 第4日目
B. 最近4年間の世界オセロ選手権大会 特選譜
1 第24回(2000.11.2〜5.コペンハーゲン)特選譜10局{優勝、村上健(3回目)}

栄光の世界チャンピオンと敗者の涙
I. B.ローズ(アメリカ)が勝を逃したこの局面(原図 I )
II. S.ニコレ(フランス)が勝を逃したこの局面(原図 II )

オセロの深遠なX打ちの謎 (原図 I 、原図 II )…
2 第25回(2001.11.7〜10.ニューヨーク)特選譜10局(初優勝、Brian Rose(ブライアン・ローズ)

鉄は熱いうちに打て 連続決勝進出 B.ローズの苦節20年の夢開花!!

決勝第1,2局、準決勝第1,2局、準決勝第1,2,3局、予選から2局

大悪手と絶妙手のコンビネーションで起った劇的な終盤の大逆転
(決勝3番勝負第1局、黒・B.ローズ対R.シュライバー)
3 第26回(2002.11.6〜9.アムステルダム)特選譜15局(優勝、David Shaman(デイビッド・シェイマン)、3回目)

(2002.11.6〜9)と場所(オランダ、アムステルダム)を超越して輝き続ける激闘譜(15局)

決勝第1,2,3局、準決勝A第1,2局、準決勝B第1,2局、プレーオフ4,5位決定戦、予選特選譜(7局)

{プレーオフ・1番勝負、4位決定戦名人・北島秀樹(白)、終盤の一失で長蛇を逸す

運命の岐路となった終盤のこの局面・実戦原図ここから?

1図(実戦)痛恨の敗着 と反撃されてアウト!!

一図(正解)を左上☆に打てば、北島が4位だった

日本代表・木下央子、駒野達也、北島秀樹選手の世界大会出場の感想
4 第27回(2003.10.29〜11.1.ストックホルム)特選譜13局(初優勝、Ben Seely(ベン・シーリー)
I. 新鋭・Ben Seely(ベン・シーリー)(20才、アメリカ)、名人・末國誠(25才)をストレートで破って初優勝

(まさ)しく若さの爆発 実力・気力・体力共に充実のシーリーに運も味方した

決勝(末國対シーリー)第1,2局、準決勝(ホーン対シーリー)第1,2,3局、準決勝(後藤宏対末國戦)第1,2局、予選特選5局(山中対シェイマン、末國対シーリー、後藤対シーリー、末國対カスパール、カスパール対後藤)、3位決定戦(ホーン対後藤)
II. 3日間で打たれた360局から特選された上掲13局の内容と舞台裏

決勝3番勝負(末國誠対ベン・シーリー)第1局、第2局

3位決定1番勝負(アンドレア・ホーン対後藤宏)

予選4回戦(山中真美対デイビッド・シェイマン)…女性が現役の世界チャンピオンに初勝利を収めた熱戦激闘譜
III. 名人・末國誠対剛力・カスパール戦の激闘の中から生まれた台風眼は、翌日暴風雨となって末國・後藤を直撃!!

1993年秋ロンドン、第17回世界大会

1999年秋ミラノ、第23回世界大会

2002年秋アムステルダム、第26回世界大会

2003年秋ストックホルム・第27回世界大会

今大会の台風眼となった末國対カスパールの一戦(予選12ラウンド)!!

実戦原図、は?

オセロ史を変えた大悪手 実戦の経過

正解と正解手順

一流オセラーは冒険を好む

しかしながら、それが直接の原因となって翌日台風が末國、後藤を直撃


2. オセロ最近の話題
A. 第28回世界オセロ選手権大会の開催(2004.11.12〜15.ロンドン)

末國誠、為則英司、木下央子の活躍に期待

外国人の優勝候補3人(ベン・シーリー、デイビッド・シェイマン、アンドレア・ホーン)
B. 第30回世界オセロ選手権大会は日本・水戸市で開催

第1回世界女子オセロ選手権大会も同時開催しよう




(第22回) 21世紀のオセロ展望…オセロファンによる、オセロファンのための、オセロファンの大会(その3.世界オセロ選手権大会)

1. 世界オセロ選手権大会(秋)

A. 最近4年間の世界オセロ選手権大会ベスト10傑一覧
(第24回〜第27回)

世界オセロ選手権大会の試合方式

全日程… 4日間。選手は1国3名迄。個人戦と団体戦を同時進行。
第1日目… 前夜祭(各国選手の顔合せ)。翌日の第1試合の組合せの抽選。
第2日目… 全選手が予選リーグを7局打つ。持時間は1局各30分。
第3日目… 全選手が予選リーグを6局打つ。計13局の成績上位4名が第4日目の決勝トーナメントに出場する。

(注) 勝星優先、引き分け0.5勝。同じ成績でも、ブライトウェル係数によって順位が決る。但し、4位と5位の勝星が同じの時のみ、両者による再決勝1番勝負(この場合黒又は白の選択権は上位者)。
第4日目… 上位4名による準決勝3番勝負、決勝3番勝負、持時間各40分。 準決勝の組合せは、予選1位対4位、予選2位対3位。 準決勝及び決勝の第1局の黒又は白の選択権は予選上位者。 1勝1敗になった時の第3局の石の選択権は、2局目迄の獲得石数の多い選手が持つ。もし3局目が引き分けになった場合は、獲得石数が多い方が世界チャンピオンになる。
終了後、表彰式及びビクトリーディナー。

