百人の物語 > (第23回)第28回世界選手権大会


オセロ史を飾った百人の名選手の物語(第23回)


1. 第28回世界オセロ選手権大会、ロンドンで盛大に開催
日時、開催国、場所、参加国、参加選手
1 個人戦優勝、ベン・シーリー(アメリカ)
2 団体戦優勝アメリカ
A. 世界オセロ選手権2連覇を達成した鉄人・ベン・シーリーに聴く (インタビュアー、日本オセロ連盟事務局長・黒川幸明
注1… 前年(2003年)優勝した時のシーリーの応答(聴き手、村上健)
注2… 第26期オセロ名人戦(世界オープン、2005.3.20.東京)に出場表明したベン・シーリー
B. 第28回世界オセロ選手権大会予選リーグ (2004年11月13〜14日、イギリス・ロンドン)
1 予選リーグ参加の世界23カ国62選手の激闘譜403局
2 予選リーグ・ベスト10選手の横顔
3 大会の華として善戦健闘した女性オセラー達
4 予選リーグ・ベスト10傑の戦績一覧(参加62選手の激闘の結果)
C. 第28回世界オセロ選手権予選リーグ特選譜
ラウンド、今大会の台風眼となった鬼神為則対怪力ニコレ戦
“剣道の極意・身を捨ててこそ浮ぶ瀬もあれ”・ニコレが打った渾身の勝負手
ラウンド、早くも大波乱 シーリー、ニコレ、シェイマンに土
第1日目予選会場を席巻(せっけん)した木下央子旋風
ウンド
ラウンド、世界チャンピオン・鉄人・シーリーの心胆を寒からしめた木下央子の勝負手のX打ち
D. 予選リーグ第2日目特選譜13 ラウンド、2004.11.14)
1 ゴール直前に転んで(1敗して)無念の予選落ちした為則、ベルグ、ニコレ
2 金棒(かなぼう)を持った鬼神為則の闘う勇姿を見られなくて残念
3 全日本チャンピオン、為則が、金棒を持った鬼神に変身した時の強さ
4 12 ラウンド、当選か、落選かを此の1局に賭けた鬼神為則(黒)対A.ホーン(ドイツ)戦のこの場面
2. 第28回世界オセロ選手権大会決勝トーナメント (2004.11.14.ロンドン、40分持、3番勝負)
Ben Seely(アメリカ)連覇 末國 誠をストレートで破る。
A. 決勝トーナメント全6局の棋譜を見て、オセロ有段者乙は言った
B. 神秘技・空気投げ(柔道)はオセロにもあった!?
1 柔道家・三船久蔵十段の空気投げ
2 21世紀のオセロ界に登場した“空気投げ”!?
C. 赤外線カメラで見た決勝トーナメント全6局。続々と見えてきた人間味溢れる面白い内容とこの局面
1 準決勝3番勝負第2局、(黒)シーリー対ホーン(白)戦(天王山をめぐる攻防
2 決勝3番勝負・末國誠対ベン・シーリー戦について





1. 第28回世界オセロ選手権大会、ロンドンで盛大に開催

日時…2004年11月12〜15日  開催国…イギリス
場所…Selfridge Hotel (イギリス、ロンドン)
参加国…23カ国  参加選手…62名

1 個人戦ベスト4
優勝 Ben Seely(アメリカ、21才)連覇
準優勝 末國 誠(日本、27才)
3位 Brian Rose(アメリカ)
4位 Andreas Hohne(ドイツ)
2 団体戦ベスト4
優勝 アメリカ
準優勝 ドイツ
3位 日本
4位 フランス

A. A世界オセロ選手権大会2連覇を達成した鉄人・ベンシーリーに聴く インタビュアー
日本オセロ連盟事務局長
黒川幸明


Q.2年連続優勝おめでとう。
 ありがとう。本当にうれしいです。

Q.オセロの好きなところは?
 とてもシンプルなルールと複雑な戦略、そしてダイナミックでプレイヤー仲間も楽しい。 人の性格を知るにも大変良いし、洞察することは自分の人生にも生きてきます。

Q.オセロを始めたころと現在と練習時間はどうですか?
 本格的に始めたころはコンピューターで毎日の様に、遊びました。いまは試合前にインターネットで練習をし、コンディションに注意してます。17歳ではじめて5年になりますが、最初のころに比べて今年は少なくいまは週に数回です。練習と言うより楽しんでやってます。出来るだけいやにならないような練習方法でやり、特にインターネットで楽しんでます。

Q.昨年と今年と較べて調子とか内容はどうでしたか?
 昨年より今回の方が自分自身で、安定したプレイが出来、満足してます。 今年の方がよくまわりが見え予選から予定通り試合運びが出来ました。

Q.昨年の大会と今年の大会を較べて大きな違いはなんですか?
 特に今年は上位の人達のレベルがあがっており、強い人が沢山いました。末國さん、為則さん、ローズさん、そのほかにもうまい人が何人もいました。全体のレベルも確実にアップしてるし、良く研究してると思います。特に為則さんは過去に何回もチャンピオンを取ってるし、警戒してた一人でした。また末國さんとは昨年決勝戦で戦ってますので、作戦通りできました。対局が終わってからも、熱心に試合を申し込まれその中に強い人、これから強くなりそうな人もいました。皆熱心に試合を申し込まれその中に強い人、これから強くなりそうな人もいました。皆熱心に研究してます。

Q.世界大会に対しての作戦はありましたか?
 特にありません、強い人の定石もわかってましたから対策はありませんでした。

Q.決勝戦ではリンゴをかじったり非常に余裕があるように見えましたが?
 非常に緊張するので、リラックスさせる為にリンゴを食べたり、コーヒーを飲んでます。特に水分の補給には神経を使ってます。

Q.連続優勝の自身はありましたか?
 勿論ありました。

Q.オセロの他に趣味はなんですか?
 ハイキング、フリスビー、で、もっと友達を作りたい。

Q.最後に日本のプレイヤーについてアドバイスをお願いします。
 う〜ん 自分はこう思います。日本人の選手は日本人同士でプレイする事が多いと思いますが、そうするとなかなか自分の弱い部分がわからないし、みな同じ様な内容になると思います。もっともっと外国の選手と対局をすれば色々な経験が出来るしそれが大事です。インターネットでもヤフーだけでなく色々なウェブサイトでやれるし、自分の場合には日本人も中国人もヨーロッパの人、勿論アメリカ人ともプレイするし、そうすれば自分の欠点も又強い面もわかります。今回は予選で末國さんに負け、ブライアンにも負け、そして自分の欠点を修正しました。そして弱い部分がわかれば確実に強くなります。