A. 最近4年間の世界オセロ選手権大会ベスト10傑一覧

回数 第24回 第25回 第26回 第27回
開催地 デンマーク
コペンハーゲン
アメリカ
ニューヨーク
オランダ
アムステルダム
スウェーデン
ストックホルム
西暦 2000年 2001年 2002年 2003年
月.日 11月2〜5日 11月7〜10日 11月6〜9日 10月29日〜11月1日
1 村上 健
(全日本2位、八段)
B.ローズ
(アメリカ)
D.シェイマン
(オランダ)
B.シーリー
(アメリカ)
2 B.ローズ
(アメリカ)
R.シュライバー
(アメリカ)
B.シーリー
(アメリカ)
末國 誠
(名人)
3 S.ニコレ
(フランス)
坂口 和大
(全日本チャンピオン)
I.リーダー
(イギリス)
A.ホーン
(ドイツ)
4 T.クルジウォノス
9勝4敗(カナダ)
M.ベルグ
9勝4敗(ドイツ)
柏原 拓司
9勝4敗(フランス)
後藤 宏
(全日本チャンピオン)
10勝3敗
5 B.シフマン
(イスラエル)
9勝4敗(予選)
柏原 拓司
(フランス)
8勝4敗1引分
北島 秀樹
(名人)
9勝4敗
E.カスパール
(フランス)
9勝1引分3敗
6 G.ブライトウェル
(イギリス)
8勝1引分4敗
D.シェイマン
(オランダ)
8勝5敗
E.カスパール
(フランス)
9勝4敗
T.クルジウォノス
(カナダ)
9勝4敗
7 坂口 和大
(全日本チャンピオン・名人)
8勝5敗
A.ホーン
(ドイツ)
8勝5敗
B.ローズ
(アメリカ)
9勝4敗
R.スペランディオ
(イタリア)
8勝1引分4敗
8 R.シュライバー
(アメリカ)
8勝5敗
K.フェルドボーグ
(デンマーク)
7勝1引分5敗
駒野 達也
(全日本チャンピオン)
8勝5敗
T.ジュング
(韓国)
8勝1引分4敗
9 K.フェルドボーグ
(デンマーク)
8勝5敗
T.クルジウォノス
(カナダ)
7勝1引分5敗
M.ハンデル
(イギリス)
8勝5敗
E.イュー
(アメリカ)
8勝5敗
10 J.K.ホウグランド
(ノルウェー)
8勝5敗
後藤 宏
(名人戦2位、六段)
7勝1引分5敗
R.シュライバー
(アメリカ)
8勝5敗
M.ベルグ
(ドイツ)
8勝5敗
参考 23位、山中 真美
(全日本女子チャンピオン)
6勝1引分6敗
30位、玉家 琴江
(全日本女子チャンピオン)
4勝2引分7敗
21位、木下 央子
(全日本女子チャンピオン)
7勝6敗
33位、山中 真美
(女流名人)
6勝7敗

B. 最近4年間の世界オセロ選手権大会特選譜

1 第24回(2000.11.2〜5.コペンハーゲン)特選譜10局



第1局闘牛

第2局虎1

第3局闘牛
B.ローズ 29 35 村上 健
(アメリカ) (日本)
村上 健 45 19 B.ローズ
S.ニコレ 30 34 村上 健
(フランス)


準決勝3番勝負
第1局
虎2

予選特選闘牛A

予選特選虎2
B.ローズ 38 26 T.クルジウォノス
(カナダ)
S.ニコレ 46 18 坂口 和大
(日本)
S.ニコレ 40 24 山中 真美
(日本)


予選特選虎1

予選特選虎1

予選特選闘牛
村上 健 21 43 B.シフマン
(八段) (イスラエル)
村上 健 42 22 G.ブライトウェル
(イギリス)
R.シュライバー 39 25 坂口 和大
(アメリカ) (八段)

予選特選虎1


村上 健 28 36 B.ローズ

 栄光の世界チャンピオンと敗者の涙

 世界63億人の中で唯1人だけに与えられる栄光の座“世界チャンピオン  上記の世界オセロ10傑に入った選手は、一流オセラー(オセロ・プレイヤー)の何よりの証明です。決勝3番勝負の檜舞台に登場した2人は超一流オセラーであり、両者間の実力差は紙一重もない位でしょうが、現実には1人が世界一の栄光に輝き、もう1人は敗者として無念の涙を飲むことになってます。

 しかし、決勝で敗れたその悔しさをバネとして、B.ローズ(アメリカ)は翌年の第25回世界選手権で初優勝、B.シーリーも翌年の第27回世界選手権で見事初優勝を飾りましたが、むしろこれは例外です。シュライバー、ニコレ、カスパール(2回)、ブライトウェル(3回)、フェルドボーグ等は決勝で敗れて無念の涙を飲んだままになっております。

 2004年度のフランスのオセロ選手権の決勝3番勝負は9月に行われ、ニコレがカスパールを破って優勝、やはりこの2人の強さはダントツのようで、第28回世界オセロ選手権大会(2004.11.12〜15.ロンドン)には当然この2人はフランス代表として出場してくるでしょう。世界決勝3番勝負でニコレ(フランス)やカスパール(フランス)を破っている天敵的存在の村上健(日本)が今回は不出場なので、彼等は絶好のチャンスと腕まくりをしているでしょう。

 第24回特選譜上掲10局は並べて頂ければ、いずれも面白い内容ですが、今回はローズ対村上(決勝第1局)、ニコレ対村上(準決勝第3局)の2局に的を絞って、逆転の瞬間の場面をとらえてみました。

I. B.ローズ(アメリカ)が勝を逃したこの局面(原図 I )

 原図 I は、第24回世界オセロ選手権大会(2000.11.5.デンマーク・コペンハーゲン)決勝3番勝負第1局、黒・Brian Rose(ブライアン・ローズ)対村上健の息づまる終盤戦です。B.ローズにとっては、苦節19年の末、再び登場した世界決勝の檜舞台でした。ここで黒はX打ちのタイミングを間違えたのが命取りになりました。

原図 I は?
一図(正解)ブラボーのX打ち
二図(正解手順)黒34−30白




1図(実戦)敗着となった10石損の悪手


2図(実戦の手順)
黒29−35白
決勝3番勝負を戦い終った村上健(左)とB.ローズ(アメリカ)。中央はB.シフマン(5位、イスラエル)

 1981年の秋、彗星のように突如として現れ、全米オセロチャンピオンになった17才の天才少年 Brian Rose(ブライアン・ローズ)を、Queens Newsday紙は「オセロ界のカルポフ(チェスの世界チャンピオン)の出現」と評しました(10月13日)。

 ブラッセル(ベルギー)で行われた第5回オセロ世界選手権大会では、B.ローズは丸岡秀範(全日本チャンピオン、19才、大1)と同星の14勝2敗でしたが、両者による決定戦に敗れて以来、実に19年振りの決勝戦登場です(原図 I )。

 原図 I で、ローズは考えました。「 I 図と仕掛ければ、以下参考1,2図は必然の流れで、参考2図はブラボーのX打ちで黒の勝ちは疑いなしだ。」


参考1図(ローズの読み)「は必然の流れ」

参考2図(ローズの読み)「ブラボーのX打ちで黒必勝

実戦とかわされてギョッ逆転黒アウト!!