注1…昨年(2003年)の第27回世界オセロ選手権決勝3番勝負(11月1日)も、今回と同じ、ベン・シーリー対末國誠で戦われ、その時もシーリーの2連勝で幕となってます。その時、シーリーは、村上健九段のインタビューに次のように答えています(オセロニュース第80号)。

Q末國誠名人に勝てると思っていましたか?
 Yes しかも、それほど苦労せずに勝てると信じていました。勿論これは末國さんを侮辱するものではありません。彼は今でも多くの選手に「世界最強」だと考えられています。現在誰が最強なのか私には分かりません。為則さんが史上最強だと思いますが、末國さんも少なくとも数年間は確実に世界の最強者だったし、その後も世界チャンピオンになれる力を維持していると思います。しかし、それでも、もし私がガードを固め、末國マジックにかからないように細心の注意を払って打てば、必ず勝てると思いました。「彼は私が一番間違えやすいように打ってくる」ということを常に意識して打った結果、今回の決勝で末國さんの打った手のほとんどは、私が対局中に予想した手か、私が大会前に詳細に研究していた手でした。ガードを固めるというのは消極的に打つことではありません。末國さんに挑まれれば危険な闘いをも辞さない覚悟でした。私の唯一の目標は一手一手を徹底的にチェックし、決して自分の読みと感覚から外れた手を打たない、ということでした。今回(27回世界決勝3番勝負)は、幸いにも、自分の着手に自信を持って打ち進めることができました。

Qあなたのライバルは誰ですか?
 自分自身が最大のライバルです。負けるときは、自分に負けるのです。

注2…実力と結果に裏打ちされた自信満々のシーリー選手の応答はアメリカ人特有の明快さです。連覇する自信は「勿論あった」、決勝3番勝負も「末國さんとは昨年も決勝を戦っているので、今回も作戦通りの出来ばえだった」と思っていることを素直に、堂々と答えています。
 「敵を知り、己を知れば百戦して危うからず」という孫子の兵法を実践し続ける鉄人・シーリーは、早くも今年の日本の第26期オセロ名人戦(世界オープン、予選なしで誰でも参加できる、2005.3.20.東京)にも出場を表明しています。「まだ1度も会ったことのない日本のトップオセラーの村上さん、滝沢さん、冨永さん、中島さん、谷田さん達とも、日本の土俵で是非戦ってみたい」と黒川氏に語りました。

B. 第28回世界オセロ選手権大会 予選リーグ
(2004年11月13日〜11月14日)

 毎年秋に4日間にわたって開催されるオセロのオリンピック・世界オセロ選手権大会は、世界各地で行われているオセロ大会の総決算。年々上昇し続ける優勝するためのバーレベルの高さ。20世紀には24回のうち19回優勝したオセロ王国日本代表でしたが、21世紀に入ってからは日本代表のトップの成績は3位、5位、2位、2位(今回)でした。

 各国選手の代表枠は3名で、日本代表は末國誠九段(春の名人戦無差別の部優勝・連覇)、為則英司九段(夏の全日本選手権無差別の部優勝)、木下央子五段(夏の全日本選手権女子の部優勝)という最強トリオ。2004年11月13日午前9時30分、場所はロンドンのSelfridge Hotelの大広間で、各国代表62人の選手全員が一斉に予選リーグ第1局を開始

 世界オセロチャンピオンの座に到達する迄の道程は、山あり川ありの長丁場で、まず各国代表選手全員が、予選リーグ13局(1局の持時間各30分、秒読みなしは、1局ごとに百メートルを全力疾走するような厳しい条件)を、まる2日かけて打つ大マラソンレースが展開されます。1局打つ度に、全選手の現在のランキングが即座に張り出され、オリンピックのマラソンレースさながらの緊張感です。全員が第13局を殆ど同時に打ち終えて第1のゴールに入るのは翌日の夜で、4位迄にゴールインした選手だけが当選で、その時5位以下の選手は総て予選落ちという厳しさです。ゴール直前に抜かれて落選してしまった例も枚挙にいとまなしです。 前回(2003年秋)の第27回世界オセロ選手権大会予選リーグでは、第12ラウンド終了時で全選手のトップを走っていた剛力(ストロング)・カスパール(フランス)は、最終局第13ラウンドで全日本チャンピオン・後藤宏に敗れたため9勝3敗1引分となり、アッという間に無念の予選落ち(もし、後藤に勝っていれば10勝2敗1引分で1位で悠々予選通過だったのに)

 今回も、全日本チャンピオン・為則英司は第10ラウンド終了時では2位でしたが、続く第11,12ラウンドを連敗したため、シーリー、末國、ホーンに次々と抜かれ、最終ラウンドは勝ったが結局9勝4敗第5位で残念・予選落ち!!

1 予選リーグ参加の世界23カ国62選手の激闘譜403局

 予選リーグは、62人中58人が予選落ちするという過酷な闘いの連続ですが、厳しさの中から名局も生まれます。一流選手でも容易にベスト10入りできないのが世界の壁であり、逆にベスト10入りした選手は文句なしの一流オセラーです。下記一覧表を見ても、シーリー、ローズ、末國、ホーン、末國は優勝候補に挙げられていた超一流オセラー。ベルグはベスト4に入ったこともある3度目のベスト10入り(21世紀)。スペランディオは前回も6位。ニコレはフランス・オセロチャンピオン(決勝でカスパールに2連勝)で、世界準優勝したこともあり、今大会の大穴、台風眼になるかも知れないと噂された強腕……。

2 予選リーグ・ベスト10選手の横顔順位、勝星、(ブライトウェル係数)

11 (1175) 11 (1105) 10 (1156) 9.5 (1093) 9 (1150)
Ben
Seely
Brian
Rose
末國 誠 Andreas
Hoehne
為則 英司
3年連続して予選1位 連覇を狙うぞ 21世紀最初の世界チャンピオン。筋金入りのベテラン。 後半は意外に苦戦したが、やっぱり末國は強かった。シーリーとの決勝が待たれる 12ラウンドで為則を直接対決で破って、2年連続当選 12ラウンドでホーンに敗れたため、何と0.5勝差で惜しくも予選落ち