 ローズ夫人の洋子五段(現オセロ女流名人)からの手紙の引用、「ブライアンが決勝迄残れましたが、やはり実力の差を感じました。(私の発言するところではないのですが)村上さんの読みの深さや落ち着きは、今ではやはり世界一だと思います。いつかはブライアンに世界チャンピオンになってほしいものです。」洋子夫人の願いは現実となり、翌年ブライアンは念願の世界チャンピオンになったのです。

 オセロ世界チャンピオンの最年少記録は不動で谷田邦彦の15才、最年長記録はJ.サーフの34才(第4回、1980、アメリカ)、村上健35才(第24回、2000、日本)、B.ローズ37才(第25回、2001、アメリカ)と塗り変えられています。

II. S.ニコレ(フランス)が勝を逃したこの局面(原図 II )

 原図 II は、黒・Stephane Nicolet(ステファン・ニコレ)対村上健(準決勝3番勝負第3局)の鍔迫(つばぜ)り合う難解な終盤戦で、あと10手で必ず結果が出る、これに勝った方が決勝3番勝負の檜舞台に登場するという重大な局面です。

 群雄ひしめく世界オセロ選手権大会で、決勝の檜舞台に登場するだけでも如何に大変なことかは、前記のB.ローズの19年振りの例でも明らかです。ニコレが決勝の檜舞台に初登場したのは第20回(1996)で、その時は村上健に打ち取られて無念の涙を飲みましたが、それから4年、今その決勝の檜舞台は目の前に見えて来ましたが今回もニコレの前に巖のように立ちはだかるのは村上健 「準決勝といっても、これぞまさしく事実上の決勝3番勝負だ。これに勝つようなら今度こそ決勝も勝って見せるぞ。」とニコレは思いました。実際、原図 II は黒の勝勢の局面だったのです。

原図 II は?
1図(正解)ブラボーのX打ち
2図(正解手順)黒34−30白



実戦(ニコレの読み)3図
「偶数理論の手」実は8石損
実戦(ニコレの読み)4図
「必然の手」
実戦(ニコレの読み)5図
「手止まりを打つ。何とかなる」




 原図 II では、1図のX打ちが最強最善の唯一の勝ち筋で、ニコレがこのX打ちを打たなかった(打てなかった)のが、オセロの歴史を変えたのでした。

 実戦(3図)は、読み切れないまま部分のオセロ格言・偶数理論(奇数空き隅なら先着せよ)に従って打った次善手(ニコレはこれを最善手と信じていた)ですが、実はこれが悪手(正解のX打ちと比べて8石損)でこの1手で形勢は逆転 実戦は以降は双方最善手で、5図で「何とかなる」と思ったニコレの形勢判断は実は誤りで、現実は何とかならなかったのでした。

 原図 I でも原図 II でも、要するに黒がX打ちを打つタイミングを誤った(X打ちを正しく打てなかった)のが敗因です。オセロの深遠なX打ちの謎

2 第25回(2001.11.7〜10.ニューヨーク)特選譜


鉄は熱いうちに打て 連続決勝進出 B.ローズの苦節20年の夢開花!!

 秒読みなしの対局は、1秒たりとも気を抜けないので気力、体力の消耗も大きく、それに耐えて1日7局打ち、全勝して全日本チャンピオンや名人になったオセラーの年齢は30代前半迄で40代は皆無が現実です。世界オセロ選手権の場合は、それに輪をかけた強行軍で、1局の持ち時間も長く、世界チャンピオンになるためには日本選手権の場合には通算して3日間で30.5局打つ計算になり、今迄の24人の世界チャンピオンの年齢は10代、20代が殆んどで、第24回村上健35才が最年長記録です。

 第24回の時、B.ローズは長年の努力の甲斐あって実力も向上気力も充実して、2位に1.5ゲームの差をつけて悠々1位で予選通過。3日目の準決勝3番勝負もクルジウォノス(カナダ代表)をストレートに下して、19年振りに決勝3番勝負に進出したのですが、そこに待っていたのは相手は異るが19年前と同じ日本代表の強敵村上健 午後2時から開始された決勝第1局も、最後の気力を振り絞って激闘、双方の持時間も残り少くなってきた3時15分頃、やっと勝のゴールが見えたと思って(実際も勝の局面だった)打ったがとんでもない思い違いで、ひょいととかわされてみると、残りは唯の4手、局面はもう手の施しようのない敗勢に一変しているのを知ってギョッ この敗戦は骨身に応えました。と同時に、この3日間の全力疾走の疲れが1度にどっと出てきました。念願の世界チャンピオンになるためには目の前の強敵・日本の村上健とこれから2局戦い2連勝することが絶対条件 しかし、この時既に36才のローズの肉体は疲労困憊(こんぱい)その極に達していました。第2局はローズの読みは空転してKO負け ローズの敗因は36才という肉体年齢から来た疲労と第1局目ゴール寸前の見落しのショックが尾を引いたことです。

 「鉄は熱いうちに打て 実力・気力共に充実している現在を逃せば、チャンスは永遠に来ないぞ。それには体力も重要な要素」という訳で、ローズはランニングや体力増強のトレーニングも始めて、翌年の第25回世界大会に備えて総合的準備をしました。世界オセロ選手権予選リーグ連続1位通過は至難の技で今迄これを成しとげたのは鬼神為則だけでしたが、ローズも第25回でそれを成しとげて予選1位通過、続く準決勝3番勝負もストレート勝ち、これは大切な要素で、一方の坂口対シュライバーが第3局迄もつれ込んで死闘を演じている間、ローズは悠々と休養して決勝に臨みました。その差が決勝の差になりました。苦節20年、3度目の決勝進出で終に掴んだ栄光の世界チャンピオン、史上最年長37才のブライアン・ローズ

 世界チャンピオンになるためには、実力+αが必要です。実力者・坂口和大(全日本チャンピオン)は今回(3度目)も決勝進出成らず、前年3位のS.ニコレ(フランス)は今回はベスト10に入らず、今回村上健(世界チャンピオン・名人)が自己都合で不出場だったこともローズにとって+αの要素でした。


決勝第1局虎2

決勝第2局虎2

準決勝第1局闘牛
ローズ 35 29 シュライバー
(アメリカ) (アメリカ)
シュライバー 30 34 ローズ
ローズ 43 21 ベルグ
(ドイツ)


準決勝第2局兔1

準決勝第1局闘牛

準決勝第2局兔1
ベルグ 20 40 ローズ
シュライバー 27 37 坂口 和大
坂口 和大 21 43 シュライバー


準決勝第3局兔1

予選特選虎2

予選特選虎1
坂口 和大 18 46 シュライバー
ニコレ 23 41 後藤 宏
(フランス、15位) (10位)
玉家 琴江 23 41 ハースト
(30位) (アメリカ、14位)

第25回世界オセロ選手権大会決勝3番勝負第1局、黒ローズ対シュライバー戦の終盤(2001.11.5.デンマーク、コペンハーゲン)。
実戦原図 は?