9 (1087) 8.5 (1091) 8.5 (1028) 8.5 (1018) 10 8 (1047)
Matthias
Berg
Stephane
Nicolet
Roberto
Sperandio
Donato
Barnaba
Miroslav
Voracek
セラン(52位、スペイン)に負けた1敗が痛く、予選落ち、この順位。 13ラウンドでベルグに勝ってれば4位になれたのに、残念だ OH(47位)に負けた1敗が祟って予選落ち、この順位 29位と引分け34位に負けた女性にやさしいイタリアの強豪。 末國を破った新鋭。初めてのベスト10入り。

3 大会の華として善戦健闘した女性オセラー達

29 6.5 (961) 34 6 (1003) 48 5 (854) 54 5 (782) 60 3.5 (689)
Velma
Fu
木下 央子 Jan
Stastna
Liya
Ye
Lisa
Boardman
Hong Kong
ホンコン
Japan
日本
Czech
チェコ
China
中国
Australia
オーストラリア

 世界63億人の半分31億5000万人は女性。世界各地で発売されているオセロのキャッチ・フレーズは“A minute to learn,a lifetime to master”(覚えるのは1分、究めるのは一生)。老若男女総てに愛されているのがオセロです。先頃行われた水戸市長杯小学生オセロ選手権大会では170人の小学生が参加、そのほぼ半数が女子生徒だったのもオセロならではの特徴で、何と優勝したのは女性の石橋愛奈さん(浜田小6年)でした。

 現在、日本のオセロ競技人口は6000万人といわれていますが、その半分3000万人は女性で、その頂点に立っているのが全日本女子チャンピオン・木下央子五段です。オセロ発祥の地・日本では32年前の第1回全日本オセロ選手権大会以来常に無差別、女子、小学生別で毎年大会を開催しておりますが、世界選手権は要するに世界最強のオセラー(オセロ・プレイヤー)は誰かを決める大会なので其処では男性女性の区別なしです。男子強豪陣の中で、女子オセラー達は如何に戦ったか?

4 予選リーグベスト10傑戦績一覧
(参加23カ国、62選手全員が13局打った。於ロンドン)

予選リーグ・ベスト10傑 第1日目、2004年11月13日 2日目、2004年11月14日


ブライトウェル係数 名\ラウンド 10 11 12 13
11 1175 B.シーリー
(アメリカ)

末國

ボラセック

木下

ローズ

ニコレ

為則

ベルグ

フェルドボーグ
11 1105 B.ローズ
(アメリカ)

フェルドボーグ

末國

ベルグ

ニコレ

為則

ボラセック

スペランディオ

ホーン
10 1156 末國 誠
(名人、日本)

シーリー

ローズ

リーダー

為則

ニコレ

ボラセック

ホーン

スペランディオ

ラザール
9.5 1093 A.ホーン
(ドイツ)

カミュイス

スペランディオ

ニコレ

カスパール

V.フウ

末國

バルナバ

為則

ローズ
1150 為則 英司
(全日本チャンピオン)

ニコレ

ブライトウェル

末國

ローズ

バルナバ

ベルグ

シーリー

ホーン

ボラセック
1087 M.ベルグ
(ドイツ)

セラン

ローズ

スペランディオ

為則

シーリー

ニコレ
8.5 1091 S.ニコレ
(フランス)

為則

木下

ホーン

フェルドボーグ

ローズ

末國

シーリー

ベルグ
8.5 1028 R.スペランディオ
(イタリア)

オウ

ホーン

ベルグ

末國

ローズ
8.5 1018 D.バルナバ
(イタリア)

V.フウ

J.フウ

木下

リーダー

為則

ホーン
10 1047 M.ボラセック
(チェコ)

ドウセ

シーリー

末國

ローズ

J.フウ

為則
34 1003 木下央子
(全日本女子
チャンピオン)

ビゲラー

ニコレ

ピラジャプロ

バルナバ

シーリー

ベルグ

シフマン

ハンデル

ホウグランド

R.ベルグ
(引き分け:△は0.5勝、引き分け2個なら1勝として計算される。)

C. 第28回世界オセロ選手権予選リーグ特選譜

David
Shaman
Emmanuel
Caspard
Karsten
Feldborg
Imre
Leader
Graham
Brightwell
(オランダ) (フランス) (デンマーク) (イギリス) (イギリス)
優勝3回。準優勝3回。今回は 準優勝2回。第27回5位。 準優勝1回。第25回8位 準優勝1回。第26回3位 準優勝3回。第24回6位。
26位7勝 24 7勝 12 8勝 13 8勝 21 7勝

 今回はベスト10入りをしなかったが、上掲5選手もいずれも決勝3番勝負を時の全日本チャンピオンと死闘を演じた記憶も生々しい百戦錬磨の闘将で、追い風さえ吹けば即優勝も狙える実力者。こうしたベテラン、新鋭入り乱れて62選手が丸2日間にわたって競い合う大マラソンレースで4位以内に入る当確ラインは10勝(3敗)で、特に2日目は成績上位者同士がどんどん当り、星の潰し合いとなるので2〜3敗は覚悟しなければならず、初日に伏兵に不覚の1敗をすれば即命取りになる厳しさです。今回ベスト10入りしながら落選(4位に入れなかった)した為則、ベルグ、ニコレ、スペランディオ等の選手も、皆初日の不覚の1敗がなかったら当選したでしょう。

 フランスは、ポール・ラル、マーク・タステという偉大な2人の世界チャンピオンを出した国ですが、それからこの10年間は惜しい所でチャンスを物にできない状態がずーっと続いております……。