純銀製の優勝カップを手に喜び一杯のB.ローズ氏。その左J.ベッカー氏(世界オセロ連盟会長)。右端は佃義範氏(ツクダオリジナル社長)。 善戦健闘した日本選手。
左から、後藤宏六段、若菜悦子さん(事務局)、坂口和大九段、玉家琴江五段。

1図(実戦)敗着となった17石損の大悪手
2図(実戦)絶妙手ブラボーのX打ち
3図(実戦)最善の応手なのだが、すでに白敗勢




一図(正解)正確な読みの裏づけがあっての強手
二図(正解)最強最善の抵抗。
三図(正解)ブラボーのX打ち白勝勢





四図(正解手順)
黒26−37白



大悪手と絶妙手のコンビネーションで起った劇的な終盤の大逆転

 「風が吹けば桶屋が儲かる」といわれていますが、世の中の或る出来事の陰には複雑な因果関係が潜(ひそ)んでいるものです。

 実戦原図から白(シュライバー)は大悪手(1図)を打ち、黒(ローズ)の痛烈なKOパンチ(2図)を食って敗れ、それが尾を引いて第2局目も敗れて、Brian Rose の初優勝が成りました。実際、世界オセロ選手権大会決勝3番勝負では、第1局に勝った選手が95%以上の確率でチャンピオンになっています(今迄27回行われた決勝で、例外は第11回石井健一対ポール・ラル戦が唯一の例外)。そもそも世界選手権決勝迄勝ち上って来た選手は、実力・気力・体力共に充実している筈で、その時点では両者に甲乙は、つけられませんが、それが第1局に勝つか負けるかで桁違いの結果になる現実

 両者共に初優勝がかかる重大な局面・実戦原図で、3手先迄正確に読んでいたら、白がブラボーのX打ち(三図)を打てたのに、逆に黒の方からブラボーのX打ち(2図)を打たれてしまった不可思議な実戦 確かに実戦原図は難解な局面ですが、シュライバー程の打ち手なら、時間があれば(世界選手権は全日本の倍の持時間、時間はあった)3手先迄正確に読めた筈。しかし、実際はその時間の多さが仇となったのです。秒読みなしの緊張の連続の1局80分の対局は気力・体力を維持するのも大変です。午前から午後にかけて殆ど休みなしに戦った強敵・全日本チャンピオン・坂口和大との正味4時間の死闘の疲れをいやす間もなく始まった決勝第1局、1時間経った魔の3時過ぎ、疲れがピークに達したシュライバーの読みは一瞬空転し、深く読むことなしに打ってしまった( 1図) 一方、休憩充分のローズは、ここでじっくりと時間をかけて読み、絶妙手・ブラボーのX打ちで勝負を決めたのでした(2図)。

3 第26回(2002.11.6〜9.アムステルダム)特選譜15局


…9勝4敗が4人出た。4位北島(ブライトウェル係数1073)、5位柏原(1063)、6位カスパール(1034)、7位ローズ(1033)で、規定により、北島対柏原のプレーオフ1番勝負が行われ、柏原が勝って4位となり準決勝に進出。北島名人は惜しくも予選落ち。


決勝第1局虎2

決勝第2局虎D

決勝第3局虎2
シーリー 28 36 シェイマン
シェイマン 26 38 シーリー
シーリー 24 40 シェイマン


準決勝A第1局牛(快速船)

準決勝A第2局

準決勝B第1局虎B
シーリー 41 23 柏原
柏原 28 36 シーリー
シェイマン 45 19 リーダー


準決勝B第2局兔1

(プレーオフ1番勝負)
4位決定戦牛(快速船)

予選4回戦(再掲)闘牛
リーダー 29 35 シェイマン
柏原 拓司 33 31 北島 秀樹
(フランス) (名人)
D.シェイマン 23 41 北島 秀樹
(オランダ)


予選6回戦兔1

予選6回戦虎E

予選10回戦(再掲)兎1
I.リーダー 44 20 木下 央子
(イギリス) (女子チャンピオン)
北島 秀樹 20 44 B.シーリー
(アメリカ)
駒野 達也 27.5 36.5 D.シェイマン
(全日本チャンピオン)


予選11回戦牛(快速船)

予選13回戦兔1

予選13回戦
柏原 拓司 40 24 北島 秀樹
駒野 達也 19 45 B.シーリー
E.カスパール 45 19 北島 秀樹
(フランス)

(2002.11.6〜9)と場所(オランダ、アムステルダム)を超越して輝き続ける激闘譜(15局)

 世界オセロ選手権第3日目、ベスト4による決勝トーナメントの大舞台に、オセロ王国日本代表が1人もいなかったのは、第16回大会(1992)に続いて今回が2度目。上掲15局は、どの1局を取っても、それが世界チャンピオン誕生に直接影響を与えたと思われる激闘譜です。

 シェイマン対北島戦、駒野対シェイマン戦の2局は、百人物語第1回(2003.1.1記)で詳述済です。北島のX打ちはシェイマンの意表を突き、駒野の勝負手のX打ちは力余って空を切りと天王山に打たれて負けてしまいましたが、もしをとも角左辺B(天王山)に打ってたら恐らく駒野が勝って、クレオパトラの鼻の話の如く、オセロの歴史は変っていたでしょう。即ちこの駒野・シェイマン戦で駒野が勝っていれば、シェイマンは8.5勝で予選落ちしていたでしょう。しかしながら、クレオパトラの鼻は低くなかった(絶世の美人だった)し、勝負の世界で“もしは絶対に許されない”のが厳しい現実です。

 名人・北島と全日本チャンピオン・駒野が、初出場のシーリー(全米チャンピオン・19才)に敗れ、柏原卓司(ヨーロッパオセログランプリ選手権者・フランス代表)にも共に敗れたのは意外でした。特に、北島が予選13回目で剛力(ストロング)・カスパール(フランス)に敗れたためプレーオフになり、柏原に再び敗れて終に予選落ちしてしまったのは棋譜の内容を検討しても実に惜しい とに角、ベスト4に入りさえすれば、一夜寝て新たな勝負、持時間も長くなり、3番勝負、実力者北島にとって有利な条件だった筈だからです。