 カスパールは、第17回世界大会では準決勝で全日本チャンピオンをストレートで破って決勝に初進出したがシェイマンに負け(1993、当時、大学院生)。第19回世界大会でもベスト4入りを果したのだが、翌日準決勝の相手が全盛期の鬼神為則で連敗(1995)。第22回世界大会では再び決勝に進出し第3局迄もつれ込んだのだが全日本チャンピオン・読みの村上に際どい惜敗(1998)。第26回世界大会6位(2002)、第27回世界大会では快調に走りトップで予選通過(翌日の初優勝も夢ではない)かと思った矢先の最終第13ラウンドで全日本チャンピオン・後藤宏に敗れ、この1敗だけでアッという間に1位から5位(予選落ち)に転落とは厳しい現実 恨みぞ深し、全日本チャンピオン しかし、やられっぱなしという訳でもなく、剛力(ストロング)・カスパールの巻き起こした数々の暴風雨は、日本代表をさんざん悩ましてきたのも厳然たる事実で、第27回の時も日本代表の末國誠、後藤宏はその翌日その暴風雨に巻き込まれ、徒らに体力を消耗させられる結果となってしまいました(2003年秋)

 ニコレは2004年度フランス・オセロ選手権決勝3番勝負でカスパールを44〜20、54〜10の圧倒的スコアで破って優勝した怪力オセラー。本格的な3番勝負で圧倒的スコアで剛力・カスパールをストレートで破ったのは鬼神為則だけ(1995)で、村上健でさえ第3局迄もつれ込んでいます。(1998)。ニコレは、第20回世界大会決勝で村上健に敗れ(1996)、第24回世界大会準決勝3番勝負第3局(事実上の決勝戦だったとニコレはいう)では51手目をX打ちしなかったばかりに村上健に再び敗れてます(2000、優勝は村上健)。第28回世界オセロ選手権大会(2004年11月12〜15日)を前にして、剛力・カスパールに圧勝したフランスチャンピオン・ニコレは意気軒昂(けんこう)。「今年こそ念願の世界チャンピオンを取るぞ それには、まずベスト4に入ること。決勝トーナメントになれば持時間も長くなり3番勝負だから充分に力を出し切れるし経験もある。鬼神為則が9年振りに全日本チャンピオンとして出場するそうだし、決勝で当ってみたいな。シーリー、末國とも本番勝負してみたいし、今の私は絶好調だ。誰と戦っても負ける気がしない。世界の檜舞台に上って打つ本3番勝負の醍醐味は最高 今迄は、そこで2度共村上健にやられているが、その村上が全日本選手権で為則に敗れて不出場 天敵はいない 今年こそ絶好のチャンス!!

ラウンド、今大会の台風眼となった鬼神・為則対怪力・ニコレ戦

予選1回戦虎D


為則英司 (日本) 29
S.ニコレ (フランス) 35


 世界オセロ選手権大会は、組合せ・先後手・順位等がピタリと決るブライトウェル(イギリス・ケンブリッジ大学教授・数学、上掲写真)方式で運営されています。準決勝3番勝負の対戦相手、第1局の先手・後手も自動的に予選順位で決り、1勝1敗になった第3局の手番選択は2局迄の獲得石数の多い方(それも同じなら予選順位上位者)で、そこに運の入り込む余地(囲碁の握り、将棋の振り駒等)は全くないのが特徴です。但し、予選第1ラウンドの組合せだけは、62人の選手全員がクジを引いて決めます。前夜祭(ウェルカム・パーティー)の席上での抽選の結果は、何と為則英司(全日本チャンピオン)対ステファン・ニコレ(フランスチャンピオン)、早くも東西両横綱同士の決戦の実現(上掲棋譜) 為則が初戦を落したこの1敗の波紋は、後に暴風雨となって日本選手団を直撃することとなり、為則はその激流に流されてしまい(0.5勝差で予選落ち)、嵐に耐えて孤立無援で奮戦した末國も決勝で残念乍らシーリーに返り打ちされるという冷厳な現実となってしまいました。

 超一流選手間の実力差は紙一重で、その時の流れも勝負を決する重要な要素となります。大相撲年間6場所のうち(2004)年間5場所を制した最強の横綱朝青龍も、9月場所だけは9勝6敗でした。九州場所(11月)で横綱昇進を賭けた大関魁皇(かいおう)は格下の相手琴光喜、白鵬、雅山(みやびやま)に敗れて12勝3敗となって昇進見送り。13勝2敗なら無条件で横綱昇進だったのに、対雅山戦(これ迄の対戦成績は魁皇の12勝4敗)のこの1敗は、唯の1敗ですが、実は大相撲の歴史を変えてしまった重大な1敗となりました。

“剣道の極意・身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ”・ニコレが打った渾身の勝負手

 (予選第1ラウンド、2004.11.12)

実戦原図
(為則・ニコレ戦)
は?
(実戦)1図
ニコレが打った渾身の勝負手
(正解手順)2図
必然の進行…





 は、黒☆と打たれるのが見えている危険な手だが、これが今大会の台風眼となってオセロ史を変えた絶妙の1手でした。3図となっては不利と判断した為則は、1図以降いろいろと手段を尽くし、一時(いっとき)は2石差迄迫ったのでしたが、終に逆転できず 1回戦早くも鬼神為則が敗れたのは嵐の前兆か?実際、この1敗が遠因となって為則は予選落ちし、オセロ史は変ってしまったのでした。



(正解想定図、黒番)3図
白、4石リード



ラウンド、早くも大波乱 シーリー、ニコレ、シェイマンに土


予選3回戦虎1

予選3回戦虎D

予選3回戦虎2
末國 誠 (日本) 38
B.シーリー (アメリカ) 26
木下 央子 (日本) 48
S.ニコレ (フランス) 16
G.ブライトウェル (イギリス) 46
D.シェイマン (オランダ) 18
 世界チャンピオン・シーリー、前回の世界チャンピオン・シェイマンが破れましたが、その相手が末國、ブライトウェル(世界決勝3番勝負を為則と2回、末國と1回争った実績を持つイギリスの天才オセラー)と知って皆納得。しかし、初戦で為則を破って2連勝中の優勝候補の1人・怪力ニコレ(フランスチャンピオン)に圧勝したのが、大会前には話題にも上らなかったうら若き女性(木下央子)だったので皆の注目を浴びることになりました。この末國対シーリー戦は、オセロニュース第83号掲載の末國の自戦解説を参照されたし。

第1日目予選会場を席巻した木下央子旋風 ラウンド


予選4回戦虎2

予選4回戦虎3

予選4回戦虎2
B.ローズ (アメリカ) 36
K.フェルドボーグ (デンマーク) 28
B.シーリー (アメリカ) 39
M.ボラセック (チェコ) 25
為則 英司 (日本) 37
G.ブライトウェル (イギリス) 27


予選5回戦虎1

予選5回戦虎D

予選5回戦(山手線
外廻り)
末國 誠 (日本) 34
B.ローズ (アメリカ) 30
A.ホーン (ドイツ) 30
S.ニコレ (フランス) 34
木下 央子 (日本) 38
D.バルナバ (イタリア) 26


予選6回戦虎2

予選6回戦兔1

予選6回戦兔1
M.ベルグ (ドイツ) 30
B.ローズ (アメリカ) 34
I.リーダー (イギリス) 12
末國 誠 (日本) 52
S.ニコレ (フランス) 42
K.フェルドボーグ (デンマーク) 22


予選7回戦虎1

予選7回戦虎D

予選7回戦虎2
末國 誠 (6勝) 28
為則 英司 (5勝) 36
B.ローズ (5勝) 48
S.ニコレ (5勝) 16
木下 央子 (5勝) 30
B.シーリー (5勝) 34

 好成績者同士はどんどん当ります。 ラウンド、3連勝同士・ローズ対フェルドボーグ(デンマークオセロ連盟会長・決勝3番勝負を滝沢雅樹と戦ったこともある強豪)、2勝1敗同士(ここで又1敗するようなら、もう当選は絶望的 もっと厳しくなる残りを8勝1敗できるか?)のシーリー対ボラセック、為則対ブライトウェル戦 2敗を喫したボラセック、ブライトウェルはトップ集団から遅れることになりました。

 戦いはまさに酣(たけなわ) ラウンド、絶好の取組みも続出。全勝対決・末國対ローズ(第25代世界チャンピオン、2001年)は末國が勝って唯1人5連勝 ホーン(ドイツチャンピオン)対ニコレ(フランスチャンピオン)はニコレが勝って4勝1敗でトップ集団に残り、木下央子もバルナバ(イタリア・チャンピオン)を破って4勝1敗(3勝2引分だが、引分は0.5勝0.5敗)でトップ集団を走り続けます。

  ラウンド、トップ集団内での揺さぶり開始 ベルグ(ドイツ)はローズに惜敗して一歩後退。リーダー(イギリス。第26回世界3位2002年。決勝3番勝負を昇り竜・石井健一と争ったこともあるケンブリッジ大卒の数学者)は末國のKOパンチを食って4勝2敗となり、続く7回戦でバルナバに敗れて3敗となり脱落。フェルドボーグもニコレの怪力に屈し、続く7回戦でベルグに敗れて3敗となり脱落。木下央子は4勝1敗のイタリアのP.スタンジオネと対戦し、42対22のスコアで圧勝して5勝1敗で悠然としてトップ集団を走り続けます…毎回上位に張り出される唯1人の女性オセラー Hisako Kinoshita (Japan)、ここに来て62人の選手、関係者計100人を越える人達の話題になり、俄然注目の的となったミス・木下 そして、第7局目の相手が、世界チャンピオンの鉄人・シーリーと発表されて会場は騒然となりました。一方、木下に敗れたスタジオネは4勝2敗となり、続く7回戦でボラセック(チェコの新鋭、ベスト10入賞者)に敗れて3敗となり脱落。

予選第1日目終了時の順位


ブライトウ
ェル係数
選手名
488 末國 誠 日本
474 B.シーリー アメリカ
461 為則 英司 日本
449 B.ローズ アメリカ
432 木下 央子 日本
430 S.ニコレ フランス
423 M.ボラセック チェコ
416 B.シフマン イスラエル
  ラウンド31局が終了したのが2004年11月13日午後9時、対局開始が午前9時30分でしたから、実に11時間30分かけの大マラソンレース前半の終了(翌日は4位当選を目指して更に厳しいレース展開が予想される)

 トップ第1集団(6勝)は世界チャンピオン経験者勢揃いという壮観 1差で追う第2集団のトップを走るのが木下央子(第7ラウンドでシーリーに惜敗しても、この成績 もし、勝っていたら日本代表3人が上位独占した所だった。)B.シフマンは世界5位になったこともあるイスラエルの若手強豪。

ラウンド、世界チャンピオン・鉄人・シーリーの心胆を寒からしめた木下央子の勝負手のX打ち (予選リーグ第7ラウンド、2004.11.13、p.m.8.30

1図(実戦原図)
木下対シーリー戦
は?
(2図)シーリー陣に一気に突入した木下央子の勝負手のX打ち
(3図)最強の防衛手を放って、剣が峰で堪えるシーリー




(4図)悠然と1石返して手待ち。早くも黒必勝態勢を確立
 2図のX打ちは、ジャンヌ・ダルクを彷彿させるような気合い鋭い攻め込みで、鉄人・シーリーも意表を突かれて内心「シマッタ」と叫びました。しかし、流石(さすが)シーリー、と最強抵抗(黒☆なら、白Cと打って手を渡す)。その手には乗らず、悠然とと打って逆に手を渡し、白の方から動けと催促(黒8石リード。で黒☆は4石損)した黒の打ち回しは完璧(4図)しかしながら………5〜6〜7図

5図(実戦) は?
正解左上☆。実戦左辺A(2石損)
6図(実戦) は?
正解左上☆。実戦ア(4石損)
7図(実戦) は?
正解A1。実戦C(6石損、逆転




8図(7図からの正解手順)
黒33−31白




 しかしながら、1手打つごとに情勢がガラリと変って行くのがオセロ。3図では黒の左上☆打ちは悪手(4石損)でしたが、5図(黒☆で8石リード)、6図(黒☆で6石リード)ではズバリ☆打ちが最善手です。3図の局面(黒☆は白のワナで悪手)が先入観念となって、5図、6図でも黒は最善手(☆打ち)を逃し、石損の悪手を重ね差はぐんぐんと縮まりました。

 そして第7図、A1ならば黒の2石勝、☆引分、C4石負、C1は一見して論外の手で24石負。そこで黒の打った手はCで、さしもの黒の好局もここで逆転以後は双方共最善手。

D. 予選リーグ第2日目特選譜13 ラウンド、2004年11月14日)


予選8回戦虎1

予選8回戦兔1

予選8回戦
為則 英司 (日本) 30
B.ローズ (アメリカ) 34
S.ニコレ (フランス) 32
末國 誠 (日本) 32
Velma Fu (ホンコン,女性) 30
A.ホーン (ドイツ) 34