 そうはいっても、世界オセロ選手権ベスト4の現実の顔ぶれはやっぱり凄い 優勝のデイビッド・シェイマンは決勝進出6回(新記録)・その半分の3回を制した鉄腕。2位のベン・シーリーは現在(2004.11.1)の世界チャンピオン。3位のイムレ・リーダーは第7回世界決勝(その時は、名門ケンブリッジ大学数学科3年、19才、1983.10.9.於パリ)を全日本チャンピオン・昇り竜・石井健一と戦って以来、友人の天才・ブライトウェル(世界決勝進出3回)と共にイギリスオセロ界を常にリードして来た強豪・38才(外国では、世界大会の次に権威のあるヨーロッパ・オセログランプリ優勝2回)。4位の柏原卓司(パリ在住の数学者)は、ニコレ(第20回世界2位)、カスパール(第17,22回世界2位)、タステ(第16代世界チャンピオン)と共にフランス4強の1人です。

プレーオフ・1番勝負、4位決定戦}名人北島秀樹(白)、終盤の一失で長蛇を逸す

実戦原図 は?
1図(実戦)痛恨の敗着
2図ブラックラインに切りを入れる




3図(実戦)
4図
5図 黒33−31白




一図(正解)最善手
二図(正解)最善手
三図 白、ブラックラインを通す





四図(正解)



五図(正解)
黒32−32白
 実戦原図は、ベスト4入りを賭けた(黒)柏原対北島の終盤戦、既に4つのX打ちが打たれており、あと5手で終局。

 しかし、そこから波乱が起ったのですから、オセロは最後迄一瞬の油断も許されない奥深さを持ったゲームです。

 実戦原図に直面したら、殆どの人(10人中9人以上)は第一感を右上☆に打ちたくなる(即ち1図・実戦)でしょう。確かに、1図になれば上辺の6個の白石は確定し、ブラックライン上には7個の白石が天に架かる虹のように美しく並んでいます。しかし、1図が苦節21年の努力を水の泡にしてしまった痛恨の敗着だったのですから、逆転のゲーム・オセロの終盤は本当に恐ろしい というのは、(2図)がブラックライン上に並んだ白石に切りを入れた絶好手で、白はこの黒からの切りをどうしても取り除くことができない(白の見損じ?) 結局・黒のこの切り石が足掛りとなってと☆打ちされ(4図)、最善手で返した黒石は6個では白僅かに及ばず2石負け(5図) 実に残念!!

 一図は、Cが黒の余裕手に映るので直感では打ちにくい手ですが盤上この1手の最善手 黒からの余裕手の放出を強制し(二図)、それからとブラックラインを綺麗に通せば(三図)、最善手で返す黒石は7個になり(五図、正解)、翌日の決勝トーナメントの権利は北島が握った筈でした。

…プレーオフは1番勝負で再戦はありません。引き分けなら、予選順位で勝る方の勝になる規定。

3度目の優勝
優勝杯を高らかに貫禄のD.シェイマン氏。
初出場、全力で戦い抜いた日本の3選手。左から北島秀樹七段(名人)、木下央子五段(女子チャンピオン)、駒野達也七段(全日本チャンピオン)。

 世界オセロ選手権大会予選リーグは、2日かけて13局(秒読みなし、全日本換算だと19.5局)打つ強行軍なので体力も重要な要素。

 木下央子さんは、「初出場ということで緊張する中、慣れない30分持ち(日本の大会は20分持ち)で2日間で13局打ち切るというのは想像以上にペース配分が厳しく、体力や集中力維持に苦労しました。」と語ってますが、7勝6敗と勝ち越し21位(女性1位)は立派です。

 17才の駒野七段は、「初出場で緊張したが、13局とも全力投球できたと思います。今回それでも8勝5敗だったのは実力。世界に行けて本当によかったし、学ぶものが大きかった。これからは更なる実力アップして頑張りたい。」と語りましたが、前年1位のローズが9勝4敗、2位のシュライバも8勝5敗だったのですから、一応妥当な成績ともいえます。

 ベテラン・北島秀樹名人は、17才の時の全日本2位(1位の丸岡秀範六段はその年の秋の世界大会優勝)以来苦節21年にして訪れたこの絶好のチャンス、追い風さえ吹けば充分に優勝できる実力を持っていました。予選1日目はシーリーには負けたがシェイマンも破って6勝1敗で2位(1位は6勝1引分のシーリー)、2日目の午前更に2連勝して9局目が終った時は8勝1敗でトップに立ちました。しかし、38才の肉体に疲れが出てきました。「このあたりから、普段の半分程度しか読めない状態になってしまいました。それが結果にも現れ、納得できない試合ばかりになってしまいました。あまりの不甲斐なさに、せっかく代表として派遣してもらったのに、大変申し訳なく思います。」と本人が謙虚に書いている通り、2日目10局から北島名人は乱れました。10局目シュライバー(アメリカ)、11局目柏原(フランス)、そして最終の13局目カスパール(フランス)に次々と敗れて、終に柏原とのプレーオフに持ち込まれた上で、上掲の実戦原図から痛恨の敗着を打って予選落ちしてしまったのです。持時間、対局数共に多い世界戦では体力も勝負のうちです。

 しかし、実力さえあれば、何時かチャンスが回ってくるかも知れません。第24回世界決勝に19年振りに進出した36才のローズは、疲労の極に達して敗れましたが、体力作りに励んで翌年の第25回世界大会で初優勝、37才・苦節20年の夢を遂に実現させました。オセロでは40代のチャンピオンはまだ誕生していませんが、将来40代の名人、全日本チャンピオン、そして世界チャンピオンが誕生するとすれば、その最有力候補は北島秀樹氏でしょう。

4 第27回(2003.10.29〜11.1.ストックホルム)特選譜


I. 新鋭・Ben Seely(ベン・シーリー)(20才、アメリカ)、名人・末國誠(25才)をストレートで破って初優勝


決勝第1局

決勝第2局虎2
末國 22 42 シーリー
シーリー 35 29 末國
 正(まさ)しく若さの爆発でした。前回そして今回と連続して予選リーグを1位で通過したシーリーの実力は太鼓判ですが、決勝3番勝負を戦った前回(2002.11.9.アムステルダム)のシーリー(19才)より今回(2003.11.1.ストックホルム)のシーリー(20才)は格段に強くなっていました。前回決勝でベテラン・シェイマンに敗れた悔しさをバネとして、驚異的ともいえる一日10時間のオセロの勉強量とそれを海綿のように吸収していった若き明晰(せき)な頭脳、第27回世界オセロ選手権の予選リーグ13局の強行軍も、出場2回目用意万端の若いシーリーにとっては適度のトレーニング、大会3日目の準決勝3番勝負(全日本選手権なら6局に相当する量)は3局迄際どくもつれましたが、これが30代後半の選手なら疲労度は大きくそれが決勝3番勝負にも悪影響を及ぼしたでしょうが、若さ漲(みなぎ)るシーリーはこれでやっとエンジン全開、最高のコンディションで決勝3番勝負に臨んだのでした。