 上記3局はいずれも熱戦激闘譜です。敗れた為則は6勝2敗となり第2集団ボラセック、スペランディオ、ベルグの仲間入り。4.5勝同士のホーンとフウはホーンが勝って5.5勝、ホーンはその後4勝1敗とピッチを上げて為則やニコレを追い抜いて前年に続いて当選。フウも女性1位になりました。


予選9回戦闘牛 (大量取り)

予選9回戦虎1

予選9回戦兔A
B.ローズ (アメリカ) 34
B.シーリー (アメリカ) 30
末國 誠 (日本) 30
M.ボラセック (チェコ) 34
M.ボラセック (チェコ) 31
B.ローズ (アメリカ) 33


予選10回戦虎1

予選10回戦兔1

予選10回戦虎D
為則 英司 (日本) 40
M.ベルグ (ドイツ) 24
S.ニコレ (フランス) 23
B.シーリー (アメリカ) 41
A.ホーン (ドイツ) 18
末國 誠 (日本) 46


予選11回戦虎2

予選11回戦

予選11回戦闘牛A
B.シーリー (アメリカ) 41
為則 英司 (日本) 23
末國 誠 (日本) 32
R.スペランディオ (イタリア) 32
A.ホーン (ドイツ) 35
D.バルナバ (イタリア) 29


予選12回戦虎2

予選12回戦

予選12回戦虎2
M.ベルグ (ドイツ) 27
B.シーリー (アメリカ) 37
為則 英司 (日本) 30
A.ホーン (ドイツ) 34
S.ニコレ (フランス) 31
M.ベルグ (ドイツ) 33

予選13回戦闘牛


B.ローズ (アメリカ) 14
A.ホーン (ドイツ) 50


1 ゴール直前に転んで(1敗して)無念の予選落ちした為則、ベルグ、ニコレ

 昨日(2004.11.13)午前9時30分に一斉にスタートしてから、走り(戦い)続けること実に20時間余り、今やっと当選のゴールが見えて来てからの上記の1敗が祟って、為則、ベルグ、ニコレは、2日間にわたっての善戦健闘も空しく、惜しくも予選落ちになってしまいました。

2 金棒(かなぼう)を持った鬼神為則の戦う勇姿を見られなくて残念

 日本のオセロファンが最も残念がったのは、わずか0.5勝差で為則が予選落ちしてしまったことでした。初戦の対ニコレ戦の不覚の1敗が遠因

 『鬼に金棒といいますよね。鬼神為則が金棒を持ったら(40分持ちになったら)それこそ天下無敵 その鬼神為則に金棒を持たせるチャンスなしに、はいさようならとなってしまったのは本当に惜しい 勝負の世界では、“もし”は絶対に許されないのは充分承知の上で、敢(あえ)て言わせて貰えば、もし、上記第12回戦・為則対ホーン戦(並べて見れば明らかだが、為則が勝を決める局面は何回もあった)で為則が勝っていたら、翌日の準決勝(40分持)3番勝負で、鉄人シーリー対金棒を持った鬼神為則の一騎打が実現した筈、予選の進行ごとに掲示される順位の変動に一喜一憂しながらも、ゴールが近づくにつれ、明日はいよいよ久しぶりに此の天下分け目の決戦が見られるぞと我々は胸をワクワクしていました。そうなった時は、たとえ勝敗の結果がどうなろうと大激戦の死闘になることは必至で、世界のオセロファンは、充分にその内容を堪能(たんのう)できたでしょうし、オセロの歴史も変ったものになっていたでしょう。

 …それなのに、現実の決勝トーナメントは、準決勝3番勝負、決勝3番勝負共、全局、スリルもサスペンスもないワンサイド・ゲームになってしまったですね!? むしろ、その前、2日間にわたって展開された大マラソンレース(予選リーグ403局)の中の方にこそ、血沸き肉踊る内容の激闘局が沢山見られます。』とオセロ有段者甲からのtel。

 かつて、デイリースポーツのF記者が「1本の電話の裏には、1000人の声が隠されています。」と筆者に語っていましたが、上記の声も一般の1000人のオセロファンの声を率直に代弁している様な、物事の核心をズバリ突いている忌憚なき傾聴すべき意見です。

3 全日本チャンピオン・為則が金棒を持った鬼神に変身した時の強さ

 秒読みなしのオセロの勝負は、半面秒単位で迫ってくる時間との戦いでもあるのです。

 オセロは1局で自分の打つ手は30手(計60手)のゲーム。全日本選手権大会(20分持)に於て、為則は、初めの15手(計30手)に17分をフルに使って局面を紙一重でも有利に導き、後は1手2秒で決断し、2秒で石を返し、1秒で対計時計を押す動作を15回繰り返す、これで為則は前人未踏の全日本選手権6回優勝という大記録を樹立しています。尤も、その間には終盤で秒に追われてのアクシデントもありました。第31回全日本オセロ選手権(2003年夏)予選Bリーグ決勝・末國対為則戦では、為則が60手目を打ち、急いで石をパタパタと返している最中に手がすべって1個の石が床に転り落ちてしまい、それを拾っているロスタイムが計算外で時間切れ負け(盤面では2石勝っていた)。

 世界オセロ選手権予選リーグ(30分持)でも、為則はこの方式で過去5回共常に8割を越える勝率で悠々予選通過(今回のみは、初戦でフランスの怪力・ニコレの意表のパンチを食って負けた1敗の影響は最後迄尾を引いて、結局この1敗のために予選落ち。直接の原因は、12ラウンドのホーン戦に敗れたためだが、これは時間に追われたとはいえ、勝ち筋を何回も逃しているのだから、30分持ちの本人の実力?)

 しかしながら、
いざ鎌倉 一旦、世界オセロ選手権決勝トーナメント(40分持)の檜舞台に上ると、為則は大変身します。徹底的に考える序中盤、それでいながら終盤も充分に時間がある。お互いの長い持時間は相手の考慮中は同時にそれはこちらの持時間。死角なし。5回上った檜舞台での準決勝3番勝負、決勝3番勝負を計10度戦って、全部鎧袖一触(がいしゅういっしょく)のストレート勝の20戦全勝という物凄さ 人間離れしたこの余りの強さに圧倒された人々は、“金棒を持った鬼神”のようだというようになりました。ニックネーム鬼神為則の誕生です。

 世界選手権3回優勝の鉄腕(パワフル)・シェイマンも、読みの村上も準決勝又は決勝の3番勝負を何回もフルセット戦っているし、現在世界2連覇中の鉄人・シーリーも前回(第27回世界2003年秋)の準決勝3番勝負はフルセット(1勝1敗1引分の判定勝)戦ってます。シーリーも前掲のインタビューの中で、「史上最強のオセロプレイヤーは為則さんだ。」と述べています。

4 12 ラウンド、当選か、落選かを此の1局に賭けた鬼神為則(黒)対A.ホーン(ドイツ)戦のこの場面

1図は?
2図は?
3図は?













(1図からの正解手順)
黒39−25白
(2図からの正解手順)
黒36−28白
(3図からの正解手順)
黒33−31白



実戦(C)は正解と比べて6石損! (でも、まだ黒8石リード) 実戦(A)は正解と比べて6石損! (辛うじて黒2石リード) 実戦は8石損のX打ち! 終にここで逆転!!

 前局(第11ラウンド)を鉄人・シーリーに敗れて3敗となり、あと1敗すれば落選という背水の陣に立たされた為則(世界戦出場6回目にして初めて遭遇したこの大ピンチ もう絶対に負けられないぞ

 発表された対戦相手はアンドレア・ホーン(ドイツ)、前回世界3位で、全日本チャンピオン・後藤宏に2回当って2度共勝ち、シーリーとの準決勝も1勝1敗1引分(判定負)、この百人物語(22回、2004.11.1記)でも外国人の優勝候補3人を挙げた中の1人の強豪 初対面だが、お互(たが)いの強さは既に熟知している両選手

 “序盤、中盤で時間の大半を使って優位に立ち、終盤はうまく逃げ切る” これが鬼神為則流の必勝戦法です。為則は座り直し、全力投球の構え 持てる力を全部出し切り、序盤戦から中盤戦と時間を湯水のように使いながら秘策を練り、営々と築き上げて行った結果が1図の局面(もう終盤戦に入っている)で、努力の甲斐あって黒が明らかに優勢になっています。しかし乍ら、この時、残り時間はもう僅かしか残っていませんでした。1図は黒優勢だと勘では解っていても、局面そのものは極めて複雑で難解で、時間があってもとても読み切れる代物(しろもの)でありません。そうする中にも、持時間は秒刻みで冷酷に刻一刻と減って行きます。0表示になったら即アウトで時間切れ負け (この日、木下央子はこの時間切れ負けを何と2回もやっている

 初めて追い込まれたこの背水の陣 そしてこの痛烈な時間攻め この2大プレッシャーに同時に襲われた金棒を持たない鬼神為則は、ここで普通の凡人になってしまい、時間切れにはならなかったものの、1図で、2図で、3図でという連続3回の凡手を打って、自ら転んでしまったのでした。

 この1戦の勝敗は重大な結果をもたらすことになりました。0.5勝差でリードしていた為則は、ここでホーンに追い抜かれてしまいました。為則は4敗となり落選し、ホーンは当選して翌日の決勝トーナメントに出場


2. 第28回世界オセロ選手権大会決勝トーナメント (2004.11.14.ロンドン、40分持、3番勝負)




決勝第1局虎1

決勝第2局虎2

準決勝第1局虎1
末國 (日本) 36
シーリー (アメリカ) 28
Ben Seely 35
末國 誠 29
ホーン (ドイツ) 10
シーリー (アメリカ) 54


準決勝第2局闘牛

準決勝第1局虎2

準決勝第2局虎1
Ben Seely 53
Andreas Hohne 11
ローズ (アメリカ) 21
末國 (日本) 43
末國 誠 47
Brian Rose 17

A. 決勝トーナメント全6局の棋譜を見て、オセロ有段者乙は言った

 上掲6局の棋譜は、第28回世界オセロ選手権大会の総決算ですよね。それにしては、これといった見せ場もなしに、全部が一方的な試合展開になってしまっているのはどういう訳でしょうか?唯、決勝の末國対シーリー戦だけは、数字だけを見れば一応接戦に見えますが、内容を検討すると残念乍ら2局共末國の完敗であり、2局共中盤で既にシーリーがリードし、以降は末國にチャンスらしいものもなく、そのまま負けてしまっています。

 “大勝負に名局なし”という有名な格言を地で行ったような結果となっています。超一流選手4人の実力差は紙一重だと思いますが、やっぱり“世界チャンピオンの座”が視野に入った時のプレッシャーなんでしょうか?

 前述した甲も、決勝トーナメント6局については上記乙とほぼ同じ様な意見でした。それが一般オセロファンの意見でしょう。

 特に、2年連続して同じ組合せとなったシーリー対末國の決勝3番勝負は、今回も前回と全く同じパターンとなり、2局共中盤戦の段階でシーリーがリードし、それ以降は末國に逆転のチャンスはなく、音もなくスーッと土俵外に運び出されてしまった感じです。前回(27回世界.2003秋、ストックホルム)も今回も、予選リーグ(30分持)では末國が大熱戦の後、シーリーに勝っていますが、いざ鎌倉 決勝3番勝負(40分持)の檜舞台に立ったとたんに、“終盤の魔術師”・末國の技は完全に封じられ、空気の様に軽く、末國の体は音もなくスーッと土俵の外に出されてしまったこの摩訶不思議な現象!!

B. 神秘技・空気投げ(柔道)はオセロにもあった!?

1 柔道家・三船久蔵十段の空気投げ

 ここで思い起こされるのが、明治末、大正、昭和初期の日本柔道で実力No.1として君臨した小柄(5尺2寸5分、15貫)(159センチ、56キロ)の柔道家・三船久蔵十段の空気投げです。空気投げとは、相手の体に全く触れずに相手を宙に舞わして倒してしまう摩訶不思議な技です。昭和5年(1930)11月15、16日神宮外苑で開かれた柔道大会の2日目、満員の観客の前で行われた高段者乱取りで、関西の雄・佐村嘉一郎七段と対戦した三船久蔵七段は、そこで見せた摩訶不思議な技(空気投げ) 20貫(75キロ)の佐村七段の体はもんどり打って倒れました。……。

 柔よく剛を制す 体は小さくても、大きい者を投げ飛ばしてしまうのが柔道の真髄 柔道・東洋の神秘・空気投げの波紋は世界を駆けめぐって行きました。……。

 昭和39年東京オリンピック・柔道無差別級決勝でオランダのヘーシンク(198センチ、119キロ)は神永昭夫(全日本チャンピオン・100キロ)に1本勝ちして優勝。「もし、ヘーシンクと三船久蔵(159センチ、56キロ)が戦ったらどちらが強いか?」の質問に、柔道家・石黒敬七・八段は、「三船十段全盛期の頃なら、必ず三船十段が勝ったでしょう。」と答えています。

2 21世紀のオセロ界に登場した“空気投げ”!?