 日本のエース・名人末國誠が決勝3番勝負でシーリーに一矢を報いることもなしに連敗した報に接した日本のオセロファンは、このまさかの敗退に皆ビックリしました。しかし、棋譜を並べ、総てのニュースを分析すれば明らかなように、体力・気力も勝負のうち、要する総合力で末國よりシーリーの方が強かったので、決して番狂わせではなかったのでした。あれから、又、1年経ちました。今月(2004年11月12日)から開催される第28回世界オセロ選手権大会(ロンドン)での両者の激突は世界オセロファンの注目の的ですが、今度こそはと狙っている世界の強豪も沢山出場してくるので、どういう展開になるのか皆わくわくして見守っています。


準決勝第1局闘牛A

準決勝第2局牛(快速船)

準決勝第3局闘牛A
Hoehne 18 46 Seely
(ドイツ) (アメリカ)
シーリー 32 32 ホーン
(アメリカ) (ドイツ)
ホーン 33 31 シーリー


準決勝第1局虎1

準決勝第2局
後藤 宏 18 46 末國 誠
(全日本チャンピオン) (名人)
末國 33 31 後藤
(持時間各40分、秒読なし
 今迄、世界オセロ選手権決勝の檜舞台で、同じ国の代表選手が戦ったことは1度もありませんが、もし、全日本チャンピオン対名人という黄金カードが実現し、2人の日本代表が東西から静かに決勝の檜舞台に上るようなことになれば、それは歴史に残る一幅(いっぷく)の絵巻物になります。

 しかし、現実はあく迄も冷厳でした。運命の悪戯(いたずら)か、全日本チャンピオン対名人の決戦が規定により準決勝に組まれることになってしまったのです。その直接の原因は、前日の予選第12局末國対カスパール(フランス)戦で末國が14石損の悪手を打って自ら転んでしまったことです(百人物語第12回、2003.12.1 記 に詳述)。決勝3番勝負と準決勝3番勝負とは似た様な語路ですが、実際の内容は月とスッポン 全日本チャンピオン対名人という同じ組合せでも、これが決勝3番勝負なら檜舞台で戦う黄金カード、準決勝3番勝負ならこれは単なる予選の延長線上にある試合で日本代表同士の激しい潰し合い・消耗戦で、実際その通りになりました。その結果は、疲れを残した末國は決勝で連敗し、後藤も3位決定戦でホーン(ドイツ)に24対40で大敗してしまいました。実力では、末國や後藤の方が或いは上だったかも知れません(予選では両者共シーリーに勝っている)が、決勝3番勝負では、その時点での実力、気力、追い風等の総合力で勝(まさ)った者が勝ちます。残念乍ら、決勝は2局共シーリーの1本勝ちです。

 このままおめおめと引き下る訳には行きません。末國誠はこの春の名人戦(2004.3.27.無差別の部出場者112名)で再び優勝して日本代表になりました。後の2人の日本代表は、鬼神・為則英司(全日本チャンピオン)と木下央子(全日本女子チャンピオン)。この3人は前回写真入りで紹介しました。


(2003.10.30)
予選4回戦(再掲)
虎2

(2003.10.31)
予選10回戦
虎2

(2003.10.31)
予選12回戦
虎1
山中 真美 34 30 D.シェイマン
(女流名人) (世界チャンピオン)
末國 37 27 シーリー
(名人) (全米チャンピオン)
後藤 38 26 シーリー
(全日本チャンピオン) (全米チャンピオン)


(2003.10.31)
予選12回戦(再掲)
虎2

(2003.10.31)
予選13回戦

(2003.11.1)
3位決定戦
闘牛A
末國 29 35 カスパール
(日本) (フランス)
カスパール 28 36 後藤
(フランス) (日本)
ホーン 40 24 後藤
(ドイツ) (日本)


II. 3日間で打たれた360局から特選された上掲13局の内容と舞台裏

 決勝3番勝負が打たれる迄のシーリー側と末國側双方の舞台裏については既に述べました。“大勝負に名局なし”の格言通り、決勝は2局共名局ではありません。オセロでは、一般に1手〜15手(序盤戦)、16手〜40手(中盤戦)、41手〜60手(終盤戦)と分類されていますが、第1局は、シーリーがと打った時点で既に20石以上の差がついてしまっていてはアウト。第2局は激戦になり、黒(シーリー)がやや打ち易いかと思れた時、末國が打ったが6石損の悪手で計8石差のまま終盤に突入し、以後双方に3回ずつ石損の悪手がでましたが、如何せん、終盤で最初から8石のハンディを背負った負担は流石に重くて、終盤の魔術師も手の施し様がなく、そのまま押し切られました。

 ホーン(ドイツ)対後藤(3位決定)戦でも、疲れを残した後藤に精彩がなく、ホーンの1本勝ち。尤もホーンは準決勝でシーリーと1勝1敗1引分を演じた実力者であり、予選8回戦でも熱戦の末、後藤に勝っているので、ホーン側の立場に立てば「俺が3位になったのは当然の結果(実力)だよ。」ということでしょう。

団体戦優勝杯をそれぞれ手に持って喜びの日本チーム。左から末國誠、後藤宏、山中真美の3選手。特に、山中女流名人の眼は三重の喜びに輝いてます(現役の世界チャンピオンに初勝利 初めて手にするこの団体戦優勝カップ 家でお留守番している坊やにこの優勝カップを持たせるわ)。


 山中対シェイマン戦(予選第4局)は、現役の世界チャンピオンに女性選手が史上初の1勝を挙げた熱戦激闘譜です。

 この記録に残った1勝は、実際の幸運ももたらし、この1勝が上乗せされたことによって、日本チームの団体戦優勝が決まったのです(1位日本26勝、2位アメリカ25勝、3位フランス24.5勝、ドイツ24.5勝)。団体戦優勝の3人には、1人ずつ優勝カップが手渡されました。3人共、団体戦優勝のカップを手にしたのは初めて

 逆にシェイマンは、この1敗が祟(たた)ってベスト10にも入れず(8勝5敗、ブライトウェル係数951で15位。9勝なら7位だった…)。

名人・末國誠対剛力(ストロング)・カスパール戦の激闘の中から生まれた台風眼は、翌日暴風雨となって末國、後藤を直撃!!