 戦後既に60年経ち、柔道は完全体重別になり、空気投げも伝説となってしまいましたが、21世紀の現代のオセロ界に於て、オセロ式空気投げが登場しました。空気投げとは、フッと空気を吹きかけて相手を倒してしまう技ではなく、こちらがちょっと手を添えただけで、弾みで相手がもんどり打って倒れてしまう技で、特に強者同士が大舞台で必死にぶつかり合う場合に起ります。

 具体例を示します。両者共に背水の陣を敷いて闘った予選第12ラウンド・黒・為則対白・ホーン戦(前掲)では、終盤に入って白は殆ど何もしていません。黒がひとりで暴れ回り、挙句の果にひとりでドスンと引っくり返ってしまったのでした(1図、2図、3図参照して下さい。ホーンの空気投げ!?)。

C. 赤外線カメラで見た決勝トーナメント全6局。続々と見えてきた人間味溢れる面白い内容とこの場面

 決勝トーナメントの棋譜を時間をかけて並べて観賞しました。超一流同士が檜舞台で全力でぶつかり合ったその迫力、人間味溢れる面白い内容は流石だと思いました。具体例を示します。

1 準決勝3番勝負第2局、(黒)シーリー対ホーン(白)(天王山をめぐる攻防

1図 と仕掛けた黒C、白ア(天王山)でよし
2図 40分持の強味。十分に読みを入れた 白ギョッ
3図 背水の陣。長孝したがこれ以外の手はなし。




4図、白壁をくずさず、1石返し手待ち 着実な攻め。
5図、白壁厚く、やや苦戦だが悪手さえ打たなければチャンスはある。
6図、急な決め方はしない。1石返して手待ち。白さん動け




7図、天王山打ちを夢見て打った大悪手 白自ら横転
8図、当然の1手。Xは天王山だが、☆が黒の余裕手。
9図、この局面の絶対の1手・天王山に打って、手を渡す




10図、タイミングのよい余裕手の放出 黒の1本勝ち




 「天王山は打て、打たせるな」はオセロの重要な戦術です。1図、「次に白☆と打たれてはたまらないから、黒Cと応ずる1手。そこで白アと天王山に打って充分の形勢だ。」と判断してホーンはと仕掛けたのです。ここはノータイムで黒Cと取る1手と思っていたのに、シーリーは長考 「ハハーン、黒さんは困っているんだな」呑気に構えていたホーンは、2図を見て、ム、ム?そしてギョッ は、『何が何でも天王山を取るんだ。そのための大きな犠牲(白☆で6個の白石が確定)は止むを得ない。』という、正に肉を切らして骨を断つ超強気の1手 世界チャンピオン・シーリーの読みに裏打ちされた絶妙手でした。

 第1局に敗れて背水の陣で臨んだホーン、意表の手を打たれて、苦吟の大長考、「白☆は黒の意中を行くもの。黒の読み筋を外す何かうまい手はないか?やっぱり、白☆に勝る手はない」3図。

 焦らず、騒がず、落着いて、ジワ、ジワと確実な足取りで攻めくる黒(4〜6図)。40分持といえ、大長考した白の持時間は早くも残り少くなってきました。6図で白イなら、まだ充分に粘れることは解りますが、何かジリ貧になるようで気が進みません。あれやこれや考えている中に刻一刻と少くなっって行く残り時間。その時、天王山打ち白X(3手先)の図が閃(ひらめ)きました。これだとすぐ着手したのが7図、そして、その読み筋通り進行して、と天王山に打って黒に手した(9図)迄はよかったのですが、31☆と打たれて逆に白に手を渡された局面(10図)に直面した時又もギョッ、ギョッ!!白アウト

 10図で黒の鮮かな1本勝決定 実際の勝負は7図で白が自ら横転した時決っていて、以後黒はと手を添えただけで空気投げ1本勝です。囲碁、将棋、チェスなら、ここで投了でゲーム・セットですが、投了制度のないオセロなので、10図以後も打ち続け、ヤスリ攻めも食って大差の結果となってますが、このゲームそのものは人間味溢れる面白くて内容の濃い1局です。

1 決勝3番勝負・末國誠対ベン・シーリー戦について

 末國対シーリーの決勝3番勝負については、既に会員の皆さんのお手許に届いてあるオセロニュース第83号に、末國名人及び村上健九段による人間味溢れた
内容の濃い詳細な自戦記及び“シーリー恐るべし”(観戦記)が掲載されておりますので、そちらをご覧下さい。

 日本のオセロ大会は、名人戦、全日本選手権大会をはじめ総て20分持で行われております。然るに世界オセロ選手権大会では予選リーグ30分持、決勝トーナメント40分持です。この持時間の差を如何に上手に利用して行けるかも今後の重要な課題の1つです。

 そして

 来年秋、日本で開催される第30回世界オセロ選手権大会では、無差別の部、女子の部(予定)の両方で、日本代表が優勝を飾れば最高 というのが筆者の夢です。




(2005年1月1日 長谷川五郎 記)



 2003年1月1日から、まる2年間にわたって連載を続けてきた「百人の名選手の物語」は、お陰を持ちまして、今回で無事完了となります。長らくのご愛読有難うございました。

 選手の皆様をはじめご協力頂いた黒川幸明、小出雅人、工藤浩由、佐々木禎行の各氏やオセロファンの方々に厚く御礼申し上げます。

 なお、今後は年3回、名人戦(春)、全日本選手権(夏)、世界選手権(秋)の直後にこの続編を続けて行く所存です。



百人の物語 > (第23回)第28回世界選手権大会

トップページへ戻る
トップページへもどる


Copyright(C) 2004 Japan Othello Association All rights reserved.