エマニュエル・カスパール
Emmanuel Caspard

剛力(ストロング)・カスパールといわれているフランスの名オセラー。1969年生れの33才。1989年にオセロを始めて4年後の1993年世界オセロ選手権大会準優勝(23才、地質学博士課程の学生)、優勝はシェイマン。1998,1999年とヨーロッパオセログランプリに輝く。1998年第24回世界オセロ選手権大会で再び決勝に進出したがもつれ込んだ第3局に敗れて涙を飲む(優勝は村上健、百人物語第18回参照)。
 カスパール程の名手でも、まだ手が届かない世界チャンピオンの高き壁

 剛力(ストロング)・カスパールは暴風雨(テンペスト)・カスパールともいわれてます。カスパールの剛力に屈し、カスパールの巻き起した嵐に巻き込まれてしまったオセラーは数しれず、日本代表選手もその例外ではありません。

※1993年秋ロンドン、第17回世界オセロ選手権準決勝3番勝負で、全日本チャンピオン・滝沢信行は、ヘラクレスを思わせるカスパールの剛力に力負けして2連敗を喫してます。

※1999年秋ミラノ、第23回世界オセロ選手権大会予選会場では、ギネスブック入りの史上最年少14才の世界チャンピオンが生れるかも知れないという話題で持ち切りでした。12回終った時点では、1位青木和音(14才、既に中島やシェイマンも破っていた)、2位中島哲也、3位シェイマン、4位ホグランド(ノルウェー)。「翌日の準決勝は青木対ホグランド、中島対シェイマンになれば青木の決勝進出は間違いない。そうなれば、疲れを全く知らない14才は1局打つごとに力を出して来るから、決勝に中島或はシェイマンどちらが出て来ても14才の世界チャンピオン誕生の確率は70%以上だ」とA氏は予想。『昨日(1日目)の中島の調子はイマイチ(5勝2敗で7位)だったが、今日(2日目)はエンジンフル回転になった(5戦全勝は彼1人で、前日の7位から2位に躍進)。いったんエンジンフル回転になれば、実力では第十世名人・中島がNo.1の筈。明日の準決勝のシェイマン戦も2連勝して、中島が決勝に出てくるだろう。日本人同士の初の決勝対決の実現だ。全日本少年少女チャンピオン対第十世名人の決勝3番勝負 そうなれば、やっぱり中島が勝つね。』とB氏は予想しました。

 しかしながら、予想通りに事が運ばないのが現実。予選13回戦では、中島、シェイマン、ホグランドは順当に勝ったが、青木はカスパールの剛力に敗れて順位が下って3位となり、その波紋は翌日の組合せの変更、総ての予想を覆す暴風雨となり、結局青木も中島も次々とシェイマンに敗れて、シェイマンの2度目の優勝

※2002年秋アムステルダム、第26回世界オセロ選手権大会2日目午前、予選9回戦が終った時点でトップに立ったのは名人・北島秀樹。8勝1敗、既にシェイマン(に勝ち)やシーリー(だけに負)との対局もすませ、残り4局を打ち分け(2勝2敗)でもベスト4入りは確実。今日ベスト4の切符さえ手に入れれば、今夜は充分睡眠を取ってこの2日目の疲れを一掃し、翌日は心機一転して準決勝3番勝負に臨む、持時間も長くなる決勝トーナメントは実力者北島が最も力を発揮できる舞台の筈で、もしそうなれば苦節21年の成果の実現も夢ではない

 しかし、現実は前述の通りあく迄も冷厳であり、予選13局目、北島はカスパールの剛力に敗れたのが直接の原因となって、惜しくも予選落ち

※2003年秋ストックホルム・第27回世界オセロ選手権大会
「今回出場の名人・末國、全日本チャンピオン・後藤は、実力・体力共に申し分ない。2人共にベスト4入りするだろう。そして、世界チャンピオン・シェイマンといえども、1999年のミラノ大会の時のように、3番勝負でこの2人の日本代表を次々と破ることは今回は不可能だよ。強力なこの2人のコンビには死角がなく、世界のどんな強豪でもこの2人には辟易(へきえき)するだろう。きっと、末國対後藤という史上初めての日本人同士による決勝3番勝負が実現するだろう。」というのが、大会前の日本側大方の予想でした。しかし、この身びいきの甘い予想は、歴史が示すように無惨に打ち砕かれてしまったのでした。

第27回世界オセロ選手権大会予選リーグ・ベスト4入りを賭けた競り合い

順位 予選11回終了時の順位 予選12回 予選13回 ブライトウ
ェル係数
備考



シーリー
末國
ホーン
カスパール
9勝

8.5
8.5
カスパール
シーリー
末國
後藤
9.5


シーリー
末國
後藤
ホーン
10
10
10
9.5
1140
1113
1103
1147
当選(アメリカ)
〃 (日本)
〃 (日本)
〃 (ドイツ)
後藤 ホーン 8.5 カスパール 9.5 1078 落選(フランス)

 上表をご覧頂ければ明らかですが、強豪ひしめく世界の舞台で、ベスト4に入ることは至難の技 運よく、ベスト4に入った選手達も皆際どいすべり込みセーフが現実で、シーリーだって、末國だって、後藤だって最終ラウンド(予選13回戦)で負ければ、即予選落ちになる所でした。

 予選12回終了時点でトップに立ったカスパールは、「運が向いてきたぞ。チャンス到来だ。3度目の正直というから、ひょっとすると明日世界チャンピオンになれるかも知れない」と内心思ったでしょうが、現実はあく迄も冷厳で、次の最終ラウンド(予選13回戦)で後藤に敗れたばっかりに、順位1位から一気に予選落ちに真っしぐら(天国から地獄へ) カスパール苦節10年の夢を一瞬で吹き飛ばしてしまった後藤の怒涛の寄り身でした。

今大会の台風眼となった末國対カスパールの一戦(予選12ラウンド)!!

 日本側から見て、今大会のクライマックスは、やっぱり末國対カスパール戦でした。この1戦で末國が負けた波紋は翌日暴風雨を巻き起して、2人の日本代表・末國と後藤はそれに巻き込まれ、翻弄され、いたずらに体力・気力を消耗させられてしまいました。それが直接の大きな原因になり、決勝3番勝負では末國はいつもの精彩なくシーリーに連敗し、後藤もホーンに3位決定戦で1本負けしました。

 実戦原図は、その台風眼となった末國対カスパール戦の終盤の局面(48手迄)です。

実戦原図 は?
 実戦原図で末國は考えました。「黒アとブラックラインを通した形が美しい(1図)。1図から白Cなら黒Aで大丈夫、次に白C1なら黒C2で黒よし(実際は、白C1で白C3と外す絶妙手があって白4石勝になる)。」

 それよりも何よりも、黒は2図という捨て身の反撃(最善の応手)を見落していました。3図以後は実戦は終局迄双方共に最善手の応酬でした。
1図(実戦)オセロ史を変えた14石損の大悪手黒アウト!!
2図(実戦)剛力(ストロング)・カスパールの捨身の反撃(最善手)
3図(実戦)最善手




一図(正解)最善手
二図(正解)最善手
三図(正解)最善手






四図(正解手順)
黒36−28白



一流オセラーは冒険を好む…コロンブスがアメリカ大陸を発見したのは冒険の結果であり、人がエベレストに挑戦するのも冒険心のなせる技。但し、冒険は危険と背中合せであり、株で大成功して大阪公会堂を国へ寄贈した岩本栄之助は、その後株で大失敗して自殺しています。

 一流オセラーの冒険心は旺盛で危険と背中合せのXの場所も勘と度胸で敢然と踏み込んで行きます。実戦原図では、既に3個のX打ちが打たれていますが、つぶさに分析してみると、いずれも最善手ではなくその度に形勢が揺れ動いているのがオセロの終盤の奥深さ・難しさです。(4石損・逆転、正解上辺C)、(6石損・逆転、正解右上X)、(4石損、正解左辺A)、そして実戦は(14石損・逆転、正解は左辺A)で黒が負けてしまった訳です。

 ブラックライン(右上☆と左下☆を結ぶ線)、ホワイトライン(左上☆と右下☆を結ぶ線)は、空に架かる虹の様に、オセロの終盤で盤上に架かる美しい線で、ブラック(ホワイト)ラインを通したまま勝てば最高の喜び 末國名人が実戦原図からとブラックラインを作ったのも冒険心のなせる技だったのです。

 しかし、この冒険に失敗した1敗は、オセロの歴史に影響を及ぼす程の大事件(日本側にとって)に直結して行ったのです。即ち、末國が実戦原図で冒険心を起さずに慎重に読んで一図(正解)と打って勝っていたら、翌日の準決勝の組合せは末國対ホーン(ドイツ)、シーリー(アメリカ)対後藤になり、そして多分決勝3番勝負は末國対シーリー(又は後藤)となった筈で、たとえ現実と同じ決勝の組合せ・末國対シーリーとなったとしても、この場合は末國自身の内容が違う(気力・体力・追い風が充実しているから実力+αになる)から、現実のようには決してならなかったでしょう。

 しかしながら、勝負の世界で“もし”は許されません。現実はこの1敗が直接の原因となって、翌日の準決勝3番勝負は末國対後藤(強力な仲間同士の共食いの消耗戦)という最悪の組合せ(日本選手にとって。シーリーにとっては最高の組合せ。)が実現してしまったのでした。

2. オセロ最近の話題

A. 第28回世界オセロ選手権大会の開催

 ロンドンで2004年11月12〜15日に開催される世界大会に出場する3人の日本代表・末國誠九段(名人)、為則英司九段(全日本チャンピオン)、木下央子五段(全日本女子チャンピオン)は、前回紹介しました。オセロ王国日本を代表する最強のこの3選手の活躍に期待

 オセロは今や世界のオセロです。20世紀にはオセロ王国日本の代表選手が80%の確率で優勝していた世界オセロ選手権大会も、21世紀に入ってからは3回共優勝したのは外国の選手・ローズ(アメリカ)、シェイマン(オランダ)、シーリー(アメリカ)でした。今回出場を予想される外国人選手達の中から、優勝候補を強引に3人に絞って示します。上記日本代表との決戦は如何?

ベン・シーリー
Ben Seely(アメリカ)
デイビッド・シェイマン
David Shaman(オランダ)
アンドレア・ホーン
Andreas Hoehne(ドイツ)
現世界チャンピオン。
1983.1.16カリフォルニア生れの21才。2000年1月から本格的にオセロを始め、わずか3年10ヶ月で世界一になった天才オセラー。高い知性と誠実な人柄を備えたこの若人に世界が注目している
第26代世界チャンピオン。 鉄腕・シェイマンといわれ、世界選手権決勝進出6回(新記録)その半分の3回優勝。日本代表2人を3番勝負で次々と打ち破ったこともある鉄腕は健在 (弁護士)。 現世界3位。
ドイツの大哲学者カントを彷彿させるこの風貌、深い思索から繰り出される着手 昨年の世界大会では、全日本チャンピオン・後藤宏七段と2度戦って2度勝っている

B. 第30回世界オセロ選手権大会は日本で開催(2006年秋)

I. 開催場所……茨城県水戸市に決定

実行委員長小出雅人(日本オセロ連盟専務理事)
副実行委員長鬼澤慎人(日本オセロ連盟水戸支部長)
副実行委員長小早川文樹(日本オセロ連盟監査役)

の3氏が核となってこれから準備開始です。「まだ2年あるではなく、あと2年しかないが実感です。」と小出氏は語りました。

II. 実行案の一部を公表

これは、先日の日本オセロ連盟の理事会に正式に議題として提出されたもので、「第30回世界オセロ選手権大会と同時開催の形で、第1回世界女子オセロ選手権大会を開催しよう」という案です。

Othello World Championship 2003 を見ると、

( )内の数字はブライトウェル係数
32位 6勝7敗 (942) Liya Ye(中国)…写真
33位 6勝7敗 (907) 山中 真美(日本)
45位 5勝8敗 (800) Magdalena Rogosz(ポーランド)…写真

等、日本代表の山中真美女流名人と既に互角の勝負をしている外国の女子オセラーの活躍が目を引きます。これから2年間世界にPRして、2006年秋に第1回世界女子オセロ選手権を是非日本で実現したいと思ってます。

Liya Ya選手
(中国)

M.Rogosz選手
(ポーランド)






(2004年11月1日 長谷川五郎 記)




百人の物語 > (第22回)21世紀のオセロ展望

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